第2話

 2日後、ブリーフィングルーム。

 スクリーンの映像を暗い中でジッと目を離さずに見る半分人で半分フレンズの男。


「あれが……君の言う、プロのナンバーワンかね?」


「はい、前任者のコンという人物の後継者であり彼をその『相棒』以上に知り尽くしています。実力も経験も、すべて彼を上回る…………今回の作戦に彼、コードネーム『ボウシ』はきっと答えてくれるでしょう」


 軍の重役のひとりと話すカコ博士の瞳には、映像の光で照らされいるボウシが映り込んでいる。

 足を組んで映像の細部までじっと観察している。映像内で悲鳴が上がろうが血飛沫が舞おうが一切顔色一つ変えずに最後まで見終えた。


 ブリーフィングルームの明かりが灯る。

 誰もがコンに注目する中、軍の人間が作戦の説明をする。

 上陸地点はA~Eの5つのポイント。

 中でも海岸からのCはまさしく先方隊の上陸地点だった場所だったので、危険と判断し除外とする。


 残るはA、B、D、Eの4つ。

 崖からだったり河からだったりと選択肢は用意されているが―――――。


「――――今ごこくエリアは未知の状態だ。どんな危険が待っているかわからない。カレンダ女史の無事も危ぶまれる……ミスター・ボウシ、今回の君の任務は速やかにカレンダ女史の救出をすること。単独での潜入になるが、引き受けてくれるな?」


 軍の人間の問いに、ボウシは黙っていた。

 周囲がざわつく。カコ博士はゆっくり立ち上がり、猫なで声で彼に問いかけた。


「あの、ボウシ隊長? どうなんです? まさかで、出来ないなんて、い、言いませんよね?」


 彼女の言葉で一気に視線を浴びた彼が言い放った一言。


「――――――――


「む、むり!!!!?」


 ブリーフィングルーム内が大きなどよめきに包まれる。


「き、貴様!!無理とは何だ無理とは!!それでも軍人か!!」


 重役の1人が胸倉を掴むとボウシは溜め息交じりに離させた。


「勘違いしなさんな。俺は別に出来ないとは言ってない。無理と言ったんだ」


「なにが違うというのかね!?」


「この作戦内容じゃ同じ轍を踏むって言いたいだけだ。無駄死になんざ俺はごめんだね」


 そう言って素っ気なく言うと部屋の端っこに用意されていたコーヒーを注ぎに歩く。そしてクッと飲みながら先ほどの映像が映っていたスクリーンを指差した。


「アンタ等は何か違和感を覚えなかったか?」


「どういうことか、説明を」


「あの触手の人物はずっと待ってたって所だ。襲いに来るわけでもなく、道端でバッタリってわけでもなく、ワザワザ見晴らしのいい平原で待ち構えていた……」


「まさか、事前に上陸をわかっていたということかね!?」


「そうだろうよ。しかも上陸ポイントからしてCでなければ、この平原にはたどり着けない。当てずっぽうでも何とかなりそうだが、あんな超技術を操る奴が、そんなガキの〇×クイズみたいに適当な判断をするとは思えない」


「まさか………こちらの情報が奴に筒抜けになっているのでは!?」


 またしてもどよめきが走った直後だった。

 扉をノックする音が聞こえて、1人の男が入ってくる。


「失礼します。ボウシ、データの解析終わったよ」


「あぁ、すまない」


「ん?彼は誰かね?」


 彼の名はメガネ。

 かつてはサンドスター研究所の職員だった男であり、ボウシの相棒でもある。


「話は聞かせてもらいました。情報が筒抜けになっているかどうかの心配ですが、どうやらその心配はないようです。ハッキングされた形跡もウイルスの混入もありません。ただ…………」


「ただ、なにかね?」


「いえ、ごこくエリア周辺に妙な磁場が張っているんです。まるでレーダーみたいに」


「なんと! ははは、そんな馬鹿な………」


「そうは言いきれないぜ」


 コーヒーを飲み干したボウシがまた自席まで歩いて、皆に背を向けるようにして立つ。

 再度、あの人物の写真が映し出された。


「奴の触手や防弾の服装………相当な装備だ。用意周到にもほどがあるくらいにな」


「僕も気になって解析してみたんだけど、やっぱりおかしいよ。あのマニピュレーター………今の人類の科学技術でもあそこまで完璧に動かすのは難しい。いや、むしろ不可能に近い。それを戦闘にも応用できるなんて…………どんな強度や構造をしてるんだ?」


「そして奴の防弾加工の服装だ。ブラックマーケットにもあんなものは流れていない。そしてそれを匂わせる情報もない。かの女王と同等のエネルギー反応だが、本当にセルリアンなのかそれとも別の何かなのか仔細不明……ふふふ、悪夢のオンパレードだな」


「敵は悪い魔法使い……か。あぁ、カレンダ……」


 メガネの一言はあながち間違いには聞こえなかった。

 もしもボウシやメガネの言う通りなら、上陸しようと近づこうものなら必ず位置を特定され、待ち伏せを喰らう。


 未知なる敵のホームグラウンドと化したごこくエリアへの潜入は作戦段階で困難を極めていた。

 だが、ボウシは迷わずにある提案をする。


「まだあるぜ、ごこくエリアに潜入する方法は」


「なに!?」


「メガネ。調べておいてくれたよな?」


「勿論だよ」


 ボウシとメガネの案の元、作戦は練り直されることになる。

 急ピッチで準備が行われ、その3日後―――――、遂に作戦は決行された。

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