フレストファー魔法学校編

第18話 北国 グランガニヤ


「アベル、降りてこい」


始めって乗ったバロの馬車は、揺れがひどくお尻が痛かった。魔法も用いて、馬車は全速力で北を目指していた。バロには高級なクッションがあり、僕にはなかった。


バロは調査が再開すると、すぐに西国を出ることを決断した。


降り立った北国の空気は冷えきり、見上げた空はどんよりと曇り、灰色の厚い雲が、白い雪を降らせていた。


雪に少し埋もれた、赤い煉瓦で建てられた、国境の検問は、温そうな茶色い毛皮を羽織った、赤と黒の警備員服を着た、警備員に守られていた。警備員たちはババロが見せた通行証を確認し終えると、寒そうに凍える僕たちを迎え入れた。


「アベル、上着を着てきなさい」


馬車の中は魔法で暖かくなっていたため、外に出ると余計に寒く感じた。こぼれ出てくる鼻水を何度もすすりながら、人数確認を終えウェインに言われたとおり、馬車に戻り、自分の白い毛皮の上着を羽織った。


「ここで、ヴァーグを放すぞ」

「ワン、ワン」


ウェインが青い手綱を引いて、ヴァーグを連れてきた。

僕はヴァーグの首輪を外してやる。


「ヴァーグお行き、元気で暮らすんだよ」


抱きしめてやると、ヴァーグは短く鼻を鳴らし、別れの時を理解したのか、山の方に向かって、走っていった。


国境を越える手続きが終わり馬車が動き出すと、ヴァーグの遠吠えが、山の方から聞こえてきた。


「アベル、今日から俺のことはバロと呼べ、俺の仲間にはそう呼ぶように頼んでいる」


バロは調査が中止になってから、亡くなった領民の家族に見舞金をもって、話を聞いて回った。


その間に僕らは、残った屋敷を片付けた。壊れたバロの馬車は破棄して、同じ新しい馬車を購入した。色だけは緑から茶色に塗り変えた。

残ったババロの部屋からは、母とババロを描いた小さな肖像画が出てきた。母の姿を始めて目にした。幸せそうに笑っている姿が絵がかれていたのが印象的だった。

調査に回っていた他の執事も屋敷のかたずけに戻ってきた。


調査が再開する前にバロは責任をとって領主をやめ、北国を目指すため、屋敷と土地を売り払った。


調査には部下を何人か残し、何かあれば『交信コネクト』で連絡が入ることになっている。


お世話になったシスタージョアンヌやアーサー、先行調査隊の人たちに礼をいい、ラストリアをバロ達と出国した。


バロの使用人をやめてから、魔法学校に通うことにし、レナとビブリオから魔法について習っていた。

石版を持っていない僕には、魔法は発動できないので、詠唱をまずは覚えることになった。


「寄せ付けるな、悪意を拒め、敵意を退けろ、我が盾となりて、我の憎むすべてを拒め!!『結界レジティム』」


「アベル、また間違えたぞ。それでは魔法が発動しない。悪意を阻めだ」


移動中もビブリオから、急に魔法名を言われ、その詠唱を答えなければならなかった。


ウェインの訓練には、ハシェルとコルドが加わり、『結界レジティム』・『強化ブースト』・『シルド』の魔法を交えた戦闘訓練に変わり、しごきが一段と厳しくなった。石版は、カービスの使っていた石版を訓練の時だけ使用した。


「その程度では、カービスの足元にも及ばないぞ‼」

「ックソ」


ハシェルは、僕の唱えた『シルド』の魔法を、自身の剣で簡単に切り裂いた。ハシェルは恐ろしく強かった。こちらが『強化ブースト』で肉体を強化しても、ハシェルは魔法も使わず、簡単に押し勝ってくる。ハシェルと闘うと、手加減はなく、いつも防戦一方になった。


屋敷で封魔を唱えてから、ラムドの不快感は薄れていた。

ビブリオが言うには、魔法に体が慣れてきたあかしだということらしい。


国境を越えてからも、バロは北を目指し続けた。どこかの街に泊まることはあっても、次の日には町を出た。目的地を聞いても、バロは北だとしか答えなかった。馬車では手紙を魔法のインクで何通も書いては、町に着くと出しに行っていた。


北上するにつれて深くなってくる雪を、馬車の前方に展開した『シルド』の魔法でかき分けながら、山道を進んだ。


ババロが馬車を降りて、町に腰を据えたのは国境を越えてから2か月後だった。


周囲を山で囲われた小さな町の外れの、赤く塗装された木の一軒家の前に、馬車は停止した。


「バロ、ついたぜ」

「案内ご苦労、コルド。ウェイン、俺は町の連中に挨拶してくる」

「かしこまりました。部屋の片づけと周囲の雪かきをしておきます」


北国出身のコルドが、グランガニヤに入ってからバロの馬車を引いていた。

コルドは年の割に小柄で、風の魔法をもちいたスピードを活かした戦いが得意だった。


新しい家には、薪の暖炉と灰色の煙突があった。1階から屋根へと続くはしごを登り、屋根からコルドとスコップで雪を落とした。


エスペランサの魔法遺跡調査が一時中断になってから半年、髪は肩にかかるほど長く伸びた。北の雪と凍りつくような冷たい風にも慣れてきた。


屋根からは、雪に覆われた町がよく見えた。


「うぉおおおおおおおー」

「おいおいアベル、加減してくれ」


コルドには、剣術では負けなかった。


「剣術だけならば、同年代に敵はないでしょう」

「そうだろうな、元剣聖が直々に教えてるんだ、ぬるい仕上がりになるはずがない。おいコルド、手を抜くな真面目にやれ‼」


「やってるよ‼ ハシェル、話かけんじゃねえよ‼ あぁ、負けた。魔法使っていいなら俺が勝つんだがなぁ」


僕の剣がコルドの剣を弾き飛ばした。地面にコルドの剣が突き刺さる。

コルドは剣を拾い上げ鞘に戻し、頭をかきながらハシェルに文句を言いに行った。

両手に一本づつ剣を持つ戦い方のコルドには、両手で剣一本では物足りないらしい。


「おい、ハシェル俺と魔法ありで勝負だ」

「お、久々にやるか」


ハシェルは盾と剣を手に取った。コルドも両手に短剣をもち、構えた。


「アベル、魔法学校へ行っても自身で鍛錬を積み続けなさい。怠れば鈍るだけです」

「はい」

「魔法を交えた戦闘は、半年で身に付くほど甘いものではありません。過信しないように。あなたはまだまだ弱いのです」


入学試験まで、残り一か月と期限が迫っていた。


「ガハハハッ、やはり俺の勝だったな、コルド」

「くっそおおおおおおおおおお、今日は負けてやるよ」


コルドは悔しそうに仰向けに倒れ、地面を両手で叩いていた。

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石版の魔法使い 石田ゴロゴロ @isida01565

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