第1話

 調査隊が上陸して1時間、最後の定時連絡から通信が途絶え生死不明。

 この事態に艦内では騒然となっていた。


「あの島でなにかあったのでしょうか………」


 甲板から遠くにぼんやりと映るごこくエリアを見ながら緑色の髪をなびかせているのはかつてのジャパリパークガイド『ミライ』。

 そしてその隣で彼女の肩に手を添えながらも、恐怖を押し殺しているのはミライの親友であり、ジャパリパーク動物研究所副所長であった『カコ』。


 妙に冷たい風があの島から流れてくる。

 外部からの介入を牙を向いて拒む猛獣のようで、その場にいるだけでも嫌な汗が流れてきた。


 しかし、あの島に向かった人々が心配でならない。

 そしてもしもあの島にフレンズ達がいるのなら……。


「カコ博士! ちょっと来てください!!」


 研究員の1人が扉を開けて呼び出す。

 何やら切羽詰まったような表情で、カコとミライはお互い顔を見合わせた後、急いで彼の後ろを付いていった。


 作戦指令室に設けられたモニター。

 そこに映っているのは画質の荒いごこくエリアの映像。

 上陸した調査隊の中にいたラッキービーストからのものらしい。

 海岸から森の中へ、そこにはフレンズの姿はおろか一般動物もラッキービーストの姿もない。


「発信源は調査隊のラッキービーストからです。ついさっき送られてきた映像なんですが……………」


「あのごこくエリアが、こんなにも変わり果ててしまうなんて……」


「と、とりあえず、もう少し先を見てみましょう


 そして、惨劇は起きる。

 

 森を抜けて尚、場の暗さを持つ平原で待っていたのは人間の男と思しき影。

 黒いスーツの上から黒いトレンチコートを羽織り、その上から肩と胸を覆うような機械を纏っていた。

 その機械の胸部からは金属の触手マニピュレーターが2本、背後へ垂れるよう伸びており、男の足元を先端が蛇のように揺らめかせている。


 顔は見ることは出来ない。中心に巨大な目のような光の紋様が浮かぶフルフェイスを装着し、不気味な呼吸音を微かに外部に響かせていた。


『貴様、何者だ!!』


 軍の人間達が銃口を向ける。

 だが男は何も言わない。その代わりにアームを不気味に動かし、一歩ずつ近づきながら一気にアームを人間達の方へと。


『ぐわぁあああああああッ!!』


 悲鳴と共に銃声と薬莢の落ちる音が周囲に響き渡る。

 だが男にダメージが入ることはない。 

 フルフェイスや胸部の装甲に弾丸が通じず、そればかりか黒衣そのものに防弾加工がしてあるのか、こちらの攻撃を物ともしていない。


 所々で血飛沫が上がり、アームによって裂かれ、叩きつけられ、殴り飛ばされ、投げ飛ばされて人体を滅茶苦茶にされていく人間達。

 女性隊員が逃げようとして地面を這いつくばるも、アームに捕らえられた。

 泣き叫びながら地面を引っ掻くようにして抵抗するがあえなく連れて行かれ、葉っぱのように引き千切られる姿が映る。


 まるで神話に出てくる大蛇のような二振りの触手。

 最大射程範囲は7m強、はっきり言ってしまえば今の人類の文明でも作れるかどうか不明な代物だ。

 戦闘員、非戦闘員差別なく、その命を刈り取っていった。


 1人また1人と死んでいく中、隊員の誰かがこの映像を映していたラッキービーストを遠くへ投げ飛ばす。なんとかして生き証人を残しておきたかったからなのだろう。

 それほどまでに命の散っていく様は、刹那的で凄惨だったのだから。


 ラッキービーストがバウンドしたのを最後に映像は途切れる。

 最後は草むらの映像と、銃声が一発。

 草の合間から薄っすらと、自決した隊員の姿と調査隊のリーダーであるカレンダを連れて行くあの男の姿が見て取れた。





「う、うぷ…………ッ!!」


「カコ博士!!」


 隣でパニックを起こしたようにしゃがみ込み嘔吐するカコ博士にミライは寄り添って背中をさする。

 しかしミライとて吐き散らしたいのは同じことだ。あの映像を見たせいでトラウマにでもなりそうな……。


「な、なんなんだ、今のは……」


「ば、化け物か……ッ!?」


 数人の研究員も蒼ざめた表情で呼吸を荒くする。

 中には貧血を起こしたように倒れ込む者もいた。

 ジャパリパークに現れた未知の恐怖。

 かつての『女王』でもここまで惨いことはしなかった。

 

(何てことを……許せません!)



 こんなことをされて黙っているわけにはいかない。

すぐに対策本部がしかれ、映像から読み取れるあらゆる情報を収集していった。

セルリアンに並ぶ第三勢力の可能性。

及び新種のセルリアンの可能性と議論

を重ねていく。


そして調査を進めていった結果、それは人間でありながらも、なんとあのかつての女王と同等レベルのエネルギー反応を検出出来た。



作戦会議が開かれる。

 まだ気分が優れないながらもカコ博士とミライが同席する。

 何時間にもわたる会議が行われた。敵の戦闘能力並びに島の危険度は深淵とも言える程に未知数の領域だ。

 


 そして結論が言い渡される。

 もう一度ごこくエリアへ調査へ行くということだ。

 しかし、同じようにしたのではまた返り討ちにあう可能性が高い。


「そこでです。私からお願いがあります。この件に関してのエキスパートをこちらから推薦したいのです」


「エキスパート? 誰かね?」


「かつてその人物はセルリアンハンター実働部隊に属していました。中でも『対特定特殊セルリアン部隊』という高驚異レベルのセルリアンを駆除することに長けたエキスパート集団の隊長を勤めあげるほどの実力者なのです。……彼はただのプロではありません。経験も身体能力も全て突出した、プロのナンバーワン」


 カコ博士は真剣な眼差しで軍部の人間にそう進言した。

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