第129話 推しの権限。ギアとノアの共闘

 推し……人生には必ず推しという存在がいる。


 例えば、


 アイドル、女優、タレント、スポーツ選手、声優、漫画家、コスプレイヤー、YouTuber、VTuber、etcetc...


 アナリス・ソフィー・ロラン


 ノア・バッドリッチの前世において、彼女――――アナリスは推しである。


 もしも、人生を賭けてて構わないと思わせる推しが目前にいたら、どうなってしまうのか?


 ノアは、呼吸が乱れる。


 過剰な興奮状態。血走った目によって視界がぼやける。


 発熱。 発汗。 全身の毛穴が開き、頭髪が立ち上がる。


 周囲の空気が高熱でグニャと捻じ曲がる。


(心臓が掴まれたように苦しい。けど……)


 呼吸法。 乱れた息を無理やり止める。


(苦しい。ゆっくり……ゆっくりと息を吐く。深呼吸を……)


 閉じかけていた視界が開けてくる。


 呼吸が安定して精神も安定する。


「ノアさま、大丈夫ですか?」とメイドリー。


「うん、大丈夫。少し動揺しただけ」


 おそらく、本物の天使を見ての動揺とうけとったのだろう。 


 メイドリーは「もしもの時は、私が盾になります」と呟いた。


 対して天使であるアナリスは――――


「――――」と何かを喋っている。 しかし、それをノアたちは聞き取れなかった。


「彼女の声は僕しか聞こえません」とギア。


「どうして、彼女はこんなことに……」とノアは言い淀む。


「なるほど、やはり貴方は彼女の事を……アナリスの事を知っているのですね」


「それは……」


「お嬢様は転生者です。これは秘密でもなんでもありません。ですから――――」


「この世界の秘密も知っています……か?」


 ギアの視線。


 普段、ノアに見せる敬意は鳴りを潜めて敵意のような物を秘めていた。


「残念ながら、そこまでじゃないよ。世界の秘密を知るなんて……精々、私の将来が不幸で幕を閉じる。そんな事くらいよ」


 今まで誰にも言っていないノアの秘密。 将来、性奴隷に堕ちるという過酷な人生。 


 それを始めて他者へ口にした。 


 メイドリーだって知らない秘密。彼女も「……」と絶句している。


「なるほど……だから、貴方は運命に抗うために輝いているのですか」


「ふぅ……」と息を吐き緊張を解くギア。 それから――――


「僕の、いや僕らの秘密は開示しました。 もう一度、言います。僕らを助けてくれませんか?」

 

ギアの背後。天使のアナリスも彼に同意するように手を差し出した。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・


「それで……アナリスちゃんは、どうして天使に?」


「――――」とアナリスは説明するように必死に手振り身振りを動かすが、


「ぜ、全然、わからない……」


「うん、アナリス。説明は俺がする」


「――――」と肩を下げ、しょぼんとしたリアクションで下がっていった。


「アイツが天使になった理由……原因は悪魔教だ」


「悪魔教……そもそもの話は、軍部に悪魔教の裏切り者がいるって話だったよね」


「うん……彼らの最終目標が地獄再現と言われている」


「地獄再現?」


「あぁ、地獄を顕現させ、この世界の法則を塗り替えていく」


「それは……ちょっと意味がわからない。この世を地獄に変える? それは何のために?」


「悪魔教は悪魔崇拝者だ。地獄から悪魔を呼び寄せるそのものが目的だ」


「それは……中々、イカれている」


「地獄を、悪魔を再現する。その方向性の1つとして天使再現を……」


 ギアはそれ以上言えなかった。 励ますように、その肩を「――――」とアナリスが触れた。


「試すような真似してごめん。うん、私は協力するよ」


「本当ですか! だったら、軍部の裏切り者を――――」


「いや、もっと手っ取り早い方法があるよ」


「えっ……それは、まさか!?」


「うん、悪魔教……その総本山を叩き潰そう!」


「――――ッ!」とギアは驚き絶句した。 それから天を仰ぐようにして――――


「わかりました。 潰しましょう」


 ノアとギアは互いに手を差し出し、握り合った。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・・


 ―――数日後―――


「悪魔教の総本山が把握しました」とギア。そして、その場所を指さす。


「どこ? 地面?」とノアは疑問符を浮かべた。


「ここの地下。 学園の地下ダンジョンに最深部へ進む通路が隠されています」


「え? 軍部が数か月も調査してわからない隠し通路が?」


「はい、人間の目ではわからないように――――アナリスが発見してくれました」


「そう……ちょうど良いね」


「ちょうど良いとは?」


「もうすぐ、夏休みだ。 みんなで一気に攻め込もう」


「――――っ! あぁ、やはり貴方は無茶苦茶だ。 そして、それに引かれている自分がいる」


「それじゃ、準備を続けて夏に――――」


「えぇ夏に――――」


「悪魔教を滅する」


 第一部 完


 夏休み編に続く?

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エロげーの悪役令嬢に転生した俺は凌辱END回避のために世界最強を目指す! チョーカー @0213oh

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