デウスエクスマキナ

閻魔カムイ

第1話 塩

彼女が塩になった。何故そうなったのかは未だに理解出来ない、ただ、死ぬ前の彼女は何者かに怯えている様子だった。それと以前葵は俺とこんな話をしていた。「創ちゃん」「葵、何?」「もし、私達の住むこの世界が仮想現実だったら、信じる?」俺は突拍子も無い話に、鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしてしまった。「いや、なんか最近、この世界ってあまりにも完璧な比率で構成されてるというかね。黄金比って言うのかな?もし、神様が居るとするならこの世界をシミュレーションゲームの感覚で造ってそうだなぁって。神様が丹精込めて造った存在だから人は動物や植物を愛でたり、美しいと感じたりするんじゃないかな。」

俺は皮肉めいて言った。「だが、人間に関しては失敗だったんじゃないか。大した利益も無いのにいつも互いに争いあって、互いに蹴落とし合うのが人間の歴史だろ?」「それは創ちゃん、露悪的に人を見すぎだよ。そんな中でも人は"善"というディテールを維持しようとしたから介護福祉、福利厚生の概念とか、同じ地域同士で助け合う相互扶助の精神が産まれたんじゃないかな。」「そうかもな。俺は馬鹿だから、多分葵の言ってることが人間として正しいと思うよ。」「えへへ、褒められちゃった」そんな他愛も無い話をしてお互いの帰路に向かった。「また明日ね、創ちゃん。」「葵も気を付けてな」


元々葵はどこか学校でも浮いてるような人種だった。神話だの古代宗教だの魔術だの、そういうオカルトが好きな所謂変わった人と呼ばれる存在だ。どちらかというと俺は科学などの目に見えてるモノしか信じず、SFとかもフィクションの延長線上として楽しむタイプだ。そこにリアリティはあまり感じたりはしない。それに俺はどちらかというと体を動かす方が好きなので、あるかどうか分からない形而上学的なことに頭を捻らす時間があるなら、趣味でやってる剣道や空手に時間を費やすだろう。そして性格も真逆だ。彼女は穏やかでおおらか、どんな人に対しても優しいが、俺は昔から直情的、偏屈で不寛容なひねくれた人間だ。そんな俺にこんな育ちの良くて、童顔で可愛らしい彼女が出来たのかは未だに分からない。


そんなことを考えながら、夕飯の冷凍パスタの封を切り、温めて食べた。「暇だしテレビでも見るか」そういって画面に流れたのは奈良の大仏特集だった。「ハハ、葵はこういうの好きそうだな 俺はいいや」と、テレビの画面をバラエティ番組に変えた。だが、この時の俺は、これこそが災いの知らしだと理解するべきだった。いや、理解したとて"あいつら"はとてつもなく強大で勝ち目が無い。そう、"あいつら"は...


次の日、俺と葵は大学が休みだったのでデートに行く約束をしていた。俺は歯を磨いて、ボサボサの髪を整えてた。その時だった。俺の日常が壊れたのは。お気に入りのアーティストに設定した着メロが部屋に響いた。葵からだ。「もしもし、葵?」「創ちゃん、助けて "大仏"に殺される」「は?どういうことだよ」「とにかく待ち合わせ場所で待ってるから早く来て...!怖い...!」「いや、ちゃんと何があったか話せって、おい」そう言い掛けて電話が途切れた。とにかく嫌な予感がする。俺は額に汗を流しながら、定期を手に取り駅へ向かった。


到着した。もう既に葵が居て、彼女は屈みこみとても"何か"に怯えていた。「葵、大丈夫じゃなさそうだな。何があった」「創ちゃん、ずっと怖かったよ...」

「俺が居れば大丈夫だ、少し落ち着いたら何があったか話してくれ」そういって俺は彼女の震える手を握った。しばらく時間が立ち、ベンチに腰掛け落ち着いた葵はこう語った。「創ちゃん、この前この世界は神様が造った仮想現実だって話したよね?」「ああ」「その後、その"神様達"が地球を滅ぼしにやって来るって"声"が聴こえて、分かったの。彼等曰く、地球は汚染され過ぎた、だから滅ぼすんだって。こればっかりはうまく言葉で説明出来ないけど、そう説明するしかないの。信じてもらえないよね、私だって自分で言ってても電波女の与太話にしか聞こえないもん」「信じるさ、普段変なやつだけど落ち着いてるお前があそこまで狼狽するんだから、それは本当かもしれない。俺もあの後、テレビで"大仏"を見たしな。きっと何かのお告げってやつだろう。」「ごめん、その大仏の話は止めて...私もそれを見たけど、トラウマになってるの...」「すまん」その瞬間だった。彼女がまた怯え出した。「創ちゃん、どうしよう お前はもう用済みになったから消すって彼等が言ってるの...!助けて...!」「大丈夫だ、奴等はまだ来てないじゃないか、それまでにどうかこのことを政府に伝えて対策してもらえばーーー」「あ」それが最後に聞いた彼女の音だった。さらさら、と塩になって葵の身体は崩壊した。俺は余りの衝撃と失意で失神してしまった。

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