第11話 彼女的なカノジョの答え

いつもの朝。姉である萌の怒鳴り声で目が覚める。


『起きろっ!! せい! いい加減甘えんな、アホ!!』


 甘えている自覚は無いんだが……。それにしたって弟に対して厳しすぎないか。


 やっぱり幼馴染なカノジョの存在が、いつの間にか発覚したからなのかもしれない。


 ――などと姉に幻想を抱きつつ、学校へ向かった。


 この日は、最悪でも無いが一歩手前くらい嫌な、小テストの日。

 いつもなら朝の通学路の時点で、カノジョが隣にいて歩いている時間帯。


 それなのに今日はどういうわけか、玄関のチャイムを鳴らす存在がいなかった。


 昨日はヤンデレ……ほとんど病んでたけど、最後はデレが無くて素に戻っていた渚沢。


 あれからまた別の属性に変化しているんだろうか。


 そんな期待と不安を抱えながら、何事も無く教室にたどり着く。

 小テストやら何やら、昼休みまであっという間に時間が過ぎた。


 いやいや、おかしい。


 同じ教室にいるのに、渚沢の姿が全く見えなかったし声も聞こえなかった。


 声がする場所も席も分かっているのに、どうしてだろう。


 そんなことを情報屋もとい、友の椎名に聞いてみた。


「モブに戻ったくさいぞ。戻ったら当然だが、お前には見えん。もちろん、俺もな!」

「いやいやいや! 何で? だって、昨日まで普通に見えてたしヤンデレだったし……」

「それな」

「どういうこと?」

「ヤンデレまでになったってことは、最終的なテスト期間を終えたってことだ。渚沢のな」

「つまり……?」

「察しろ。そんで、何が足りなかったのかを考えて、次の女子に切り替えることだな」


 そ、そんなことってあるのか。


 渚沢心に告られて、色んなカノジョと付き合って……そんな日がずっと続くと思っていたのに。


 ある日突然、モブに戻っているとか……そんなバカな。

 こんなの諦められるわけがない。


 昨日まであんなに俺のことを好きとか愛しているとか、ヤンデレ属性だろうと何だろうと、言われ続けていたんだ。


 それなら俺が出来ることはもう、これしかない。


 授業中じゃないと、もうそんな機会は得られないはず。

 休み時間が来たら、なんて言ってられない。


『な、渚沢心……!』


 ざわっとしているけど、これしかない。


『会いたい!! す、好きなんだ。だから、君が見たい、会いたい……もう一度、何度でも話がしたいんだ!!』


「おいおい、あいつマジか」「授業中にそれはやべえ」などなど、主に男連中がざわついている。


 でも多分、そういうことなんだろう。


 しかし授業中に返事が来たのは、見事に担任の怒声だけだった。

 そのまま放課後に突入して、気付けば家に帰る時間。


 俺の叫びも届かなかったのか……そう思いながら、大人しく家に帰って来た。


 姉の萌はまだ帰って来ていなく、親もまだいないのでカギを締めといた。


 そんな空しい時間を過ごしていると、玄関のチャイムが鳴った。

 これはまさか……?


『あ、はーい! 今出ます』


 内心期待しながら玄関のドアを開けた。


「せいくん、お久しぶりです。わたしのこと、覚えてますか?」

「――えっ? こ、心?」

「そうそう、君の従妹の心ですよ~! 元気してた?」

「い、従妹!? お、俺には従妹なんて……」

「自称だけどね。とにかくさ、部屋に上がりたいんだけどいいよね? 従妹なんだもんね」

「わっ、ちょっと……!?」


 何が何やらさっぱり分からないけど、渚沢が俺の家に来て、自称従妹で部屋にまで上がって来た。


 これはつまり……告白に効果があった……のか。


「何にもないね。布団だけ敷いてあるけど、期待していたのかな?」

「そ、そうじゃなくて、それは敷きっぱなしで……」

「うんうん、だらしない男の子だよね」

「うぅ……」

「はい、問題です! わたしの答えは何でしょうか?」

「こ、答え?」

「そう!」


 従妹として家に入って来たし、そもそもいつもの渚沢なんだけど。


 でもこれってつまり?


「好き……? ってことだよね?」

「まぁまぁかな。完全にはまだ早いのだよ。なので、従妹として登場したわけなのです」

「じゃ、じゃあ……」

「最初から言ったよ? モブから始まって、最後までずっと好きでいるって! 色んなわたしを見せたのに、なかなか言ってくれないからどうしようかなって思ってたんだ」

「――あ」

「そうです。そういうことです。分かったかな?」

「こ、心。君が好きだ! だ、だから、もうモブじゃなくて渚沢心をずっと俺に見せて欲しい!」


 何とも恥ずかしいが、言わないときっと駄目な答え。


「よく出来ました! ではでは、ご褒美に添い寝?」

「い、いや……」

「じゃあ膝枕だ~! ほれ、ほれ」

「う、うん」


 答えは正解だった。そしてそのまま、彼女の膝の上に頭を乗せようとしたら……。


「せいくん。正解のご褒美に、これをあげましょう!」

「――! い、今の感触は……」

「初キスおめでとう! これで、モブに戻ることは無いよ? 明日からもまた頑張りたまえ! じゃあね、せいくん。好きだよ!」

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彼女的なカノジョに。~モブから始まる恋愛生活~ 遥 かずら @hkz7

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