第36話【エピローグ】

【エピローグ】


 スペースプレーンは問題なく大気圏を突破し、元の航空管制センターに着陸した。すぐにタラップが展開され、僕もミカもそれを降りていく。


 既にこのギガフロートには夜が訪れていたが、管制塔やカタパルト、滑走路などの設備に電気が走っていて、暗くはなかった。それらを逆光にして、駆け寄ってくる影が二つ。

 言うまでもなく、タケオとヴィンクだ。


「無事か、二人共? 先ほど人工衛星の機能停止が伝えられたところだが……」

「ああ。ちゃんと話はしてきたよ。『神』というか、AIにね」

「で? そのAI、ちゃんとぶっ壊してきたんだろうな?」

「いいや。そんなことはしてないよ」


 興奮気味のヴィンクを前に、以前の僕なら返答に窮するところだっただろう。が、今は違う。

 僕はAIとの会話を、詳細に二人に語って聞かせた。


「次会う時は一千年後って……。何だよ、釈然としねえなあ」

「いや、それまでに、俺たち人間がまともになっていればいいだけのことだ」

「でもよ、タケオ。これじゃAIの言いなりなんじゃねえか?」

「あたしはそうは思いません」


 そう断言したのはミカだ。


「人間は、周囲の環境に適応するのではなく、環境を改変して繁栄してきた動物です。監督役がいても、悪くはないのでは?」

「いや、少し待ってくれ」


 タケオは顎に手を遣った。


「その『監督役』という言葉……。言い換えれば『監視者』『束縛者』ともなり得るぞ。AIの言いなりになるというヴィンクの危惧はもっともだ」

「でも、猶予は与えられています。次の一千年です。いい加減、人間も自分たちの振る舞いを見直す時期なんじゃないですか」

「よく言うた、ミカ!」


 僕たちが振り向くと、そこにはサントがいた。


「サント、大丈夫か? 壁に取り込まれて、管制システムと直結していたみたいだけど」

「なあに、心配ご無用! システムに取り込まれたのは事実じゃが、そのシステムを司るのも我輩の務め。お主らの帰還を確認してから、すぐに接続を切ったわい」


 すると、柔らかい温もりが僕の足元にまとわりついた。ケリーだ。


「で、これからどうするつもりじゃ、お主ら?」

「次の『神』を説得しに行く」

「お、おいジン、そんなキッパリ言われてもなあ……。他に数機の地上攻撃用人工衛星が存在したとして、どこにいるのか目算は立っているのか?」

「タケオ、左腕を出して」


 何をしだすか分からない。そんな視線を浴びながら、僕は長剣を抜き、そっとその剣先をタケオの腕に当てた。

 直後、バシッ、という鋭い音と共に、赤い閃光が走った。すこしだけ、視界が麻痺する。


「お、おい! 何するんだ、ジン! この鎧に搭載されている地表データに何かあったら……あれ?」

「ど、どうしたんだよ、タケオ?」

「地図が……地図が拡張されている!」


 難しい顔をして、タケオの左腕の装甲板を覗き込むヴィンク。だが、僕には分かっていた。


「次に説得すべき『神』と、そこに至るまでの道のりを示しているんだと思うよ」

「つまり、我輩たちの冒険は始まったばかり、ということじゃな!」


 誰に対してか知らないが、サントは胸を張ってやる気満々のご様子。


「そう、か」

「どうしたの、ジン?」


 僕は目を細め、タケオの左腕に見入る三人を見つめた。


「これからも、この五人と一匹で冒険を続けていくんだな、って思ったら、不思議な感じだ」


 ふふっ、と笑みを漏らすミカ。


「いろんな場所で、いろんな過去を背負って、はたまた今とは違う時代から来た人もいるくらいだからね。あたし、自分たちに何があっても、負ける気がしない。誰よりも、ジンがいてくれるから」

「そうだな。これからも、ミカのことは、絶対に守り抜くよ」

「おやおや、勇ましいことですこと」


 ミカは口元を緩め、ジト目で僕を見つめてきた。


「これからもよろしくね、あたしの騎士様」


 そう言われた直後、僕の頬に柔らかいものが触れた。それがミカの唇なのだと気づくのに、そう時間はかからなかった。


「ちょっ、ミカ!」


 僕はおそらく顔を真っ赤にしていただろう。腰を折って笑い出すミカ。

 そんな僕たちの間で、ケリーがみゃあお、と鳴いた。まるで、僕たちを祝福するかのように。


 THE END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神滅のベテルギウス 岩井喬 @i1g37310

現在ギフトを贈ることはできません

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ