第54話 小さい成功

「なぁ――『魂』って何だと思う。キド」




ふと、思い出して私はキドに聞いた。


「魂?魂ってアレかい?僕達の根源とか、僕達自信の事とかその魂かい?」


「あぁ、ソレだ」


(この世界も認識が同じなのか)


キドは知らないとは思うが、魂というのは明確に存在する。


私の世界では確認も認識も出来ない存在で、哲学の中で語られるソレ。


その魂がこの世界ではどういう理解がされているのか。




「そうだね、正直言うと僕には分からない事が多過ぎるよ。そこはやっぱり学者さん達が考える事だからね」


あはははと笑って自分には分からないと告げる。


「なに?もしかして何か大事な事に関わるの?」


「、、、、いや、特にない。悪かったな下らない事を聞いて」


――下らなくない。


先程学者とコイツは言った。


“何”学者だ?


哲学者?まさか。


分からない事と言った。“何が”、分からない。


魂に関して考察するならあるか、ないかの2つだ。何が、を問う程何を知らない。少なくとも私の世界は。




つまり――知っているな、魂が実在するのを。




残ったお茶を飲み、陶器を空にする。


魔法や魔力がある世界だ。ありえなくはないとは思ってたが、ここら辺は異世界ならではだ。


ならば『あれ』も予想程度はつくのか?


聞けば簡単な事だが、それはまた今度にしよう。




「ん、まぁ、飲み終わった事だし、話しを聞いて。次に行こう」


猫舌の私以外は皆んな既に飲み終わっており、私はこれをどこで作っていたか聞いて次の店に行こうと席を立つ。


「えっ、え~と。一ついいかな?」


「なんだキド?」


頭を掻き、目を泳がしながらキドは口を開いた。


「次って、もしかして別の店にも行くのかな~って」


刹那。心が読み取れた。


心の声が聞こえた訳ではない。だが、私はキドの次の行動を理解した。


「行け!先輩1○万ボルト!」


「ふにゃー!」


「あぁぁああ!!」


フッ、私から逃げれると思いやがって。ホワイトホール新しい店が待っている。


そう呟いてキドを連れ戻しながらこの街で見たい所を適当に回った。







大抵の道具に使えそうな物を探し回り、良さそうなガラスと陶器を見繕った。


のだが、私が頼んだ品が来るまではやる事がないのでその間は水銀を手に入れようとした。


水銀が何なのか分かる人を探したり、いなければ水銀の作り方を聞いて原材料を探したり、鞭でぶたれたり――


「いや~水銀。どうにか出来ませんでしたね」


「いやっははは。辰砂の使い道なんて殆どないからね。仕方ない仕方ない」


ガラス瓶を前にしながら私はそうボヤいた。


水銀をどうにかする前に物が来た。




辰砂。そう言われる水銀の原材料。火山地帯に多く発見される。


別名で賢者の石なんてよく聞く名前を持ってたりもする。


そんな辰砂は日本では朱色に使用され、鳥居の色になってたりする。特に火山が多い地域での鳥居ではかなりの確率で辰砂が使用されている。朱墨とも言われる赤い墨汁にも使われたりする。


え?なんで日本の話しをしたかって?


、、、、ヨーロッパでは色としてあんまり辰砂を使わないらしい。


一応水銀は昔に薬扱いされたりもするけど、それはデマで、しかもこの世界ではそんな用法でも使わないらしい。


原料も使わず、水銀も使わない。そんな物を探す能力は私にはない。




「文化は地理と気候に依存する。いくら異世界でも、難しい話しやったな~。まぁ、色程度の事は偶然だと思うけど」


なんて事を言うんだ!


「あーうん。まぁ、ここにケチつける程私もヤボじゃないんでさっさと作りましょうか」


「いよっ、空ちゃん日本一。私も応援するで~。水位の計算なら任せとき」


「私も空ちゃんの事手伝うよ~」


指を鳴らして背中をピンと伸ばす。最善でなければ最尤の結果を出すまで――あっ!


「あぁ、あああいててててて」


背中に走った痛みに私は口から空気を出す。


「大丈夫?空ちゃん」


「えぇ、大丈夫です先輩。くっ、あいつ強く打ち過ぎだろ」


キドを連れ回してた罰で、私はあの馬鹿カナーに鞭を打ちやがった。まぁ、当然の報いだけど、、、、流石に強過ぎ。背中がヒリヒリして仕方がない。




まぁ、私の背中の傷はいつかはどこかに置くとして、温度計を作ろう。


制作方法は至ってシンプル。


先ず容器(今回で言うとガラスの瓶や陶器)に着色した水を容器の四分の三位入れる。


その次にストローが入りそうな栓をしてストローを入れる。


そして、そのストローをノリで固定してから水で吸い上げて落ちない程度に調整すれば完成。




「へぇ~。着色はインクで、栓はコルクで代用。ノリは粘土質の土で代用と――中々やるじゃん空ちゃん」


「まぁ、これ位は簡単ですよ。問題は容器でしたね」


「あぁ~確かに。分厚いねコレ」


取り寄せた容器。一つは最も薄いガラス瓶で、二つは陶器の花瓶。


ガラス瓶は陶器は理想に近いものがあったが、陶器は理想に近い物は花瓶しかなかった。


「一から作るのは時間も掛かりますし、何よりこんなチマチマした注文受け付けないだろうからね」


それよりも――


「代用が効かないものが“一つ”あるんですよ」


まさか異世界で最初に頼む品が“コレ”になるとは。つくづくロマンのないファンタジーがあるものだ。


「あぁ、分かっとるで。“ストロー”やろ?」


はは。自虐地味に笑って目を逸らす。




今でこそ環境問題になる程作られるストローだが、常識的に考えてアレを異世界で作るだなんてとんでもない。ストローなんて物類似品ですら現実世界でもロクに作れない。


「おけおけ。今から出すからまっとって」


そう言って雲さんは準備する。


――私達が異世界に行った時、幾らかのサポートを約束された。例えば私が使う魔力障壁と熱魔法なんかがいい例だ。


そしてそんなサポートのもう一つ、『天界からの贈り物』だ。


ある程度のものなら天界から送れる。でなけりゃ魔王討伐だなんて夢物物語だ。


「一応水銀とかも送れるけど、どうする?」


「節約します。ポイントは限られてるので」


無論送るのはタダではない。送り先の技術レベルや希少性を総合的に判断して、天界での通常業務で余ったポイント相応との引き換えで送れる。


「はは、そりゃありがたい使うのは大半は私達のポイントだから」


一応私からもポイントの出て、使えるらしいが、大半は雲さんを初めとして天界にいる皆んなが払ってくれている。


「すみません」


「いいっていいって。そこにブチ込んだのは私だから――――」


ついでにクソ上司も追加で。




「――――――、、、、ほいキタァァァ!!」


パチリとキーボードが叩かれる音がした。


そして、空間が歪む。


空間が捩れるように見えた。


ぐわりと、開いた。


私がいつも使う空間魔法のように。


その中から数本の、ガラスのストローが出て来て、私は掴み取った。


「ほい、これで大丈夫空ちゃん?」


「えぇ、大丈夫ですよ」


「ふふ、それじゃあ私は電卓の準備をしてるよ」


雲さんが温度による水位の変化を計算し、仮定ではあるが出したデータを私は熱魔法で温度を一度ずつ上げたりして間違いを訂正し、温度計を作り上げた。




「えへへ、できたね空ちゃん」


「ですね、先輩」


めちゃくちゃ原始的な形ではあるが、一応は完成した。


「ただ、問題は性能が低過ぎる事ですね」


加工と素材の問題でペンみたいな形のではなく、まんま夏休みの宿題が如くしょっぱい品だ。


「元の参考サイトはペットボトルだったからね。あれなら温度は直ぐに伝わるだろうけど、陶器はね、、、、魔法使わなくても温度は変わるかい空ちゃん?」


「まぁ、一応は」


だが、体温を計るには時間が掛かりすぎるだろう。


「まぁ、世界にない品ですし、イケるでしょ」


そう言って私は買った分、大体20個程作って売りに向かった。







「失礼しまーす」


売りの向かった先、一応膝の傷の治療の為に行った事がある診療所だ。


「ん?えっと、誰だっけ?」


「天次空です。昔膝を診に来ました」


「あぁ、あの子か。どうした?また怪我したのかい?」


優しそうな医者は微笑むと消毒用アルコールに、脱脂綿等を用意する。


「あっ、いえ、怪我じゃなくて別の要件で来ました」


「別件?分かった。薬とか、医薬品を買いに来たんだね。分かってるね~、ギルドの危ない薬よりも私が取り扱う薬の方が良いもんね」


「いや、そうでもなくて、、、、え?今さっきギルドの薬がヤバイって言わなかった?どんな?」




ギルドの薬がヤバイというのは気になるが、それは一旦置いて本題を持ち出す。


「えっと、先生、今回はコレを売り込みに来たんですよ」


ゴッ、と音を鳴らして温度計をテーブルに置く。


「これは?」


「安心して下さい。ちゃんとした医療器具ですから」


「これが?」


信じられない、といった感じで温度計を見詰める。


「先生なら知ってると思いますが、風邪だったり熱になった時は体温が高くなるじゃないですか」


「あぁ、確かに。原因は分からないけど、そういう傾向にあるよね」


「えぇ、ですけど、その区別って難しいじゃないですか」


「気分でマチマチだからな。微妙な温度は非常に困るよ」


そうだからかこそ、だ。




「HEY!ドクター。そんな痒い所に手が届く商品はこちら!」


海外の通販番組風の口調で改めて温度計を指差す。


「温☆度☆計!」


「おんど、けい?」


「そうそう、これのスーパーな所は“科学的”に、温度が分かる事だ!」


「かっ、科学的に!?そんな事があり得るのか!?」


意外とノッて来る先生に軽く引きながら、温度計を手に取る。


「見てくれ!この棒の中、この色の高さが高いと温度が高いって事になって、ここを超えれば風邪や熱だって事になるんだ!」


雲さんと一緒に調節したメモリ、そのメモリを見て先生はワオと無駄に大げさなリアクション。


「いくぜ、今から熱魔法でコイツを温めてやる!」


「何だって!?」


水が上がる音ぉ~。どこからともなく入る合いの手、おったまげる先生。カオスか?


「え~あ――――つまり、風邪や熱を引いたの判断を、人の勘ではなく、この道具に任せる事によって、“平等に”判断する事が出来ます。利用方法としては、患者の脇に挟んで水が上下しなくなるまで待ちます。水がこのライン以上で止まれば熱です」




流石に通販ノリをやめて私は極めて、スーパーなマジメに性能を告げた。


「そんな便利道具が、今一体お幾らで買えるんですか?」


「え?このノリ続けるんですか?」


「え?」


「いや、いいです。そうですね、、、、セレナさーん。名誉挽回のチャンスですよ」


私が呼ぶと診療所の外でタンコブを抱えたセレナさんが、合いの手を入れた張本人のふぁいとの掛け声と共に診療所に入る。


「えーと、はいはい。名誉挽回させて頂きます」


「盗み聞きしていい話じゃないのを聞いたんだから、どうなるかは覚悟してるよね?」


私も先輩を見習って脅迫エールを贈り、肩をたたいて絶対に買わせるようにと釘を刺して外へと向かった。







「高く売れるかな~空ちゃん?」


「さぁ、どうでしょう?ここはセレナさんの弁舌に期待するしかありませんね。私じゃあどれだけ吹っ掛けれるか分かりませんから」


「、、、、高く、売れなかったら、殺す」


ぺちとハリィの頭を小突き、私は期待を胸にもう暫く待つ。




――――――ガラン。と、ドアが開く


「やりましたよ、ソラさん」


ジャラリと、金属がなる音を手中で鳴らす。


期待が高鳴る音、先輩はガッツポーズをして喜ぶ。だが、私は冷静に返す。


「どんだけ吹っ掛けた?」


訝しむ私のセリフに、セレナさんはウインクをして返した。


「吹っ掛けるだけ、吹っ掛けときましたよ」


投げられた銭貨、それはずっしりと重く、開いてみると――“熊の討伐報酬の三分の一に及ぶ額”であった。


「これであっしは、汚名返上をいけましたか?」


「十分」


たかが体温計一つをこんな値段で売るのは、間違いなくセレナさんのお陰だ。




「じゃあ次、次。他の所に売りに行こうか」


「、、、、えっと、あーそう、あっしに任せて下さい。バッチリ売りますよ」


「空ちゃんやってる事えぐーい」


先輩、私達の秘密は、もう少し高いと思いますよ。例えば、あの賠償金をチャラにする位とか。


「――まぁ、頼みますよセレナさん。私には難しいので」


「、、、、えぇ、任せて下さいよ」


さぁ、次はどこに売ろうか――

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天使二人の異世界転移譚 日ノ々ヶノ々ヶノヶ崎 @YukariXONE

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