満足感たっぷりの王道娯楽小説

 科学技術の発達した未来の世界を舞台に、とある私立探偵が失踪事件に挑むお話。
 てんこ盛りの未来ギミックが嬉しいゴリゴリのサイバーパンクSFであり、また企業と人とその間の倫理を描いた社会派ハードボイルドであり、そしてひとりの男の過去と今を結ぶ悲しくも壮絶な復讐譚であり、そのうえエンタメ感あふれる痛快なアクション活劇であったりもする、もう大変贅沢なお話でした。すんごい満足感。
 いやこう要約してしまうとなんだか欲張りすぎのようにも見えるのですけれど、でもこれらが何の違和感もなく整然と、ごく自然にひとつのストーリーとして組み上げられていて、しかもよくよく見てみたらこのボリューム感で約8,000文字ってえっどういうこと嘘でしょ、と、普通に唖然とさせられる感じが衝撃でした。実感としてはその二倍か三倍、もっと分量の多い作品を読んだような読後感。なにこれすごい……。
 物語のテーマ性を担う部分が好きです。事件の真相が明らかになると同時に、『ヒトであること』という問いに最後の最後で収束していく、クライマックス周辺の流れがとても心地の良い作品でした。