第十一章 鬼ヶ島
4人は2日かけて山を越え、港へ着いた。
本来なら船頭が待っているはずだが、誰もいなかった。
「すみませーん!誰かいますかー!?舟に乗せて頂きたいのですが!」
桃太郎は何度か叫んだが辺りは静まり返っており、規則的な波の音だけが聞こえて来る。
しばらく辺りを探したが人影が全くなかったため、桃太郎が袋からきびだんごを出そうとしたところ、雉康はそれを静止しして港にそっと銭を置いた。
「雉康さん、ありがとうございます。私が出すべきところなのに。」
「いや、構わない。もともと死体の目に銭を置くくらいだ、死を覚悟している俺たちにとっては都合がいい。それに、きびだんごを置いても腐るだけだろ。」
「その通りですね。感謝します。しかし、この銭は帰りに回収しましょう。全員で倒して返ってきますから。」
雉康は強く頷いた。
桃太郎、雉康、犬吉、猿彦の4人は舟に乗り込み、もともと漁師の息子だった犬吉が舟を漕いだ。
途中、何度か霧の濃い箇所を通過して、ようやく島が見えてきた。
「あれが鬼ヶ島ですか。ずいぶん荒々しい雰囲気ですね。雉康さん、何か見えますか?」
桃太郎が尋ねると、雉康は懐から西洋の望遠鏡を取り出してしばらく観察した。
「いや、何も見えないな。見えるのは岩肌と、いくばかの木々だけだ。生物も確認できなかった。上陸してみるほかなさそうだな。」
犬吉はオールを握る手に力を入れ、鬼ヶ島の海岸まで舟を着けた。
「いや〜疲れた。もう手が真っ赤っかだ。」
「本当だな、犬吉。まるで俺のケツみたいだ。ガハハハ。」
猿彦の笑い声で、4人の緊張が少々ほぐれた。
「犬吉さん、ありがとうございました。しかしここからですよ。正直、どのくらい行けば鬼の住む場所まで着くのか分かりません。まずは手探りで頂上を目指しましょう。」
桃太郎が鉢巻きを締め直し、一歩踏み出そうとしたとき、雉康が言った。
「頂上まで行く必要はない。さっき望遠鏡で覗いたとき、この島で一番大きな岩に入り口のようなものを見た。この島はほとんどの木々が枯れているし、土壌も荒れているから、住むならあの岩の中だろう。あくまで仮説だが、無作為に探すよりはいい。どうだろう。」
「雉康さん、さすがですね。それで行きましょう。ルートが確立できないので、まずは全員で固まって向かいましょう。入り口まで来たら二手に分かれて様子をみます。その前に、皆さん武器の手入れをしませんか?海を渡った際に少し潮を被ったので。鬼を倒すには最高の切れ味でないと。」
桃太郎が提案すると、猿彦が大きな声で反応した。
「なら、俺に任せとけ!俺は5歳の時から砥石で刀を砥いてたんだ。家が武器商人だったもんでな。みんな俺がやるから、武器を並べてくれ。」
「武器商人の家に生まれたとは、これは心強い。何かあるまで、その人の背景は分からないものですね。では、お言葉に甘えて。」
猿彦は周辺にある石を物色し、一番適した石を選んで研ぎ始めた。
桃太郎は日本刀、
雉康は弓矢の鏃(やじり)、
犬吉は手甲鉤(てっこうかぎ)、
猿彦は短剣2本を並べた。
猿彦が全員の武器を研ぎ終えようとしていたとき、木陰で何かが動いた。
「何者だ!」
桃太郎の声と同時に全員が急いで武器を取り、すぐさま戦闘態勢に入った。
しばらく続いた沈黙の後、それはこっちを見つめながらゆっくりと洗われた。
左手のない、青鬼だ。
桃太郎たちは息を呑み、相手の攻撃を伺っていたが、青鬼はこちらをボーッと見つめているだけで何も仕掛けてこない。
どれほどの沈黙が続いたか分からないが、しばらくすると青鬼は踵を返し、背中を向け、ゆっくりと岩山に向かって歩き始めた。
「あの野郎、舐めやがって!今殺してやる!」
猿彦が飛びかかろうとするが、雉康に腕を掴まれた。
「ダメだ、猿彦。少なくとも今は、向こうに先頭の意思はない。それに、青鬼について行けば鬼の住んでいる場所に辿り着けるかもしれない。その場の感情に動かれるな。もっと思慮深くなれと普段から言っているだろう。」
「ちっ。俺1人でも片腕の鬼くらい倒せるのに。」
猿彦はそう言うと武器を収め、桃太郎に話しかけた。
「桃太郎、行こう。あいつを尾行して、鬼たちを全滅されるんだ。」
4人は慎重に、片腕を亡くして歩きずらそうな青鬼の後ろに付いて山を登り始めた。
自己啓発昔ばなし MOMOTARO 蒼川 新 @mrmomotaro
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