第2話 ディザスタークラス(災害級)
「では判決理由から――犯行は極めて悪質であり、自らの欲求を満たしたいが故の身勝手な犯行を繰り返した被告の更生は見込めないものと判断、情状酌量の余地はなく、残された被害者家族たちの心情は察するに余りある――これより――被告人を死刑に処する」
主文を後回しにして告げられた裁判官の判決を、どこか夢うつつで聞いていた。両親の痛々しい姿は見ていられなかった、目を逸らしても、騒がしい中、微かな嗚咽の声が聞こえてくる。人々の怒りの声が代わる代わる私の背後から叩きつけられた。
ガタン! なんなのよ一体!
私は飛び起きると、悪夢から呼び覚ましてくれた音に悪態を吐きつつ、目の前に倒れていたアローZ42を拾い上げる。
部屋の窓から屋根へと飛び出し、町を見渡せる場所に移動する。音の規模からいって巨大な魔物が街に侵入したのだろう。冒険者が集まる酒場で、冒険者同士の喧嘩が勃発し、魔法が暴走した時も、こんな音はしなかった。そもそも疲れ果てて眠りに落ちた私を起こすほどの音は、やばい事が起こっている証拠だ。
何かがあってもすぐには起きられないから、どんなにボロくても町の中心に近い場所に宿を取った。でないと城壁を突破してきた魔物に建物ごと押しつぶされて死ぬなんてこともあり得ると思ったから。
再びドーンという大きな音がしたので、私はゴーグルをかけ、音がした方向に顔を向けた。ゴーグルには異世界の文字を翻訳する機能のほかに、映像を拡大する機能がある。そして見たものに思わず言葉が漏れた。
「なによあれ……」
にょきっと長い首だけが城壁から出ている。たぶん魔物だろう。首だけだが見たことない魔物だ。ガンナーの通常兵装で倒せそうな見た目ではなかった。まだ首だけしか見えていないのにかなりの大きさだとわかる。自分が出向かなくても、他の冒険者が対処してくれるといいんだけど、なんて他力本願なことを考えていると、下から声が聞こえてきた。
「あんた! ガンナーか? 何があった? そこから見えるのか?」
冒険者らしき皮鎧を着た青年が宿屋のすぐ下の通りから私に呼び掛けている。私は面倒だと思いながらマスクを口元に引き上げた。音量を上げてと……。
「巨大な魔物だ、まだ城壁の外にいる。あいつを倒すのに協力したらギルドから報酬は出るかしら?」
「ああ、おそらく!」
「いくらくらい?」
青年はやはりガンナー《守銭奴》かと呆れた顔を一瞬したが考え込むそぶりをして口を開く。
「頭割りだと思うし、人数にもよるが、金貨一枚は固いだろう! 致命傷を与えた奴にはボーナスも出ると思うし! あんたも行くのか!」
報酬は金貨一枚……どうしようか、かなりの破格だが、あれだけの大物を相手にするとなると生半可な武器ではだめだ。致命傷か……ボーナス狙いでポイントを大量に消費するのは賭けなんだけどな。
「屋根の修理費込みでも最悪……仕方がない、ねえ、あなた、証人になってよ」
「え! なんの!」
「今からあいつの頭を吹っ飛ばすからさ、致命傷を与えたのは私だって冒険者ギルドで証言してほしいの」
「今からって、どうやって」
「ちゃんと見ててね、あんたの証言に全部かかってるんだから……」
屋根の一番広い場所に移動した私は端末を操作して、ある画面を呼び出した。そこにずらっと並んでいるのは高額な重火器や装備品ばかり、間違ったボタンを押さないように震える指を伸ばす。いつも見ている武器と0の桁が二つぐらい違う。
ボタンを押すとゴーグルがその重火器のモデリングを表示、それを実際の背景を見ながら設置できるように固定する。変なところに呼び出したら最悪、無駄な要請になる。だから慎重に。屋根の傾斜も考慮して……。私は意を決して決定のボタンを押した。ポイントが無駄になりませんように……。
囚人ガンナーの異世界オーダー 爾威躯 @seigan
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