第8話 覚醒したぞざまぁみろ

 頭が真っ白だ。




 ラナが……あのラナが。




 ……何故だ。




 何故助けられなかった?




 神力があれば……本当のオレなら助けられた。


 そもそも、こんなピンチにすらならなかったはずだ。



 オレは……いったい何をやっていたんだ。

 





 受け入れろと言うのか?


 ……この事実を。


 原初神であり、創造神であり、戦神であるこのネロスに、こんな受け入れがたい事実を受け入れろと言うのか?



 認めない。


 認めない。


 認めるはずがないだろ。



「ネロス! 結界が破られた! 逃げろ!」


 逃げろだと?


 こいつだろ?


 ラナをやったのは?


 逃げろと言うのか?


 ラナの仇から……。



 ありえない。



 ありえない。



 ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない。






「ありえないぞ! ごるあぁぁぁ!」






 オレは渾身のワンパンを水龍に見舞った。





 だが、現実は非情だった。


 いくらいきどおったところで、オレの拳が水龍に届くはずもなく、オレは水龍に吹き飛ばされ、おびただしい損傷を身体に受けた。


「ネロス!」「ネロス!」「ネロス様!」


 そして水龍が、あいつらを襲っているのが見えた。






 情けない……仲間を守れなくて何が神だ。






 神の力は弱きものを……。






 大切なものを守るために、在るんじゃないのか!





 認めないぞ! こんな事実!






 戦神ネロスの名においてこの事実は認めない!






 オレの想いが通じたのか身体に変化が起こった。


 ん……なんだ。


 ……この感覚は……神力?



 エリスの言葉が頭をよぎった。


よこしまな考えを持っていると、本来の力を行使できなくしたから』


 つまり正しいことになら行使できる。


 そういうことだなエリス。




 オレの身体が眩い光に包まれ、ダメージが消えた。


 同じような事がラナにも起こっていた。



 オレの身体には、以前にもまして神力が溢れていた。



 オレは急いで水龍からあいつらを救い出し、ラナも回収した。


「ネロス!」「ネロス?」「ネロス様」


「ネ……ネロス様、ま……まさか神力が戻られたのですか?」


「ああ」


「ネロス様!」


 テスが抱きついてきた。そういやこいつはオレのガチ信者だったな……だが。


「テス、今はそんなことをしている場合じゃない。ラナに息吹を吹き込むのが先だ」


「「「息吹?」」」


 オレはラナを抱きかかえ、口づけをした。息吹を吹き込むためだ。


「「「きゃ——っ!」」」


 なのにこいつらときたら、何を騒いでいるんだ。



 そしてしばらくすると……。


「ゴホッ、ゴホッ」


 ラナが息を吹き返した。



「おはよう。ラナ」


「ね、ね、ね、ネロス!」


「ああ」


「わ……わたし」


「神の奇跡だ。お前が死ぬことをオレが許さなかった」


「えっ……えぇ————っ!」




「グルォォォォォォォォォ!」


 そして、感動のシーンの空気も読まず、こちらに水龍が向かってきた。


 これほどの神力が溢れていたら、水龍ごときワンパンで消滅してしまう。


 オレは、ラナを抱きかかえたまま、向かってくる水龍を片手で受け止め、コンパチを食らわせてやった。


 水龍はものすごい勢いで吹っ飛んで行き、そのまま壁に激突し、失神した。


 ヤツも神の使いだし、殺してしまえば禍々しいオーラの原因もつかめない。


 まあ、これでしばらくはゆっくりできるだろう。


 


『『……』』


 ラナも皆んなも放心状態だった。



「ね……ねえ、本当にネロスなの?」


「ああ、何も変わってないだろ?」


「み、見た目はね!……でも中身が……」


「神力があるだけでオレはオレだ、何も変わらない」


「そ……そう、ねえ、神の奇跡ってどうやったの?」


「ん、ああ」


 オレはもう一度ラナに口づけした。


「「「きゃ——っ!」」」


 こいつら……何でまた……それにラナ!


 顔が真っ赤だ、まだどこか具合でも悪いのか?




 パチィ————————ン!


 またラナに頬を打たれてしまった。


「な、な、な、な、な、何すんのよ、あんたは!」


「いや、なにってラナに息吹を与えた時と同じように」


「もういい! もういいから下ろして!」



 よく見ると、ラナだけじゃなく、皆んな顔が真っ赤だった。


 はっ!


 もしかして水龍に特殊攻撃でも食らったか?


 だとしたら、まず水龍を何とかする必要があるな。


「皆んな、ここで待っていてくれ」


 オレは水龍の元へ向かった。


 水龍はまだ失神していた。


 そして水龍の顔をよく見ると、血で汚れていた。


 その血を指ですくってみると神の血だった。


 そうか……それで。


 体内から流れ出た神の血は、浄化せずに放っておくと負のオーラを帯びてしまう。


 おそらく、水龍はその影響を受けたのだ。


 オレは水龍に付着した血痕をすべて浄化した。


 これで、水龍は元どおりになるだろう。


 どうやらあの赤い雨の正体は神の血だったようだ。




 そしてそれは、おそらくズミスの血だ。




 オレは冷や汗が止まらなくなった。


 思い当たる節があるからだ。


 きっとあの時だ。




 もしかして、この長雨も。




 オレは祭壇に向かった。


 祭壇は神界に近い。


 爺とコンタクトが取れると期待してだ。


 だが、無理だった。



「ネイ、ちょっと頼みが」


 オレはネイを伴い再び祭壇に向かった。


「ズミスとコンタクトを取ってみてくれ、頼む」


「でもうまく行くかどうか」


「構わない、ダメ元でもいいからやってくれ」


「分かりました」


 ネイがズミスとコンタクトを取るために、祭壇で儀式を行い集中する。


 つながってくれ……でないとこの長雨。


 そしてしばらくして……。


「ネロス様つながりました!」


「そうか!」


「でも……」


 申し訳なさそうな顔をするネイ。まさか爺に身に何かあったのか?


「あて……しばらく休業するそうです」


「はぁ————————っ?」


 しばらく休業するだと……こ、この下界の大惨事にあのクソジジイ!


 オレはネイと手を繋ぎ、念話をする要領で爺に呼びかけてみた。


 どうしてか分からないが、そうすれば爺と話せると思ったからだ。


『爺! オレだ! ネロスだ! 何してやがるこの一大事に! クソジジイ!』


『……ね、ね、ね、ね、ネロスさまぁぁぁぁぁぁぁぁ! ご無事だったのですね』


『当たり前だ! 何が休業だ! この馬鹿野郎!』


『だって、だって、ネロス様が下界に追放されたって聞いたもんじゃからワシ……もうやる気なくなってもうて……うぅ』


 爺は大声で泣いていた。


 ……長雨の原因はこれだった。


『いつか必ず帰る』そう爺をなだめると長雨は収まった。



 つまり、一連の事件の原因は……全てオレだった。



 ど……どうしよう。



 正直に話すべきか黙っているか。




「……」


 

 黙っていよう。



 そう決めた瞬間、また身体中から神力が抜けていった。



 黙っている事はよこしまだと判断されたらしい。



 何故オレが神界を追放されてこんな目に……と思っていたが自業自得だった。



 だが、悪いことばかりではない。


 人の優しさに触れることが出来た。


 あの4人のおかげだ。



 もしかしたらエリスはオレに気付いて欲しかったのかも知れない。



 神としてもっとも大切な慈しみの心に。






 一部完



 ————————


 【あとがき】


 ここまで読んでいただいてありがとうございます。


 本作はここで一旦区切りとさせていただきます。


 異世界もので弱くてニューゲームは初の試みだったので、苦戦しながらも楽しく執筆することができました。


 応援いただき、ありがとうございます。


 新作公開しました!

『魔法学園でドSな彼女達のオモチャな僕は王国の至宝と謳われる最強の魔術師です』

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幼馴染の女神に神界を追放・ざまぁされた俺は聖女パーティーで養われています 逢坂こひる @minaiosaka

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