第3話 お互いの名前
春斗が美咲の手を引っ張って図書館を出てから5分後。
春斗と美咲は大学の近くにあるカフェに来ていた。
春斗と美咲以外にお客さんは誰もいない。
カフェはきれいとは言えないが、良い意味で汚れていて昔ながらという外装で、中は静かな雰囲気で聞いたことのない曲も流れていた。店の従業員はマスターという感じの人が1人で、ずっと皿やコップを拭いている。
春斗と美咲は奥の窓側の4人席に向かい合って春斗はアイスティー、美咲はミルクティーを飲みながら座っている。
「ごめんね、急に泣き出しちゃって」
美咲はハンカチで涙を拭きながら言った。
「いえいえ、昨日の言葉には何か理由があるということはわかったので」
美咲はカフェに来るまでの間もずっと泣いていた。
「言いたくなかったらいいのですが…」
「実は私、今都市伝説みたいなことが起こっているの」
春斗の発言に美咲が途中で言葉をかぶせるように言ってきた。
都市伝説みたいなことが起こっているという言葉に春斗は少し、いやだいぶ心当たりがあった。
「具体的にはどんなことが起こっているんですか?」
「なんていうか、次の日になると周りの人の記憶から私の存在が消えてるの」
春斗は美咲の言葉を聞いてもそこまで驚かなかった。
「現実には起こることがない話をしているのになんでそんなに冷静なの?」
美咲は春斗の表情を見て思ったことを言った。
「いや驚いてますよ。人間本当に驚いたら表情にはそんなに出ないものですよ」
「そうかなぁ」
美咲は春斗の言葉に全く納得できていないのか、眉を寄せながらミルクティーを飲んだ。
「まぁ僕が驚いている、驚いていないは置いといて。なんで僕には昨日の美咲さんとの記憶が残っているんですか?」
「わからないよ。毎日図書館で『都市伝説って知ってる?』って聞いてるんだけど、君が初めてだよ。私のこと覚えていたの」
美咲はそういうとハッと何かに気づき、春斗の顔をまじまじと見てきた。
「そういえば、君の名前まだ聞いてないんだけど」
「今は別に良くないですか名前なんて」
「いや、私だけ名前知られてるのが何かちょっと嫌」
「それは僕に名前が知られてるのが嫌ということですか?」
「違うよ。君は私のこと『美咲さん』って呼ぶのに、私は君のこと『君』って呼ぶの変じゃない?」
何が変なのかと春斗は考えたものの、これ以上名前のことで話が長くなっても仕方ないと思い名前を教えることにした。
「僕の名前は赤根川春斗です」
「春斗君か~」
美咲が春斗をからかうように言ってきた。
そんな美咲の言葉に春斗は照れ、顔が少し赤くなった。
美咲に名前を教えた春斗は話を「美咲に起こった都市伝説みたいなこと」に戻して、その内容を詳しく聞くことにした。
僕と無人駅と都市伝説 増田ユウキ @masuda-yuuki
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