第128話 現れた天使 アナリス・ソフィー・ロラン

「あの爆発は問題ありません。すでに施設はバッドリッチ家が買収済み。情報操作により、ギアさまにはわからないように生徒たちには爆破解体を周知していました」


「大規模過ぎるよ! うちのお金を湯水の如く使わないで!」


「この程度、バッドリッチ家の財政では1日の食費程度かと」


「何食べて育ったの! 私!」


 ノアは、メイドリーを正座させて説教をしていた。 それが一通り終わったのか……それも、もう怒る事を諦めたのか……


 彼女は、残されたギアの方を見る。


 彼は、不思議と安堵の表情を浮かべていた。


(俺は憧憬に見捨てられていなかった。彼女は俺を試していたのだ。俺は、今……救われている)


 あまつさえ、その瞳には涙さえ浮かんでいて、ノアは触れていいのか? ヤバいのか? そんな警戒すらしていた。


(これは……話しかけて大丈夫なやつ? なんか、メンタルが彼岸まで飛んで行ってない? えぇい! ここは度胸一発だ!)


「えっと……ギアくん?」


「はい、何でしょうか? ノアさん」


「単刀直入に聞くけど……君がいつも、話している見えない彼女は誰?」


「――――ッ! 貴方と言う人は、一体どこまでわかっているのですか?」


「私にはわからない事ばかりだよ。 だから聞いているんだ」


「そう……ですか。 しかし、貴方ならば彼女を紹介しても……許してくれるかもしれません」


「許す? どうして、許すとか、許さないの話に……」と尋ねる間もなく彼、ギア・ララド・トップスティンガーの背後に何かが出現した。


 朧と言える気配は、濃さを増して色を生み出した。


 それは女性。 きっと、それは人間ではないのだろう。


 人の理に当てはめるには、少し美し過ぎる。


 見る者を魅惑して破滅へ誘うような危なさを有している。


 そして、この世の者ではない証拠に、その背中には純白の羽を生えていた。


 「――――ッ? 天使?」とノアとメイドリーは、彼女たちには珍しく物怖じする。


 初めて見る神の使いだ。 神話が顕現されれば誰だってそうなる。 


 だが、天使の顔がより人間に近づいた時、ノアが受けた衝撃は予想外からの不意打ちだった。


「貴方は! どうして、貴方が天使に? そうか……おかしいと思っていた」


 ノアに取って天使の顔は見覚えのある人物だった。


 この世界に来て、いまだ会った事のない彼女の憧憬……アイドルである。


 本来ならば、ノアたちと同級生として登場していなければならない人物。


 それは、本作―――― 『どきどき純愛凌辱シリーズ 魔法学園のエッチな私たち』においてメインヒロインであり、ルナ・カーディナルレッドと人気を二分させる攻略対象キャラクター


「あ……アナリス。 アナリス・ソフィー・ロラン!? どうして彼女が天使に!?」


 ノアが動揺するのも無理はない。


 彼女に取ってアナリスと言う少女こそ――――推しキャラ。


 まさしく偶像崇拝アイドルの対象だったからだ。


 

 

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