Sons of the Celliot ~The Phantom President~

木場のみ

プロローグ

ガリ、ガリ、ガリ…………………


 黒衣の男は胸の部分を指で引っ掻くようにいじっていた。

 心臓のある方だ。衣服の上からでもわかるほどに、かつての『痛み』が鮮明に残っている。


「ワタシはかつて、いや、かつてという言い方はおかしいのかもしれない。だが、現時点ではそれはどうでもいいことだ


 男は窓の外に映るごこくエリア全体、そして立ち込める暗雲に満足そうな笑みを零しながら顔をソファーの方に向ける。

 言葉は座っている本人に合わせて敢えて英語で喋っていた。

 

「君も恐らく話には聞いたことがあるんじゃないかな? イカれた科学者が自分の胸を撃ち抜いた……パーンってね」


 指鉄砲を自身の胸に当てておちゃらけてみる。

 だがソファーに座った、いや、座らされたその女性は涙で瞳を潤ませながらもずっと口を噤んで彼から目を離さない。

 これが精一杯の抵抗とでもいうように、恐怖と戦いながらも膝の上で拳を握りしめていた。


「………昔話には興味を示さないか? それでは本題に入ろう。パークから人間がいなくなって、数年が経った。連中は何をしている? "君"をここに派遣したということは……何か意味があるんだろう? ―――――――カレンダ」


 窓の外で稲光が走る。

 その光でお互いのシルエットが仄暗い部屋に浮き彫りになり、男の影が不気味な大きさに映った。


「CARSC……野生生物を災害から救う為の動物生態学研究センター……。生前の時もそうだが、実に胡散臭い組織だ。生前むかしから信用はしていなかった。勿論君のこともだ。あぁ、話が反れてしまったようだな。ジャパリパークの外を時たまヘリが巡回しているのは見たことはあるが、こうして上陸してくるのは君が初めてだ。……おっと、君"達"だったな。連中は皆殺しにしてしまったからね」


「ドクター・ルーカス。アナタは……アナタはどうしてしまったの? アナタが人間嫌いだっていうのは知ってる。けど、あんなのってないわ! ようやく生きているアナタを見つけたのに……ミライやカコ博士がこれを知ったらどれだけ悲しむか」


「警告を聞いておけばこうはならなかった」


「こんなのおかしい! あの中にはアナタの知り合いだっていたはずよ! それを……それを……ッ! …………一体どうして? 何がアナタをそこまで変えてしまったの? お願い、正気に戻って……ッ! こんなの、アナタじゃない」


 カレンダ。

 CARSCに属する研究員にして、パークにおける客員研究員。

 パークに人間がいなくなって数年たったある日、CARSCは他の研究機関や軍事機関と共に現地に赴き、調査を行おうとしていたのだ。


 その際、ごこくエリアにて謎の通信が入る。

 それは警告だった。従わなければ侵略行為とみなし容赦なく攻撃態勢に入るとのこと。


 カレンダをリーダーとして、ごこくエリアの現状を探るため潜入したのだが……。

 目の前のこの男が突如現れることで、状況は一変。

 たった一人の攻撃によって調査隊は無惨に壊滅した


 彼女1人が、こうして囚われてしまった。

 涙を浮かべながら説得するカレンダに対し、どこまでも冷たい瞳で返す。

 

「カレンダ。君を生かしたのには、理由がある。先ほどの質問の通り、君達が来たのには何か理由があるのだ、と。調査隊、などと言うのは表向きの役割シナリオで、実際はもっと別にあるのでは………ないのかね?」


「な、なにを言っているの……?」


「……『BIG BOSS』。この名に聞き覚えはあるかな?」


「――――――」


「沈黙は肯定と捉えるが?」


「何が目的なの、ドクター・ルーカス」


 カレンダの目付きも変わる。

 男はにんまりとこう答えた。 



「――――独立記念日インディペンデンス・デイ


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