第1話 止まない雨はない
道端で倒れていた記憶喪失の謎の少年ソラをサンが助けた翌日。
コンコン!
サンとソラの寝る部屋をノックする音
「サン起きなさい、儀式の時間に遅れてしまうわ」
「うん、お母さん......」
寝起きが悪いのかどうなのか、あんなに明るい振る舞いだったサンの様子が一変して、とんでもなく落ち込んでいるように見える。それを見たソラはすかさずサンに聞く
「どうしたサン?具合でも悪いのか」
「ううん大丈夫、気にしないで」
悲しげな顔をするサンはそう言うと、出て行ってしまった
「どうしたんだろう、昨日はあんなに元気だったのに」
すると、サンの母親がスッと部屋に入ってきてソラに事情を話し出す
ーーー
「旅の人に、それも貴方のような少年に話すのもどうかと思うんだけど、あの子の最後の日だから話す事にするわ」
「最後の日?」
「えぇ、あの子はね儀式の生贄に選ばれたの」
「い、生贄......?」
あまりの唐突な言葉に思わず目が見開いてしまう
「この通りこの国はずっと雨が降り続いていてねえ、特に国の端のこの山奥は、雨による被害が多いの。私の旦那も土砂崩れに巻き込まれて亡くなったわ」
「それとサンが生贄になるのになんの関係があるんですか!!!」
あの子の笑顔が見れなくなるのか。雨による災害と、生贄に繋がりを見出せないソラは答えを急いでしまう
「そう焦らないでちょうだい、全て話すから」
なだめられてしまった
「......はい、すみません」
今度は落ち着いて、サンの母親の話を聞く
「ここはね、大きな泉を囲うようにできた村なの。5年前、その泉に龍神となのる怪物が住み着いてねえ、最初はみんな恐れていたんだけど、その怪物が住み着いてから雨による災害がなくなったの」
「龍神......そうなんですか」
「そう。その龍神によって災害はなくなったのだけれど、それには条件があって、半年に一度、生きた人間を生贄として差し出すこと」
「......!」
みんなが生きる為に誰かが死ぬのか。あまりのショッキングな事に言葉を失う
「もちろん、誰も生贄になんてなりたくないのに、あの子はこの村の為に......」
サンの母親は泣き出してしまった
ーーー
サンの望まれない死を知ったソラは、はっ!となり、部屋を飛び出してうずくまっていたサンに駆け寄る
「どうして言ってくれなかったんだ!」
サンがこちらに振り向くと、その目からは涙が流れている
「何も知らないソラに言っても仕方ないじゃない!」
サンの心からの叫びに応えるソラ
「俺がサンを守ってやる」
不意の言葉に高鳴る鼓動。昨日会ったばかりのはずの少年に、少女は心を高鳴らせていた
「え......」
思わず言葉につまる
「少し思い出したんだ自分の事」
「そうなの?でも、もう儀式が始まっちゃう」
「俺も連れて行ってくれ、その儀式に」
ーーー
泉のほとり。純白の服に着替えたサンと、それを見守る村人が集まっていた。その中に1人、サンを救おうとする少年がいた
村長が話し出す
「皆のもの、集まったな。これより龍神様に捧げる儀式を行う。この村の為に自ら生贄を志願したサンに、皆感謝するのじゃ。ありがとう、サン」
こくり。力なく首を縦に振るサン。それをみた村長は龍神を呼び出す
ザパァー!!!
泉の中から、龍神が現れる。が、それは龍神とは名ばかりの、龍の形をしたヘドロのようなものだった。村人達はそれを見ると、現実から目を背けるように、俯いてしまった
『今回の生贄はお前か。若い女の肉を用意するとはいい仕事をするではないか』
耳を塞ぎたくなるような汚い声。そんな龍神に向かってサンは勢いよく言葉を発する
「誰も好きでお前の相手をするんじゃない!」
『我がこの村守ってやっているというのに、五月蝿い小娘だ。さっさと、食らってしまおう』
そう言うと龍神は、大きな口をゆっくりと開く
恐ろしいはずだ、逃げ出してしまいたいはずだ。少女の体には大きすぎる、生贄という責任。だが、少女はしっかりとそこに立っていた
ーーー
誰もがこんな恐怖、早く終わってくれと願う中、怒りに震えた声が鳴り響く
「いなくなるのはお前だ!龍神!」
『むぅ、誰だ!』
辺りを見渡す龍神。集まった村人の中にはいない。上だ、その声の主は天高く舞い上がり、龍神をギラリと睨んでいた
龍神が気づいた時にはもう遅い
拳を硬く握り、龍神の頭蓋をめがけて振り下ろす
ド!!!ゴーン!!!
人を超えた力になす術なく、轟音と共に水面に龍神が叩きつけられる。龍神の息は絶えたようだ
ーーー
「ソラ!!!」
思わずサンは抱きついてしまう。柔らかな膨らみがソラの右腕を包む
「あ、当たってる」
「ごめん...!」
照れ合う2人。フワフワした空気になる中、1人の村人が声を上げる
「どうしてくれるんだ!あんな怪物でも村を守っていたんだ!お前のせいで村がどうなると思ってるんだ!」
他の村人もそうだそうだと声を上げ始める。今更、大変なことをしてしまったと、冷や汗をかいているサン。そんなの構わないと、サンにだけ聞こえる声で
「大丈夫だよ、俺に任せて。少し思い出したって言ったろ」
ソラは続けて村人に話し始める
「俺はスキルホルダーだ!」
それを聞いた村人達はざわつき始める
スキルホルダーとは異能を持つ人間の事。その異能は様々なものだが、その人ならざる力を、異能を持たない人間は恐れている。それもそのはず、降り続ける雨を降らせた雨の王は、スキルホルダーだ。もちろん、正しい事にも使われているのは誰もが知っている事だが、人智を越えた力を持つ者を、よく思う者はそう多くない。
「そ、それがどうしたんだ!」
勇気ある村人が反抗するが、ソラはお構いなしだ。
手のひらを天に掲げると、空から光の柱が差し始める
「な、なんだ!」
ふたたび村人達がざわつき始める。すると、サンが気付く
「晴れてる...!!!」
「この村の近くの雨の王の呪いは振り払った!俺は、太陽の王!雨の王から空を取り返しに来た者だ!」
ーーー
雨の王に太陽の王、ソラを中心にこの国に波乱が巻き起こることは、この時すでに決まっていたのかも知れない
物語は続く
天の王〈そらのおう〉 エマンセ @fuuto0426
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