フランツ・カフカの変身を読んで

猫目 青

フランツ・カフカの変身を読んで

 コロナ禍によって人と人とが距離をとることを求められる中、驚くべきことが起こった。コロナによって増えると思われていた自殺者数が逆に減ったのだ。これらの現象は、リモートワークが進み、逆にストレスの多いい通勤や職場の人付き合いから人々が解放された結果だという。

 ふとその報道をテレビで目にしたときに、私は思ってしまった。

 カフカの変身に出てくるグレゴール・ザムザもリモートワークが職場で進んでいたら、蟲に成ることはなかったのではないかと。なぜなら、彼はある日突然仕事に行くのが億劫になり、起きていたら蟲になっていたからだ。これでは職場に仕事に行くとこはできない。でも、リモートワークが完備されている環境なら、彼は蟲になっても部屋で仕事が出来たのでないか。

 人と会わないことが命を守るこの世の中にあって、社会の価値は変化してきている。外に行くことよりも家にいることが良しとされ、社交的だった人が誰とも会えずにうつ状態になることそらあるという。逆に、リモートワークやオンライン授業を受けて、凄く元気になった人もいるという。

 そんな世の中の流れを見て、私は思った。グレゴール・ザムザは仕事のストレスによって部屋から出られない蟲になったのではないかと。年老いた両親や妹を養わなければいけないという重責。そして、仕事で否応なしに課せられる責任と人付き合いのストレスが、彼を外に出ることのできない蟲に変えてしまったのだ。

 コロナの広まる前は、社交的な人がこの世界では持て囃されていたように思う。けれど外に行くこと自体が命のリスクを伴う今、家で過ごすことそのものを見直す動きが広まっている。一部の企業では、効率がいいからと非常事態宣言が解除されたあとも、リモートワークを続けるらしい。

 それとコロナウイルスに関してもう一つ面白い事実がある。理由は不明だが、世界的に男性の感染率の方が女性のそれより高いのだ。たぶん、これは世界的に男性が女性よりも外で長時間過ごすことが多いいこと示しているようにも思える。外で男性が働き、女性が家を守るという社会構造がコロナの死亡率からうっすらと浮かび上がってくるのだ。

 日本では、その社会構造が男女別の所得と、自殺者数によって現れる。女性の所得は全体的に男性よりも低いが、逆に自殺する人数は男性の方が女性よりも多いいのだ。

 よく貧困は自殺の原因の一つとしてあげられるが、それならば所得の低い女性の自殺率も高くなるはずである。だが、女性の自殺者数は男性のそれと比べるとはるかに低い。

 これは、外での長時間労働が男性の自殺の主な原因になっていることを示唆している。睡眠すら削って働いている人がある日突然電車に跳びこまないよう、日本ではホームドアの設置も進んでいるぐらいだ。

 蟲になって家族の世話になるようになったグレゴール・ザムザは家族全員の負担になって、最後は独り、部屋で死ぬ。彼を失った家族は、彼が亡くなったあと意気揚々と外に出かけていくのだ。そこで彼は、息子に頼っていない今の生活が、思ったほど惨めでなく、快適なものであることに気がつく。

 さて、グレゴール・ザムザを殺したのは一体何だろうか。蟲になり家族の負担になった彼自身の責任なのだろうか。

 ふと私は考えてしまう。

 もし家族が、グレゴール・ザムザに頼ることなく仕事も家事も全員で分担していたら、彼は蟲にならなくてすんだのではないかと。

 男女均等機会法が日本で施行されて随分と立つが、未だに男女の賃金格差は大きく、男性の自殺者数は高い数値を維持したまだ。

 それがコロナ禍によって、変わろうとしている兆候は今のところない。けれど、私は思うのだ。疫病によって仕事の効率化が求められる今こそ、家族の大黒柱という重責を背負わされていた男性たちを、長時間労働から解放すべきではないかと。その動きは、女性の社会進出にも繋がっていくはずだ。

 そうしなければ、世界的に蔓延している社会構造が男性たちを殺し続けることになる。そろそろ私たち人類は男性そのものを、長時間労働という病から解放すべきではないか。

 コロナウイルスの脅威が去ったとしても、その社会構造は人知れず男性たちを殺していくに他ならないから。

 

 

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