第53話 一服
「はは、大丈夫かい?空くん」
「大丈夫、、、、ですよ。ただ、心がね?」
「まいど~。じゃあいっちょ仕入先教えてやるよ」
何か大事な、とても大切な何かを失って、私はどうにか仕入先を手に入れた。ちくしょうちくしょう。
「先ずはだな――」
そう言って話し始めるおじさんの話しを私は拝聴する。
「へへ、買って貰っちゃた。どう?空ちゃんかわいい?」
「、、、、見て、お姉ちゃん」
やめて!視線と心が痛い!
「うっ、うん。かっ、かわいいよ二人共」
おじさんと会話してて反応が出来ない私に代わってキドが言う。
「本当!?本当!?嬉しいな~」
ヒラヒラと、服を遊ばせながら先輩は喜ぶ。
だが――「、、、、」
「え!?なにそのゴミを見る様な目は!?」
ハリィは一方で褒められたのにも関わらず恐ろしい目でキドを睨む。
「ハリィ、失礼だよ。折角褒められたんだからありがとうでしょ?」
あまりにも礼を失した態度に私は話しの途中だが一言挟む。
「、、、、お姉ちゃん。かわいい?」
謝罪もせず再び私に感想を求めるハリィ。
「あのね、私に感想を聞く前にする事あるでしょハリィ」
「いいよ。僕は気にしてないから」
「気にしてる気にしてないの話しじゃないよ」
キドがハリィにフォローを入れるが、そういう事ではない。
重くなった空気。そんな空気にイレギュラーが入り込む。
「わ~ハリィちゃんもかわいい!」
抱き上げる様に抱きしめて先輩が言う。
「あっ、そうだ見て見て~!ホラ、ケモミミメイド!」
もうバカ丸出しな先輩の言動。
けれども、ぷっと笑いが溢れる。
「あっはは、なにそれおもしろ過ぎですよ」
「え~おもしろいの?キドって変だね~」
「いや、でも、これ、欲張り過ぎでしょ」
正直コスプレ感半端ないが、先輩は非常に綺麗だ。
「、、、、後で説教だぞハリィ」
「、、、、、、、、」
だが、それはそれ、これはこれだ。
暗に忘れてないぞと言うように吐き捨てると、私はおじさんの話しを改めて聞く。
「それでな、これはここで売っているんだ」
地図を出し、指を差す。だが、それが私にはどこか、そしてどれだけ離れているか分からない。
私はクイッとキドの襟首を引っ張ってこの地図を見せる
「うわぁ、遠いなぁ~」
どうやら遠いようだ。
「まぁな。ちなみに質が良いのが欲しいなら『ドワーフ』ん所へ行くんだな。俺達は利用しないから売ってる場所は分からんが、『ドワーフ』なら良い感じの所は直ぐ見つかるさ」
(え!?ドワーフ!?)
私は目を剥いた。ドワーフと言ったらあのヒゲモジャの、ファンタジーじゃお馴染みの鍛冶が大得意の種族だ。
その種族が、この世界にもいるのか。
「うーん。遠いね、ここ。大丈夫かいソラくん」
「うん、あ~まぁ、ここ以外利用出来る所がないからね、利用するしかないよ――あっ!」
「え!?なに?あっ!て。ん?僕の顔に何かついているのかい?」
そういえばコイツのパーティーにオークがいたから今更な問題だろうか。
「なぁ、カナーは一体どうするつもりだ?あの借金」
思いついたついでに質問するとキドは苦笑する。
「そうだねぇ、、、、地道にクエスト熟して返すかな、僕達なら。別に期限がある訳でもないし。あぁ、勿論バックレるなんてつもりはないよ」
「、、、、地道に、か。そう考えてると私は何を焦ってるのか?」
ポツリと独り言を呟いた。
◆
静かな喧騒。
人々の喋り超えに、風の音。白い壁が反射する光に目を細めながら私は席に座る。
「あーうん。一体僕は何をされてるのかなぁ~?」
照れる様に頬を掻き、だが気不味そうにキドが笑う。
「あ?なんだ、私と一緒にいるのがそんなに嫌か?折角誘ってやってんだぞ」
「わっ、わぁ~嬉しいな~」
「アレか?もしかしてお前あの二人組の子がタイプなのか?」
「いっ、いや、そういう訳じゃなくて、、、、」
キドの態度に私は少しだけ眉にシワを寄せる。
「というか、どうして君はその、、、、僕になんかこう、冷たいのかなぁ?カナーとかにもそんなに冷たくなかったよね?」
キドの質問に、私はどう答えようか迷うと。
「ん?えっと、ねー。空ちゃんはなんて言うか、キドが好きじゃないと思うよ」
「ちょっと、先輩!」
違う。そう言おうとしたが先輩は続ける。
「空ちゃんは、なんて言うか、ちょっと変わってるの。空ちゃんってもっとス○ークとか、イス○ンダルとか、ブラ○クジャ○クのような人が多分好きなの。ナヨナヨしたのは嫌い」
知らない人物名を出され、困惑するが、ナヨナヨしたのは嫌いの一言であぁと納得する。
そして突き刺さる視線。
「うん。えっと、あ――私がお前を引っ張る理由は嫌いとかそういうのじゃないぞ」
なんだよ、疑ってるのか?
「まず一つ、さっき私はお前に地図を見せたろ。私は地図が読めないんだ」
訂正するなら実質的に読める。地図が間違ってようが、単位が違おうが、製図法が違おうが、こちらには万能地図がある。大体の位置を把握すれば万能地図を見て移動すれば大丈夫だ。あれ?もしかして普通にこの万能地図から見れば良かったんじゃ?
「僕が地図読めない可能性もあったのに?」
「お前は地元の出身だからな。地図が読めなくても場所が分かる確率が高かったんだ」
そして――
「お前に案内させたここ。忘れたか?」
「えっと、“喫茶店”?」
「正解」
見事回答出来たキドだが、何故ここに来たかは分からないようだ。
「私が探してる物はなんだ?」
「えっと、ガラス瓶?」
またも正解。しかし、意図が汲み取れてない様子だ。
「そう、私が探してるのはガラス瓶だ。だがな、厳密に言えばそうでなくともいいんだ」
「え!?そうなの?」
確かにガラス瓶である事に越した事はないが、形を満たす条件なら最悪ガラスじゃなくてもいい。
例えば――そう、ここに出されるだろう陶器を必要な形に作らせたりとかね。
「鉄とか、木とかじゃ形を作るのが難しいだろうしね。まっ、ちゃちゃっと頼もうよ。陶器がどれだけの質か見るからさ」
「うん。そうだね、、、、って、結局彼女が言った事は本当なの?」
ウエイトレスさーんと、私は声を上げて手を振って呼ぶ。後ろの声は知らない。
まぁ、少しはあるとは思うよ。その、見た目があんまし好きじゃないとかは。
「お待たせしました。お客様、ここは初めてでしょうか?」
「はい」
「では、当店の自慢でいいでしょうか?」
「じゃぁ、お願いします」
「分かりました。では、『ラディッスティー』4杯でよろしいでしょうか?」
――そうだなぁ。
「3杯。3杯でお願いします」
私は1杯減らして3杯をお願いする。
「空ちゃん飲まなくていいの~?きっとおいしいのに?」
「なんで私が飲まない事になっているんですか?」
「え!?じゃあ私?酷いよ~空ちゃん」
ねぇ、先輩。周りの人達が見てますよ。
「違いますよ。飲まないのはハリィです先輩」
視線を向けるハリィ。その視線を真っ直ぐ受け止めて言う。
「まだキドに謝ってないだろ?人に謝りも出来ないなら頼めないね」
私はそう言ってハリィに諭すようにも言うが、ハリィは無言でこちらを見詰めて口を開かない。
「えっと、3杯でよろしいですね?」
いたたまれないのか、ウエイトレスさんが切り出し、私はそれにはいと返答する。
そしてウエイトレスさんが去ると気不味い雰囲気が流れ出す。
本当に謝らないハリィを見て、私は吐き出す様に呟く。
「謝るってそんなに難しいか?」
私の呟き、それに意外な人物が答える。
「まぁ、空くん。ハリィくんが謝りたくないのも仕方ないさ」
キドが諦めとも、承認とも取れない微妙な表情で答えた。
謝りたくないのが仕方ないとしても、だからといってあの行為を許すとは違うだろう。
だが――「なぁ、もしかしてキドはハリィの事を知ってるのか?」
その質問に、キドは目を丸くして答える。
「いや、ハリィくんの事は知らないよ。でも、、、、彼女に起こった事は知ってる」
「ハリィに起こった事?」
キドが口を開いた。次の瞬間、キドは首を絞められてた。
「、、、、黙、っれ」
首を絞めたのは憤怒の表情を浮かべるハリィだった。
小さな細い腕。腕力は指してはない。
故にキドは簡単に腕を振り解く。
「おい!ハリィ!いい加減にしろ!やっていい事と悪い事があるだろ!」
「いや、大丈夫。今のは僕が悪い」
叫ぶ私に制止をかけたのはキド。
「あぁ、そうだったね。『この話し』、君の許可もなくしようとした僕が悪かった。君には“思い出したくもない事”だろうし」
二人だけが知るだろう話し。触れてはいけない琴線に触れたキドはただ謝る。
「――――、、、、違う」
聞こえないような声でハリィが口を開く。
「、、、、、、、、お姉ちゃんに、いつか、教えるって、、、、約束、したから」
まるで私のせいにするかのような理由。だが、キドは「そうか」と納得した。
「まぁ、ハリィくんとは色々あるけど、今回はこれでおあいこって事で」
「、、、、私は忘れないぞハリィ」
本人が言うなら今回は私が頭を下げて終わらせよう。
キドに頭を深く下げ、私が代わりに謝罪をするとタイミングよく注文の品が来た。
「まっ、これを飲んで早く気分を変えよ。おいしいよここのは」
言われて差し出されたお茶を私は見て、一瞬大事な事を忘れそうになった。
「なぁ、これどこから手に入れてんの?」
まさかこの世界はもう既に奴隷の三角貿易を終え、あ~へんになりそうな薬を売っているのだろうか?
この世界の生態系はよくは知らないけど、集合的無意識と熊やネズミという類似した動物が存在するからここ、つまりはヨーロッパと位置付けるここに茶葉が手に入るとは到底思えやしないのに、私の前には少々変わった匂いのお茶が置かれてるのだ。
「ん?まぁ、そうだね。あんまり見られない文化かなぁ?これは植物の根から作った飲み物なんだ」
「根から?まるで漢方だな」
そう呟いてはみたが、確か茶も昔は漢方であった筈。
「んじゃ、一口頂くか」
湯気が立ち上る陶器のティーカップを掴んで一口飲む。
瞬間私は咳き込む。
「ゲッホ!コッホ!ッケ!」
「んぐっ、大丈夫空ちゃん!?」
「、、、、おね、えちゃん」
「だっ、大丈夫かいソラくん!」
「あぁ、大丈夫、大丈夫」
もう数度咳き込んで深呼吸をし、落ち着く。
「もしかして、おいしくなかったのかいソラくん?」
「いや、そうじゃないですよ」
落ち着いた私にキドが声を掛ける。そして、猫目な先輩。
「あぁ、そうだ。空ちゃんは猫舌なんだ。だからさっき咳き込んだんだ」
大正解先輩。流石一年近く一緒にいるだけありますね。
「そうそう。先輩の言う通りです。私ちょっと猫舌で」
ふーふーと冷まして改めて一口。
「あいっ、、、、ん?」
そう、確かこれ根っこで作ったお茶だよな?
「どうだい?おいしいかい?」
催促をしてくるキド。かなりこ思い入れがある店で、だから感想を聞きたいのだろう。
私はもう一口飲んで感想を言う。
「うん。おいしいね。ほうじ茶みたい」
香りが芳ばしく、そして深い。ほうじ茶とか麦茶のような香りに、アクセントみたいに土の香りが鼻に残る。
「ん?ほうじ茶みたい?私はコーヒーみたいだと思うな~」
確かに。先輩に言われると少しコーヒーっぽく感じる気もする。
「でもな~苦いね~これ」
「先輩はコーヒー飲む時砂糖タップリ入れてますしね。ミルクも」
「ふぅ――」
一息つく。
チラリと陶器を見る。
ティーカップとしては厚すぎる。薄いマグカップと言った方が近い位には厚い。
だが、コレならばギリギリ使えないレベルではないだろう。
ずずっと半分程飲んだ時、ふと、思った言葉を零した。
「なぁ――『魂』って何だと思う。キド」
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