第54話
今気付く。彼女はすでに、別れを告げていることに。もう戻れないところまで来てしまったことを、再確認するように。
俺と笠原、そして早川は、武藤がいる部屋へ恐る恐る戻ることになった。さっきからずっと笠原と時間をともにしている。
先頭の俺が、部屋の戸を開けると、武藤と目が合った。いつもより心なしか武藤の視線が鋭い気がする。気のせい気のせい、と心の中で何度も呟き、誤魔化す。
「青野、お前、美月のこと好きだろ」
武藤が冷たい声で、俺に胸を刺すように言った。それだけで俺は怖くなって、俺は静かに戸を閉めた。
「ちょっ!? な、何やってるの、和人!」
聞こえるか聞こえないかくらい、小さな声で、部屋の外にいた笠原が慌てて声をあげる。笠原だって、今の武藤の顔を見れば、一瞬で萎縮してしまうはずだ。
それでも、やっぱりなんかカッコ悪いな、と思う。少なくとも笠原たちがいる前でする行動ではなかったと思い直し、再度覚悟を決めて、戸を開けた。
状況は先程となんら変わりはなく、武藤がその切れ長の目を、こちらに向けているだけだった。武藤が笠原を好きになる以前は、こんな陽キャに絶対に関わらないようにしよう、歯向かわないようにしようと思っていた。笠原が俺を巻き込み、早川までもを道連れにして、ここまで来た。
「武藤、俺笠原が好きだよ。悪いけど……笠原と別れてくれない? 笠原、絶対武藤のこと好きじゃないよ」
俺が意を決して数秒、それは何か意味があるように、長い時間だった。俺の言葉を聞いたはずの武藤。
「お前、笠原のこと幸せにできんの?」
「いや、分かんないけど。……責任なら取れる。笠原が武藤と別れることになった責任を」
武藤は、嫌と拒否するかもしれない。それでも自分の気持ちを伝えたかった。
「武藤、私からもお願い。もう武藤といても楽しいって思わなくなったし、好きでもなくなった。そんな浮気性だから、誰も振り向いてくれないんだよ」
背後の戸から、笠原の声がした。今の俺には、振り向いて笠原を直接確認する勇気なんて残っていないが。
「はぁ……なんなんだよ、お前ら……結局のところ、オレに味方してくれるやつは、一人もいないってことだな?」
「武藤、お前何言ってんだ」
「オレな? 笠原と付き合うために、早川の姉貴とわざわざ別れたし、他の女とも手を切ったんだぞ?」
エアコンが効いているはずのこの部屋。俺は微塵も涼しさを感じることが出来なかった。
「……うるせぇぞ、武藤。いい加減諦めろよ。俺にとっても、実は荷が重いんだけどさ……武藤よりは、笠原のことを、一番に考えられる」
俺は振り向く。背後で突っ立っている笠原と、空気を読んで部屋の外にいる早川の方へ。
「二人とも、荷物をまとめてくれる? 武藤と一晩、今の状況からすると、ちょっときつくない?」
【あとがき】
これで、一時休戦。
テストがあるので、しばらくお休みします。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054895676637
短編です。
クラスの陽キャに、セフレがいるってことがバレた 五十嵐 圭大 @8789
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