第25話 訓練!
訓練場は、地下にあるが階段と同様に明るかった。
そして、かなり広い。サッカーグラウンドくらいだろうか。床は、踏みしめられた砂地である。
訓練場についたところで、ジルさんがライディたち子ども組にここに来た訳を話し出す。
「さて、儂がここに連れてきた理由はな……少しは世の中を知ってもらおうと思ったからだ」
子供たち全員が『?』を浮かべたように顔を傾げる。
(世の中を知ってもらうために、訓練場に来たの? 街を練り歩くのではなく?)
「ここは、迷宮都市だ。言わば、冒険者の聖地のような場所だ。お前たちも大きくなったら冒険者になりたいのではないか?」
「はい! はい! わたし、ぼうけんしゃになる!」
ティナが勢いよく挙手し、宣言する。
ダリルやマイクも冒険者になるつもりのようだ。
「そうか、そうか。しかしな、冒険者は、命がけの仕事をすることもある。そこで、冒険者として大切なことは何だと思う?」
「つよいこと!」
「うむ。強さも大切だな。それ以外は何かあるか?」
「仲間と準備ですか?」
「マイクの意見もとてもいいな!」
子供たちとジルは少しの問答をした後、訓練場の空いているスペースに移動した。
そして、ジルさんが、ここで何をするか説明を始める。
「ここで、儂と皆で模擬戦をするぞ! 武器は……、模擬戦用の自分に扱えそうな物をあそこからとってきなさい。私は武器はなしでやろう。儂一人対皆全員でかかってきなさい」
(模擬戦かぁ。前回はアレクさんと軽くしたなぁ。全敗したけど。今回はジルさん一人対私達三人か。人数差はあってもジルさんと私達子ども複数ではジルさんが普通に勝ちそうだなぁ。痛いのは嫌だなぁ)
私達は武器を選ぶ。
私は軽そうな短めの木剣を一本、ダリル君とマイク君は木剣と木盾、ティナは木剣二本を選んだ。私たちは子どもなので、どの木剣もショートソード以下のサイズだ。大人からしたらかなり小さい武器だろう。
それをもって、ジルさんがいるスペースに向かう。
ジルさんは腕を組んで待っていた。私たちはジルさんの正面に四人で立つ。
「お? 準備は良いか? 今から始めるが……少し、怖い思いをするかもしれんし、痛い思いをするかもしれん。しかし、それを乗り越えてこそ、冒険者としてスタートラインに立てる。覚悟は良いか?」
「「「「はい!」」」」
ライディたちは返事をした。
「では、このコインを投げる。このコインが地に落ちた時、模擬戦を始める」
私達は腰を落として、それぞれの武器を構える。
それを見て、ジルさんがコインを高く弾く。
私は弾かれたコインを目で追っていた。
コインが地に落ちた瞬間――――
――――心臓を握りつぶされた、
ように感じた。
「かはッ!」
私は、何が何だか解らず、木剣を手放し、胸を抑え、崩れ落ちるように膝を付く。
ほんの一瞬、私は死んだように感じた。
(なに!? なに!? どういうこと!?)
混乱する思考を落ちつけようとするが、動揺が全く取れない。そして、呼吸もままならない。
模擬戦が始まってすぐ、ライディのみが膝を付いている。
まだ、ジルやティナ、ダリル、マイクは動いていない。
「おい、ディ! どうした!?」
ダリルがライディに声をかけて来るが、反応を返す余裕がない。
「ほう。その様子だと、ライディとティナは気付いたようだな」
「え?」
「殺気だよ。マイクとダリルはあまり感じなかったようだな」
ライディは殺気に当てられ、身動きが出来なくなっているが、ティナは武器を構え、ジルを鋭く睨んでいる。しかし、ティナは身体が震え、冷や汗をかいている。その震えは武者震いなのか、恐怖から来る震えなのか。
(ふむ、ティナのここまで真剣な表情は見たことが無いな。そして、ライディは儂の殺気を敏感に察知出来たな。まぁ、殺気に当てられて、模擬戦どころではなさそうだが)
「さて、かかって来ないのか?」
「ッ、やぁぁあああ!」
ティナが叫びながら、駆け出す。それに続くようにダリルやマイクも駆け出す。
ティナがジルに鋭い突きを放つ。
ジルはそれを左に避け反撃しようとする――が、
ティナが突きだした木剣を避けたジルを狙い、木剣を横薙ぎに振るう。
横薙ぎを跳んで躱す。
ティナの身長がジルの腰より少し高いくらいしかないので軽く飛んで避けられる。
しかし、最初の突き攻撃はジル的にはかなり怖い攻撃だった。
なんせ、男の急所を初撃から真っ直ぐ木剣で狙ってくるのだ。
(おぉ~、怖い、怖い。将来が楽しみな鋭い一撃だった)
ジルがティナの攻撃をしのぐと、ダリルとマイクが向かってくる。
ダリルは上段からの振り下ろし。
マイクも同様の動きをしている。
(ダリルもマイクもティナほど戦闘の才はないか)
ジルはダリルとマイクに詰め寄り、攻撃の間合い、タイミングを外し、両者の腹を小突く。
「グエッ!」
「グハッ!」
ジルは手加減して小突いたつもりだが、子どもにとっては、かなりの威力があったようで、ダリルとマイクは仲良くお腹を押さえて、蹲ってしまった。両者ともに、大粒の汗を顔に浮かべ、悶絶している。
「なんだ、情けない。さて、残り一人……いや、二人か。」
ティナは木剣を構え、腰を低くして、ジルの動きを見逃さない! と言わないばかりに、睨みつけている。
ティナはジルに向かって、駆け出す。
今度はスピードよりも相手の間合いと相手の重心を観察しながら、肉薄する。
そして、ジルと自身の間合いに入る直前に右手に持つ木剣を振り上げ、振り下ろす――
―――ように見せかけ―――
―――左手の木剣を下からジルに向けて投げる。
フェイントを織り交ぜた不意打ちだ。
これには、ジルも目を見開く。ティナには、まだ戦闘の訓練らしい訓練を施していない。それなのに、この柔軟な発想と機転、戦闘のセンス。本当に驚かされる。
(この娘は天才だ)
だが、世の中、天才の成長を待ってはくれない。ティナが才能を最大限伸ばすまでに、ティナを殺す敵は必ず現れるだろう。ここは迷宮都市だ。ティナを殺すことの出来る存在などゴロゴロいる。
だから、教えなければならない。
現状ではどんなに手を尽くしても勝てない存在がいることを。
格上に相対したとき、無謀に戦わせないためにも。生き残ってもらうために。
投げられた木剣をジルは闘気のオーラを纏い、弾く。
ティナはジルが木剣を避けなかったことに驚きながらも、振り上げた右手側の木剣を力一杯、ジルに叩き付けた。
――――ガツンッ!
おおよそ木剣でなってはならないような音が響く。
ティナの右手の木剣は半ばで折れていた。それを見ただけで、どれだけの威力が込められた一撃だったのか、少しは分かるというもの。
しかし、その一撃を受けたジルは、何事もなかったかのように、佇んでいる。
「え? なんで?」
それを見て、ティナが唖然とする。
それを隙と観たジルはティナに反撃する。
ジルは、ダリルやマイク同様に、ティナの腹を小突いた。
「がッ!?」
ティナはお腹を押さえ蹲ろうとしたが、ジルに肩を持ち倒れないように、支えられた。
ティナは腹パンが思いのほか効いているのか、産まれたての小鹿のように脚がプルプル震えているが、ジルは無慈悲に支えて、立たせたまま、話始める。
「ティナ、お前の戦いの才能は儂は素晴らしいと思う。だがな、」
ジルの手に力が入り、ティナの肩を強めに掴む。
「グゥ、ウゥゥ……」
ティナがうめくがジルは構わず、話し続ける。
「今のお前は、まだまだ弱い! そのことを胸に刻め! そしてたくさん遊び、多くを学び、誰よりも努力しろ!」
「うッ、うっ、……うえぇえええ~~ん!」
ジンは話し終えるとティナの肩から手を放す。すると、ティナが地に崩れ落ちるように、膝を付いて声を上げて泣き始めた。
ジンは、ティナが大泣きする姿に申し訳なくなってくるが心を鬼にして、放置する。
そして、最後の一人――――
――――ライディに顔を向けた。
『最弱』になった私は異世界で【神】を目指す! と、女神様に誓いました! ルピス @rupisuu
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