第126話 不可視の激戦 ギア対メイドリー 

 メイドリーとギア。 両者は睨み合い、互いを牽制するよう動かない。……そのように見えた。


 「――――ッ!」とギアは息を吐く。 見えれば、その頬に赤い線が入り、僅かであるが血が漏れ出す。


「素晴らしい回避能力ですね。 並みの強豪適度なら3度も避けられる事はないのですが……」


 暗器による不可視の攻撃。 それも3度仕掛けたのだとメイドリーは言う。


 だが、ギアはその場を動く事なく避けた。


 常人では、何が起きたのか理解すらできない攻防が行われたのだ。


「昔から、目だけは良いのでな」と不敵な笑みを浮かべるギア。


「不快です。なら、これは?」


(俺の足元に――――魔力が集中!? いつの間に罠を――――)


 爆発。 学び舎に不似合いが爆音が響く。


「やりましたか? ……いえ、これは!」


「やれやれ、学園を爆発するのはやり過ぎだろ? 死者が出るぞ」


「えぇ、ほんの少しだけ本気で死ねばいいと思って爆発させましたから」 


「俺、何か、そんなに嫌われる事したか?」


「あら、男のクセにノアお嬢様に近づく大罪を犯したと気づいていませんですか? これは大罪……死刑ですよ」


「それ、笑うところ?」


「いいえ、笑うところは皆さんが、貴方の遺影を見る時じゃないですかね?」


 両者は既に移動している。 


 爆破によって人が集まる。 逆に言えば、人目に付かぬ死角的な場所が多く生まれる事になった。


 移動しながらも両者は100合を越える打ち合いを交え、それでも互いが操る武器の正体を掴めずにいた。


(まるで無手ですね……腰に隠した剣は抜刀済みのはず。それでも、刀身を見せない体捌きは見事です)


(一体、幾つの武器を有している? 叩き込む毎に手から伝わる感覚が違っている)


 両者が交差する。金属音だけが遅れて聞こえてくる。 


 ならば、音速よりも2人は速いのか? ……そんなバカな。


 いつの間にか場所は学園の屋上。   どちらともなく足を止める。


 無傷ではない。 両者の技量では武器による攻撃は受けない。


 無意識に致命傷になる可能性を排除するように立ち振る舞うからだ。


 だからこそ、打撃は入る。 武器をフェイントに使った体術によってダメージは蓄積された。


 動きが鈍り始める。 両者が共に……


 ここに来て、ようやく隠し続けていた互いの武器が目視できる。


 メイドリーは剣の柄のような物を握っている。 よく見れば、そこから薄い光……鉄線が生えていた。 それも5本。


 切れ味を有する5本の糸を武器として使っていたのだ。


 対して、ギアは持つ武器は剣。 それもガラスのように半透明の物。太陽の下でようやく光を反射して刀身が見える。


 だが――――


 (おかしいですね。 仮に刀身が見えない物であれ、打ち合えば――――)


 そこメイドリーは、ある可能性にたどり着いた。


「察するに、その剣――――魔剣の部類ですね」


 その問いをギアは笑った。 


 ――――肯定の笑みだ。

 

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