「やさしいひと」には
ミーシャ
=
「やさしいひと」には
たくさんの紛い者が存在する
“舌先三寸”で 他人の笑顔を呼び
“先払いの献身”で 馬鹿高い対価を求める態度に
命尽き 魂潰えても 当人が望んだことと
「或る人」は言って憚らない
親切心も計算尽く
望まない善意などサービスの押し売り
何一つ恥じ入る必要などない
拙い承認欲求の捌け口に
応報の原理など知ったことかと
「やさしいひと」の想いや言葉
その人は本当に「やさしい人」であったのか
真偽を見分ける耳や鼻が
誰にでもあるのであれば よかったのに
本当にやさしい人は やさしく見えない
真にやさしくあることは あまりに辛い
その人自身が 目を背ける真実に
たとえ誰かが気付こうとも
嘘だ 幻想だと怪しむことさえ 許してしまう
そんな儚さ やるせなさ
そっと包んで守る覚悟さえ 歯痒いものにしてしまう
やさしいことは 厳かに静か
やさしいことは 声を上げて泣かない苦しみ
やさしいことは 最後に自分を捨てても 他人を生かす理
本当にやさしい人を好きになったとき
誰でもやさしい人になるのかな
ただまっすぐに生き 進んでいくために
僕の想いが 妨げにならないことを願う
きみの終わりの形代に
この世のすべてが吸い寄せられたとき
僕は初めて きみのやさしさを呪ったんだ
何一つ代わることの出来ないきみなのに
やさしさは容易く 命の狭間に溶けてゆく
気付かれぬまま 飛び立った白鳥
いつの日か また地上で会えるだろうか
やさしいきみの考えていたこと
誰かの幸せのために
他の誰かの犠牲があることを
「知らない」の
一言で終われない痛みと引き換えに
自分を差し出して
どこまでも どこまでも
光の届かぬ先まで堕ちていき
ある日突然 戻ってくる
光の中 太陽の真下
目を細めない君は
まるで
人では無いもののようにも見えたけど
「救うとか 救わないとかじゃない」
きみのつぶやいた言葉が 頭から離れない
ひどく居心地の悪いように肩をかたむけ
不安気に見返した その瞳は
こぼせない 涙をたたえているのか
今此処にあるものしか 映してはいなかった
『何も知らないからだ』と
僕は思っていたかった
人の心のおぞましさ 憎しみやねたみ
醜く 腐敗しきった何もかも
原初から救われる価値など無いものを
救済の理由を打ち消す 何もかもを
きみの行いと存在が 誰かの希望であるとき
きみの心にあるのは 何なのだ
打算や隠れた意図の その奥に
横たわる恐怖と その深い奥底に
空虚で無音の 摂理が眠る
得体のしれないルールに支配され
きみの魂が磨り減ろうとも
それが ”正しい” のだとする
すべての傍観者たちのために
特別ではない不運を
栄光のように受け入れたきみは
とてもやさしい
愛しい人だった
「やさしいひと」には ミーシャ @rus
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