第4話 僕と彼女と……

「そろそろ12時だし寝ようか?」


 彼女がそう言いテレビを消した。


 僕は頷きながら押し入れから布団を出そうとした。


 その時だった。


「いたいっっっ」


 僕はまた激痛に襲われ頭を抱えてしゃがみこんだ。


 それを見た彼女が慌てて、え?大丈夫?どうしたの?水?水飲む?と台所の方に走っていく。


 これで何回目だ?


 目の前がぐにゃぐにゃ歪んだ。


 いつもよりひどい。


 あ、あれ、やばい。なぜかいきなり僕の奥底から殺害欲が湧き上がってきたのだ。


 え?なんで?なんでだ?この前人を殺したばかりなのに。


 ハァハァハァ……息が荒くなる。


 理性がなくなる。


 あああ……殺したい。


 殺したい。


 人以上のものを殺したい。


 彼女でもいいから何かを殺したい。


 もう限界だ。


 僕は這いつくばって押し入れの奥から金属の箱を引っ張り出す。


 そして箱を開け、ナイフを取り出そうとした瞬間だった。


「ぐふっ」


 僕は何者かに馬乗りにされて床に押し付けられた。


 力が強すぎて、反抗することができない。


「…そうはさせないよ」


 この声は……


 やっとのことで首を捻ると、彼女がいた。


 彼女は今まで見たことがない冷徹な表情を浮かべて、僕を見下ろしていた。


 なんで……


「ゔゔゔ……が……がが」


 僕は何か喋りたかったが、いきなりのことで上手く呂律が回らない。


 早く……早く殺したいのに!


「あんた、やっぱり殺害欲がすごいのね。あんたのその激痛は殺害欲からよ。身体が限界を訴えてるのね。殺人の頻度を増やした方がいいわ」


 彼女はそうゆっくりと喋り、どこから手に入れたのだろう?小型銃を僕に向けた。


 銃を向けられて、なぜか僕は少し冷静になった。


「なんで、お前が?なんで知ってる?その銃は……」


 彼女はいきなり高らかに笑った。


「あんたが小さい頃から動物を殺しているところ、何回も見たことあるよ。気づかないとでも思ってた?ああ、この銃についてはあんた、何も知らなくてもいいよ」


 そして無表情になって言う。


「私もあんたと同じ欲望を持ってるのよ。あーあ、あんたはもっとコントロール出来る人なのかと思っていたわ。見境なく殺すのね。愛している私でさえもね」


 反論の余地がない。


 僕は身体がどんどん火照ってきているのを感じた。そろそろ壊れてしまいそうだ。


 さっさと……


「私もあんたのこと殺したいけれど、折角だし、私もあんたの事愛しているし、取引よ」


「私達はこれから一生互いを殺さないことにする。そして今日は人を殺すのは我慢する。その代わり、これから私達は協力してターゲットを探し、二人で殺す」


「どう?良い案だと思わない?デメリットはほとんどないわよ」


と彼女はぐっと顔を僕に近づけた。


 しかし、僕には正常な思考力は1ミリも残ってなかった。


 もし彼女みたいにコントロールが上手く出来ていたら、これからもずっと幸せだったのかもしれない。


 これを火事場の馬鹿力と言ってしまってもいいのか。


 僕は力ずくで、彼女を振り飛ばし、その反動で彼女が落とした銃を両手に持った。


 彼女は動揺して口をパクパクさせている。


 僕はそれを見ても、もう何も感じなかった。


 何も考えずに彼女に向かって引き金を引いた。


 


 


 僕は結局目の前の欲望を優先させてしまった。

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殺害欲 鈴狐(すずこ) @charmy

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