ダンジョンからの刺客1
「タケシさん、こちらお召し物を用意しておきますね」
朝から掃除をして、シェフドンパッチの焦げた朝食をとり終えると、『燃え盛る炎』の専属メイド、エリナが耐火性ヒーロースーツを持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
「ご存知かもしれませんが、小さめに見えても着ればぴったりのサイズになるようになっています」
「そ、そうなんですか。知りませんでした」
すごい機能だ。グッドデザイン賞がいくつあっても足りない。
淡いオレンジ色を基調とするメイド服を着たエリナは少し微笑み、一礼をして部屋から出て行った。
歓迎される側ということもあり、昨晩は飲み過ぎた。頭が痛い。一昨日ぶりの深酒になってしまったな。
それにしても、メディはよく飲むもんだ。ワインを1人で3本はあけていたぞ。それにしては今朝もバッチリなメイクで何食わぬ顔をして朝食をとっていた。あの量飲めば二日酔いコースだっただろ…
渡されたスーツをまじまじと見つめてみた。
やっぱり赤なのね。
晴れて見習いヒーローとなれたのは嬉しいが、見習いなりの制約も色々ある。
専用のヒーロースーツを作ってもらえない。
ダンジョンでは荷物持ち等の雑用を率先する。
毎朝ギルドの掃除をする。
まあ、こんな程度で済むなら安いもんだな。
生活環境全部用意してもらったし。。
ゆっくり着替えていると下からメディの怒鳴り声が聞こえた。
「おい、ボケ男!これ以上のろまな奴は要らないのよ!早くしなさい」
これ以上とは。。おそらくホットライターの事を言っているんだろう。いや、俺も失礼だな。
「すみません、今行きます」
ギルドの仕事は街の巡回から始まる。
天下一英雄大会の事もあり、メディが教育係となって俺に仕事を教えてくれる運びになったが、、
メディの血圧を上げないよう気を付けよう。
「メディさんおはよう」
「おはようございます。体調お変わりありませんか」
「メディちゃん、今日も色っぽいね!」
「あら、お上手。ありがとうございます」
それにしても、メディの住民からの信頼は厚い。
ヒーローは人気者というのはどこの世界も一緒なんだな。
「メディさん、人気者ですね」
「は、うるさいわ。お喋りしてる暇があったら街の様子をしっかり観察しておくことね」
「はい、承知しました」
「つまらない奴だわ」
だんだんメディとの接し方が分かってきたな。
「よう、メディ。相変わらずだな」
「あ、あなたは『電撃の巨人』の!」
「そう、サンダースだ。よろしくな、見習いくん」
「え?俺?あっよろしく…お願いします」
目の前には漫画『ジャイアントサンダー』の主人公ヒーローであるサンダースがいた。2mの大男の頬にある稲妻マークがパチパチしている。うわあ、本物かあ。
「って、俺のこと知ってるんですか?」
「ああ、ファイアマンから電報でな。今日は任務で来たんだ。内容は…教えられないけどな」
「あなた少しは発電を抑えられないのかしら。こっちまでピリピリくるわ」
「がははははは。生まれつきでな。すまない。ファイアマンだって夏には一緒にいたくないもんだ。お互い様だろう」
「どっちもうざい事には変わらないわ」
「じゃ、がんばれよ。くれぐれも、悪魔には騙されないように」
「ありがとう…ございます」
「悪魔って何よ!私?」
ウインクをするとサンダースはギルドの方へ向かっていった。いったい何の任務なのか。昨日のファイアマンの発言も気になるな。
「さあ、もうふた区画まわったら帰るわよ。変な奴のせいで遅れたわ」
相変わらずメディはヒーローに当たりが強いな。電撃の巨人は友好関係とは聞いたが、相手はリーダーだぞ…
街のはずれまで来ると、メディがしかめた顔をした。
「いるわね」
奥の方に緑色の大きな塊が見える。
「なんですか?あれ」
「緑スライムよ。まあ私でも倒せるわ」
そう言うと、メディが隣から消えた。
「ハイ ブリード」
いつのまにか緑スライムの前まで飛び、全身の血を抜くスキルを発動させた。瞬間、緑スライムの全身が溶けていた。
すげえ、かっこいい。
「何故かしらね」
あっという間の出来事に圧倒されているのも構わず、メディは考え込んでいる。
「もしかしたら、ダンジョンの亀裂が大きくなってきてるのかもしれないわ。すぐ戻るわよ」
「はい」
はい?ダンジョンの亀裂?それってやばくないか。
ヒーローズダンジョン 紫かき氷 @violet_shaved
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