第127話 ギアの力、メイドリーの実力

 メイドリーはあらゆる武術を修め、あらゆる武器を使えこなせる。


 しかし、得意不得意がないわけではない。


 最も得意な武器はナイフ。 今、手にしている鉄線は二番手だ。


 ナイフを使用しない理由は隠密行動及び隠密戦闘を行うに準備期間不足。


 彼女がターゲットとして想定するのは、気配を悟るなんて当然の怪物たち。


 五感も獣以上に発達している。


 山へ入る猟師が、事前準備で苦心するのは人工的香りの除去。


 ここでいう人工的香りとは、衣服の洗濯時に纏わりつく香り。


 あるいは洗髪など、体を清める時に使う石鹸は致命的な匂いとなる。


 そして――――鉄と油の匂いだ。


 ナイフに染み付いた、それらの匂いを消す時間はない。 だから、彼女が選択した武器は鉄線だった。


 5種類の鉄線。 それぞれ、用途の違う鉄の糸。


 それがギアを襲う。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


「怪我はさせたくありません。 しかし、予告しておきましょう……貴方の機動力を奪うために足を集中的に攻撃します」


 メイドリーの攻撃予告。 


(心理戦……ではない。 そう本気で言えるほどの余裕があると……)


 ギアは苦笑する。


「メイドリーさんから見て、それほどの実力に開きが俺にはあると……それは楽しみだ」


 そのまま手にした魔剣を煌かせた。 魔剣の名前は――――


 『ソルティアの風鉄』


 その効果は――――


 「遠距離攻撃? おそらく斬撃を飛ばすタイプ……いえ、それだけではないようですが、接近すれば無意味でしょう」


「な――――」とギアは絶句。 あっさり、その特性を見破られ、無効化された。


「離れた位置で狙いを定める視線。 放つために後ろ足へ体重移動して反動に備えましたね……見え見えです」


 それでも、剣戟を繰り出すギア。 接近戦となったが、それでも有利はギアの方だ。


 鉄線の武器で剣による一撃を受ける事は不可能。 全て躱さなければ、アッサリと鉄線は切断されてしまう。


 「―――ッ! 素早く攻撃に転じますか……その判断力は見事ですね。 正解ですが……そこ、危険ですよ」


 メイドリーの言葉通り、ギアの動きが止まる。 その足には鮮血が零れ落ちている。


「い、一体、いつの間に罠を?」


「私が同時に扱う鉄線は5種類ですが……それ以外の鉄線を使用しないとは言っていませんでしたね。 すでに室内で10ヶ所は仕掛けさせてもらいました」


(本当に凄い実力差だ。魔剣を封じされ……出すしかないのか? 切り札を)


「おや、雰囲気が変わりましたね。何か、逆転の手段を隠していると見ました」


 アッサリとギアの内面を読み取ったメイドリーは距離を取る。 だが、それは――――


「それは魔剣の有効距離だ!」


 放たれたのは刺突。 しかし、その刺突は剣の間合いを超え、眩い光となりメイドリーを襲う。


「間合いの拡張……だけではありませんね。 斬撃の誘導? 追尾? ならば……」


 メイドリーは僅かに動いただけ、それだけで魔剣の斬撃は消滅した。


「残念ですが、私の鉄線は増え続け、すでに室内は遮蔽物だらけ……おそらく見えないと思いますが、遠距離攻撃は無駄ですよ」


「だったら――――」とギアは切り札を使おうと間合いを――――


「ちょっと待った!」


 乱入者の声で2人は動きを止めた。


「なんで? なんで戦ってるの?」とノアが飛び込んできたのだ。


「あの、向こうでの爆破って2人が原因じゃないよね? なんで目を逸らすの? 爆発まで起こしたの!」


「……」


「……」


と2人は知らぬ顔をしてやり過ごすしかできなかった。     

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