第3話
ごこくエリアにはドーム状の磁場、言わばレーダーのようなものが張られている。
対空も意識してか、衛星写真からは所々に木々に隠れるようにして兵器のようなものが見えた。
そこを巡回する黒いセルリアン、まさに島全体が要塞だ。
敵は攻撃の様子は見せない。どちらかと言えば迎撃体勢だ。
即ち、侵入及び攻撃を確認次第応戦するというスタンス。
こちらも戦略兵器を投入しジャパリパークを火の海にするようなことは避けなければならない。
真の目的がわからない相手とのにらみ合いが延々と続く。
まさに『冷戦《コールド・ウォー》』の前触れと言いたいぐらいの静けさだ。
しかし、人類はそんな冷たさを鋳溶かす為の決断をする。
『上空1万メートル、そろそろ
「あぁ、そろそろだな。準備はすでに終えている」
超高速で空を翔ぶ輸送機の中で、無線越しに話しかけてくるメガネに応じながらボウシは酸素マスクを装着し、機内減圧してからの後部ハッチが開くのを待った。
これが彼等が立案した作戦だ。ごこくエリアに張られている磁場ドームは完全な半円ではなく、半楕円のようになっている。
海上からの接近より、空からの侵入の方が磁場に感知されてからのラグが多いのだ。
これはただの潜入ミッションではない。
半ば見つかっている状態での救出作戦。
島の状況が不明になっている今、作戦成功など不可能に近い。
――――――だが、今から降下するこの男ならば……。
誰もが希望を抱いていた。
そして、降下に伴う全ての行程が済んだ。
ボウシは開いたハッチまで移動し、真っ直ぐ視線を向ける。
夜明けだ。日が昇り、彼を黄金に照らしていく。
『ボウシ、そろそろだ!カウントするよッ!!』
「あぁ!」
10.9.8……4.3.2.1……。
『―――――鳥になってこい!! 必ず戻ってくるんだッ!!』
無線越しに女性の声が聞こえた。
カコ博士だ。仕事モードで、どもりのないハキハキとした口調が、ボウシの背中を押した。
上空からの自由落下。雲海を突き抜け、やがて緑生い茂るごごくエリアの大地が見えてくる。
朝日に照らされるその景色は、この世界のどこよりも美しく感じた。
パラシュートを開いて、木々の海へとゆっくりとダイブしていく。
きっと磁場に反応し、あの妙な装備をした人物が動く頃合いだろう。
だがボウシに恐れはなかった。恐れていては不可能を可能には出来ない。
パラシュートを切り離し着地成功。
つなぎと酸素マスクを脱いで、いつもの格好に。
ブーニーハットにハンターズのワッペンと対特定特殊セルリアン部隊のワッペン。
オリーブ色のジャケット、黒いズボン、腰には黒いガンベルト、右腰にはリボルバー対セルリアン弾が装填されたLAWMAN MK III、背中腰には2本のナイフを横向きに装着。
『やった!! 潜入成功だ!!』
「おいおい、任務は始まったばかりだ。…問題はここからなんだぞ」
『わかってるさボウシ。ここからは僕とカコ博士、そしてミライさんが君をサポートするよ。この二人はごこくエリアの地形は勿論、動植物にも詳しい』
「頼もしい限りだ」
『じゃあねボウシ。…カレンダを助けてくれ、お願いだ。健闘を祈る』
そうして通信が切るメガネ。
必要な時はいつでも無線でメガネ達と連絡し、場合によってはあちら側から無線が入ってくる。他にも軍からのサポートもあるので、ボウシとしてはありがたいことこの上ない。
「さぁ、いくか……」
無表情に近い顔で姿勢を低く進んでいく。
周囲に敵影はない。不気味なほどに静まり返っている。
聞こえるのは風で揺れる木々の音と、遠くから聞こえる鳥達の小さな鳴き声。
神経を張り巡らして進むも、トラップらしいトラップも存在せず、ある意味拍子抜けだ。
(どういうことだ……かれこれ20分歩いているが……敵対行動はおろか、警戒態勢をしいているわけでもない)
古い映画でこんな状況があった、気がする。
宇宙から来たハンターが、戦場で男達を相手に狩りをするのだ。
ジャングルの中でのあの妙にリアリティのある緊張感が、今まさにボウシに圧し掛かっている。
「…メガネ、おいメガネ聞こえるか?」
早速無線を使ってみる。だが、どういうわけかノイズ音が酷く上手く繋がらない。故障はありえない。これは彼が作ったばかりの最新式を遥かに超える性能を持ったメカだ。
妙な不安が脳裏をよぎったその時―――――。
「ん、繋がったか? おいメガネ、いきなり無線が―――――」
『いきなりごめんなさい、セルリアンハンター』
突如繋がったかと思ったら歳若い女の声だ。
次の瞬間にはボウシは茂みの中に伏せるようにして隠れ、周囲を見渡す。
敵側は複数で、これは警告かもしれないと。
その緊張感を無線越しに察したのか、さっきよりも柔らかな声で女は続ける。
『怖がらないで。私はアナタの味方よ』
「………………………」
『信じてもらえないようね。無理もないわ。実際に顔見せ出来ればいいんだけど、今のこの状況じゃ難しそうだし……』
無線越しの女は考えるようにして少しの沈黙。
そしてまた提案をする。
『アナタ、いえ、アナタ達の目的はわかってるわ。"アイツ"に連れ去られた女の人を連れ戻しに来たんでしょう?』
「…さぁな」
『もう、隠さないでってば』
警戒こそしてはいるがどうもこの声の主は憎めない雰囲気がある。
ボウシは少しやりにくさを感じていた。
『空からアナタが降りてくるのが見えた。もしも私が敵ならすぐにでも迎撃出来たはずでしょう? それをしないのは、私自身アナタの力を必要としているから』
「俺の力を?」
『えぇ、この島をアイツから取り戻す為の、ね』
「アンタ一体……」
『私? 今は、……―――――ファンのひとり、とだけ』
「ファン、だって?」
『えぇ、――――――あっ! 奴等もうここまで来ただなんて……また連絡するわ!!』
ガチャリと無線が切れた。同時に無線が元に戻りメガネとの連絡が繋がる。
ジャミングを受けていたらしく、ボウシでもかなり手こずっていたようだ。
余程の腕なのかはわからないが、妙な感覚はある。
彼女は敵ではないかもしれないと。
(それよりも、俺のファンってなんだ? 奴は俺のことを知っている? …………彼女は一体)
『ボウシ! 聞いてるかいボウシ!!』
「あ、あぁ聞いてるよ。どうした?」
『ふぅ、ぼーっとするなんて珍しいね。それにしても、ジャミングを仕掛けてくるなんて……敵は相当危ないね』
「いや、恐らく敵じゃない。俺の力を必要としていた」
『口実じゃないのかい?』
「合って見ない事にはわからない。ただ、彼女も追われているようだった。無線の奥で何かが木々を倒すような音が聞こえた」
『彼女、ってことは女性か。……だれだろう』
「わからん……兎に角先を急ぐ。このまま真っ直ぐ進めば少し開ける場所に付くはずだ」
『オーケー、フォローするよ』
『私達も是非頼って下さいね』
『……それにしても妙ね。フレンズの姿もまったく見当たらない。ラッキービーストも……』
気になることは多くあるがボウシは先を進むことにした。
まだこの地獄は始まったばかりだ。
Sons of the Celliot ~The Phantom President~ 木場のみ @68nftgz
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