幼馴染の聖女と関係を持ったということで勇者パーティーから追放された、【黒騎士】の俺と【聖女】のクリスタ 〜女の子としては見ていない幼馴染に俺が手を出すなんてありえないだろー! 最強の力で復讐します〜
最終話 幼馴染の聖女と関係を持ったという事で、勇者パーティーを追放されたけど、追放した奴らを倒して幸せを勝ち取りました
最終話 幼馴染の聖女と関係を持ったという事で、勇者パーティーを追放されたけど、追放した奴らを倒して幸せを勝ち取りました
あれから三年が経ち、俺を取り巻く環境も色々と変わった。
庭先で剣を振るっていると、とてとてとて、といった可愛らしい足音が聞こえてくる。
足音が誰の者か分かり、剣を振るのをやめる。
「パパッ! 今日は天気が良いから、ピクニックに行くの!」
少し背が高くなり、背伸びすればクリスの頭くらいには手が届くようになったアリアだ。
「アリア。今朝は早起きだな」
「失敬なの! アリアはいつも早起きなの!!」
「バーバリアンに、いつも起こしてもらってるのは誰だっけ?」
「し、知らないなのっ!! それはアリアじゃないの!」
「そうかそうか」
ガシガシとアリアの頭を撫でる。アリアが「髪をぐちゃぐちゃにしないでほしいの!」と言って、俺の手を払い、「うー」と頭を押さえる。
「悪い悪い」
「がうー……なの」
少し遅れて、パタパタとした足音が聞こえてきた。
「もう、やっぱりここにいたのアリア。バーバリアンが朝起きたら、ベッドにいないって言って大騒ぎしてたわよ」
「なの!? それは大変なの。すぐに行くの!」
ピューと駆けていくアリア。
今ここで、魔族であるあの子と暮らせている事。そしてクリスとも一緒に暮らせている事、これほど幸せな事はない。
「アリアったら、ふふ。あの子はいくつになっても変わらなそうよねー」
「だな。にしてもバーバリアンは、ほんとアリアには弱いよなぁー」
「うん、初めて会った時から変わらないよね。変わったといえば、ようやく使用人としての心構えが身に付いてきたことかな?」
「毎日あんだけ執事にしごかれてたら、否応なく身につくだろ」
「それもそうだね」
ふふふっとクリスが快活に笑い、俺も彼女の笑顔と声につられて笑い合う。
あれから、俺とクリスは結婚した。
そして、結婚と同時にアリアを養子に迎えた。
『なのーー!!』
その時のアリアの嬉しそうな顔といったら、天使かと見間違うほどだった。
(マジで可愛かったなー。今も可愛いけど、あん時は特に)
今、王都では次の王を決める為の選王祭が開かれている。
あの戦いの後、俺たちはジュドーが立てた紛い者の王を廃嫡し、暫くは俺とクリス、リュカ達を含めた10人の評議会で国を動かし、各国に働きかけていた。
最初の一年は大変だった。指導者のいなくなった国に支援を送ったり、国を統治出来る器がある者を選出し、潰れかけていた国を建て直すのに奔走していた。
一番大変だったのは、魔王との約束であった一ヵ月で人々の意思を統一する事だった。
――人と異種族が共存できる世界を目指して。
人々を癒した聖女クリスタのおかげで、反発は少なかったが、完全な意思の統一はやはり難しかった。
特に神国アルディナの、魔族に対する嫌悪感は凄まじいものがあった。
だが魔王ラーニィーが優しいのか、元々そのつもりだったのかは分からないが、及第点には達したと言って契約の更新をしてくれた。次に彼女が視察しにくるのは三年後の夏だ。今は春だから、彼女が来るまでまだ少し時間はある。
それに彼女が満足する自信があった。何故なら、今の人間界を一番楽しんでいるのは、彼女であったからだ。
魔王ラーニィーは魔族のアリアが、ちゃんと生活出来ているのかの確認という名目で、一ヵ月に一度は人間界に遊びに来ている。
お目当ては俺の中に眠るクロだろうが、意外にも彼女は人間の文化にも興味があり、色々な事に挑戦していた。
こっちに来る時は、人間に化けている為、魔族だとバレた事はない。
そして彼女はこちらへ来るたびに、国の改善点や統治の仕方、政治のまわし方など、様々なアドバイスをくれる。悠久を生きる者の知己と魔族の頂点である彼女の実体験を交えた話は、とても為になるものだった。
これだけ彼女がアドバイスをくれるのは、彼女も人間界と異種族が再び共存できる世界を望んでいるからなのだろう。
やはり魔王ラーニィーは、クロの言った通りとてもいい奴だった。
当然だという声が、今にも聞こえてきそうだ。
「選王祭、頑張れよ」
「うん。がんばる。必ず勝って女王になるね」
「そしたら俺は王婿か?」
「ふふっ、そうだね。アリアはおてんばなお姫様に……って、元からお姫様か」
あははっとクリスは心底楽しそうに笑う。緊張はしていないようだ。俺もあまり緊張はしていない。
何故なら、何事もなければ十中八九クリスが勝ち、建国初の女王となるからだ。なにせ、クリスは聖女でその夫は国を救った英雄だ。
これ以上、次の王に相応しい候補はどこを探してもいないだろう。
独裁政治を行っていた賢者ジュドーと勇者ケンジを倒した。その功績が讃えられ、俺は多くの人に認められた。魔族の生まれ変わりだと知っても、もう嫌な顔をされる事はほとんどなくなった。
「色々、変わったよな〜」
クリスとの結婚で、家名のなかった俺は、クリスの家名をもらう事になり、今はこう名乗っている。
アルベルト・フォン・クロ・ラキュアリと。
フォンは英雄の証として大司教様から賜った。クリスも同じだ。
クロというミドルネームは、魔王の右腕アルラ・クロスディールから貰った。
彼だって、俺の中にいるんだから家族同然だ。
クリスタ・フォン・ラキュアリ。そして義理の娘であるアリアは、アリア・フォン・ラキュアリと名乗っている。
バーバリアンはアリアが俺たちの所に来た後も、使用人としてアリアもとい、俺達に仕えてくれている。
「アリアがピクニックに行きたいんだってさ。どうする?」
「それはあの子の母親として聞いてるのかな? いいと思うよ。どうせならリュカちゃんとユカナちゃんも誘おう」
暗殺者リュカと賢者ユカナ。二人の間で何があったのかは知らないが、あの戦いから一年後、彼女達は結婚した。
今はリュカがユカナの姓を貰って、リュカ・ローズベインと名乗っている。
同性同士の結婚は人類初だったが、意外性はそこまで高くない。何せ、異種族と共存していた頃は、人間とエルフの間に生まれたハーフエルフの子など異種族との結婚は、当たり前のように受け入れられていたからだ。種族によっては、同性同士の結婚は当たり前という種族もあった程だ。
元勇者パーティーメンバーという事もあって、今でも彼女達とは交流がある。
「ラーニィー達は……流石に厳しいか……」
「うん。時期的にも、あまり良くないかな。ラーニィーが魔族だとバレた時がね……私たちの事を影から探ってる連中がいるってリュカちゃんが言ってたし」
魔族に対する風当たりは、まだまだ良くない。それは魔族からしてもだ。だけど、こうしてエルフであるアリア達と一緒に過ごせている事が、人が異種族に歩み寄れている象徴である。
まあ、みんながアリアの可愛さに負けているだけかもしれないが。
定期的に魔族の方からも、使者が送られてきており、正式に親書が届く日も近いだろう。
それに昔ほどではないが、一般商人と魔族の交流もこの三年間でかなり増えた。
これほどまでに商人達が、俺たち評議会が作った新体制に馴染むのが早いのは、やはり魔族と貿易をするのは彼等にとって利益が多いからなのだろう。
彼らは金が絡むと、大抵の事はお金の為だからといって、一度は袂をわかった種族であっても割り切ってしまう。そういう切り替えのいい所が、商人とも言える。
「アルベルト様。クリスタ様。馬車の準備を致しますので、ご準備下さい」
バーバリアンが、バスケット片手に、メイド服姿でアリアに連れられてやってきた。
バーバリアンがメイド服を着ているのが新鮮で、最初の頃は慣れなかったが、今はもう見慣れてしまった。
実はバーバリアンがハーフエルフで、純潔のエルフ達にいじめられていた所をアリアに助けられたって話をバーバリアンから聞いた時はかなり驚いた。
バーバリアンの場合は人よりエルフの血が濃かった事から、その寿命も普通のエルフと同じで長く、身体的な特徴も普通のエルフと変わらない。その為、普通の人はバーバリアンが混血だとは気が付かないのだという。
実際、俺もクリスも分からなかったわけだし。
それでもハーフエルフだと同族に見抜かれたのは、エルフが魔力の匂いに敏感だからだという。純潔のエルフ達は、バーバリアンから流れる魔力から微弱に流れる人の魔力を嗅ぎ分けたのだろうと、アリアは言っていた。
「クリスタ様。アリア様。馬車のご準備が出来ました」
「バーバリアンご苦労なの!」
「アル、準備できたってー!!」
「おう、今行く」
馬車に乗り込むと、バーバリアンが手綱を引く。この三年間で上手くなったものだ。最初の頃は、怖がって持てなかった程なのに。
にやにやと見ていたら、キッと睨まれた。
「なんでしょうか、ご主人様?」
「棘のある言い方やめろ。嫌なら普通に呼んでもいいって言ってんだろ」
「いえ、これはこれ、それはそれです」
「お前、本当に根は真面目だよな」
馬車が動き出す。アリアはクリスのお膝の上だ。
「リュカ様達は、先に行って待ってるそうです」
「あーそうか。ユカナは転移魔法を使えるもんな。俺たちの所にも、迎えに来てもらえばよかった」
「それはだめなの! アリアはバーバリアンが引く馬車に乗って、ゆらゆらと向かいたいの!! それに転移はママに負担がかかるの!!」
「だってさ、アル」
「だそうですよ、バーバリアン」
「なっ、話を私に振るなッ! いや、振らないで下さい」
バーバリアンのツッコミに、みんなが笑う。
こうゆう時間も悪くない。
(やっぱいいな……家族って)
俺たちはこれからも努力し続ける。人間と異種族が共存出来る世界を目指して。 それが、たとえ何千年先であろうとも
……だけど今は、今だけはこの時間を楽しもうと思う。
――もう少ししたら、新しい家族が増え、もっと充実した生活になる筈だから。
◇◆◇◆◇
『やっと会えたのう、クロ』
『ええ、お待たせしました。ラーニィー様』
クロが笑い、ラーニィーも笑う。二人は手を取り、口付けを交わす。
口付けを交わした後、再び見つめ合った二人はどこかへ歩き出した。
その日から魔王ラーニィーの姿は、一切見かけなくなり、彼女が推していた魔族の一人が次期魔王として立てられる事になった。
後に、二人が起こした出来事はこう言われる事になる。
――魔族初の駆け落ちであったと。
それから何千年後、ラーニィーという魔族とクロという名の悪魔が結婚したという知らせが人間界、魔族界全体に届いたという。
幼馴染の聖女と関係を持ったということで勇者パーティーから追放された、【黒騎士】の俺と【聖女】のクリスタ 〜女の子としては見ていない幼馴染に俺が手を出すなんてありえないだろー! 最強の力で復讐します〜 水篠ナズナ @1843761
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