キミと回るメリーゴーラウンド
長月瓦礫
キミと回るメリーゴーラウンド
「ねえ、本当にここでよかったの?
他に行きたいところとかあったんじゃ……」
「いいの! 私も閉園しちゃう前に来たかったから」
私が行きたいと言ったから、彼女も提案に乗ってくれたのだろう。
ただ、その行先は子ども頃、二人でよく遊んでいた屋上遊園地だった。
今月末に閉園してしまうと聞いていたので、もう一度行ってみたいと思っていた。
しかし、子どもの頃には大きく見えた乗り物が、今はどれも小さく見えて仕方がない。なんというか、夢から覚めて現実を突きつけられてしまったような気がする。
人の出入りもまばらで、今は私たち以外に人はいない。
無理矢理付き合わせてしまっているのではないかと、今更ながらに罪悪感が湧いてきた。
「なんか寂しくなっちゃうよね、ほんと」
キスカが私の近くで住み始めて、数か月が経とうとしていた。
長かった髪もばっさりと短く切って、すっかり大人っぽくなっていた。
ショートヘアのイメージはほとんどなかったけど、この姿もよく似合っている。
彼女とは幼い頃に離ればなれになって、ずっとそれきりだった。
何の連絡もなしに私の家に来たのには本当に驚いた。
「ねえ、あのとき、私が覚えてないって言ったらどうするつもりだったの?」
核心を突かれたのか、途端に口をつぐんだ。
彼女自身も、忘れられていたらどうしようと考えていたのかもしれない。
「まさか、何も考えてなかったの?」
「……そのときはおとなしく帰るつもりだった」
彼女は申し訳なさそうに目を泳がせる。
友達の家のインターホンを押して、「私のこと覚えてる?」だなんて言うものなのだろうか。知らない人だったら、完全に不審者の行動だ。
警察に通報されてもおかしくない。
「もう、連絡くらいすればよかったのに……」
「本当にごめんね。
地球儀はちゃんと動いてたみたいだったから、問題ないかなって思ったんだ」
町から離れる数日前に、キスカは地球儀をプレゼントしてくれた。
一番の友達である私に、大切なものをくれたのだ。
別れ際に地球儀にちょっとした魔法をかけた。
それは彼女の現在位置を示してくれる不思議な魔法だった。
手元にないから確認はできないけど、この遊園地の位置に点はあるはずだ。
「キスカにも同じものが見えてたの?」
元々は彼女の机の上に飾ってあったもので、ごく普通の地球儀だと思っていた。
ティアラをのせた途端に点が現れたから、あの時も本当に驚いた。
「私は世界地図で見てたんだけど、今でいうGPSみたいなものなんだって。
だから、お互いに自分の位置が確認できるんだけど……私も実はよく分かってない」
あの飾りも偶然見つけたものらしく、最初からついてきたわけではなかったようだ。
もしかして、彼女自身も気づいていないだけで本当に魔法が使えるのだろうか。
「それにしても、このタピオカ缶っていうの?
今ってこんなの流行ってるんだね、全然知らなかった」
「私も初めて飲んだけど……意外と悪くないね」
私たちは不思議そうに手元にある缶詰を見つめた。
乾燥させたタピオカを水で戻した後、大きめの缶詰に詰めて好きな飲み物を入れるだけだ。作り方もそんなに難しくないし、材料さえ手に入ってしまえば誰でも作れるということで、若者の間で流行していた。
空き缶に太いストローをさして飲むスタイルもなかなか斬新だ。
写真に映えるこの姿も、受けた理由のひとつなのかもしれない。
「ねえ、せっかっく来たんだしさ! 何か乗ろうよ!」
彼女は立ち上がる。遊園地と言っても、デパートの屋上だ。
乗物も自然と限られてくる。
「じゃあ、メリーゴーランドにする?」
「いいね!」
彼女に連れられて、メリーゴーランドへ向かう。
色とりどりの鎧をつけられた馬を見ると、いろいろと思い出す。
昔もこうやって、馬をそれぞれ選んでいたっけ。
二人乗りはできなかったから、スタッフさんにも注意されたのはいい思い出だ。
「そういえばね、おじ様から聞いたんだけど、ランドじゃなくて、ラウンドなんだって!」
ぐるぐると回るからラウンドということだろうか。
なるほど、単語の意味を考えてみるとそちらが正しいことに気がついた。
「じゃあ、これにする!」
「私はこっち!」
少し離れた場所の馬にそれぞれ乗る。
私たちの記憶と一緒にメリーゴーラウンドは回りだした。
キミと回るメリーゴーラウンド 長月瓦礫 @debrisbottle00
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