第一王子と長女3

「リアム様?」


 彼女の声に我に返って、自分が昔のことを思い出しながら、しばらく呆然としていたことに気付く。


 僕たちは宮殿でいつものように食事を共にした後、庭園のベンチで秋の夜風にあたっていた。


「ごめん、少しぼーとしてた」


 彼女は不思議そうに顔を覗き込み、おもむろに僕の額に手をかざして、「熱はないか」と呟いた。


「最近お忙しそうだったから、疲れてるのかも……大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫」


 眉を落とした彼女を安心させるように軽く微笑んだ。


 僕が心の中を読めることを知っているにも関わらず、クルミはいつもためらいなく触れてくる。

 僕に対してやましいことがなくても、誰だって心の中を覗かれたら嫌に決まってるのに、と今更不思議に思った。


「クルミは僕のことが怖くないの?」


 僕を元気付ける方法でも考えてくれていたのだろう、顎に指を当てて少し視線を落としていた彼女が目を丸くしてこちらを見た。


「怖い? 突然どうしたんですか?」

「ほら、僕って心の中、読めるから」


 彼女は先程触れたことを思い出したのか、僕の意図していることを理解したように「ああ」と小さく声を出すと、僕の顔を見てはっきりと答えた。



「思ったことないですね」


 あまりの言い切りように僕は一瞬目を見張った後、思わず吹き出してしまった。


「思ったことないんだ」


 なぜ笑われたのか納得いかないようで声を出して笑う僕を怪訝な顔で見ながら、クルミは「羨ましいとは思いますけど」と口を尖らせた。



「出来ることなら譲ってあげたいよ」

「譲られたところで扱える魔力ないですもん」


 変なところで拗ねてるクルミは僕がこの能力のせいで苦悩してただなんて微塵も思っていないようだった。

 それは僕の魔法が魅力的だと心から思っているからだ。


 そんな彼女に当時悩んでいた自分が今更ながらに馬鹿らしくなった。


「あーあ」


 声を上げながら、隣に座るクルミの細い肩に顔を預けてもたれかかる。


「急にどうしたんです?」

「んー?クルミが僕の婚約者で良かったなって」

「何ですか、それ……」



 「今日のリアム様は変です」と口にしながらも、もたれかかった僕の頭に頬をすり寄せた彼女からは、(私もリアム様で良かった)と囁くような言葉が伝わってきた。



「君は僕を翻弄するのが上手だね」

「……やっぱりちょっと困るかも」


 顔を赤くしてるだろう彼女にくすくす笑いながらも愛しさが込み上げてきて、僕の心の中も見せられたらいいのにと思った。

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私たち三姉妹は見目麗しい王子たちの婚約者になりました ikura @ikura_novel

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