息苦しい世の中

碧川亜理沙

息苦しい世の中

 人が多く行き交う駅前、繁華街、商店街。

 みんなそんなに忙しいのか、せっかちなのか。足早に目の前を通り過ぎていく。

 ギター手に地べたに座る僕のことなんか、視界に入っているのは、いったいどのくらいの人だろう。


――誰も他人なんて興味ないさ


 まったくもってその通り。

 通り過ぎていく人が、美人だったのかブサイクだったのか、サラリーマンだったか学生だったか、男か女かなんてそんな大して気にしちゃいない。あ、美人だったらちょっとだけ気にするか。

 そんな外見だってただの風景となっているんだから、僕が歌う内容なんて、その風景にほんのちょっと色を付けたくらいのものなんだろう。

 だってほら、実際、誰も見ていない。


――まるで透明人間みたいに


 そう、透明人間だ。

 きっと視界の端ではとらえているはずなのに。なのにみんな、スルーっと遠ざかっていく。


――ここにいるって存在証明を


 何のためにここにいる、何をしたくてここにいる。

 人付き合いは苦手。学校に行ったって、同じような服着て、同じような髪型して、机に向かって黒板に対峙する。

 そんな時間が毎日のように繰り返され、いったい何が楽しいというのか。

 32人もの人がひとつの空間にいるというのに、同じような顔して、同じようなことをして。

 僕という存在すらも、32分の1のはずなのに、ひとつに交りあっていなくなってしまいそう。


――息苦しいんだよこの世界


 本当に。

 いつからこんな息苦しい世の中になったのか。

 なんでみんな、そんな平気そうな顔をして目の前を通り過ぎていくの。

 もしかして、僕がおかしいの?


――誰か教えてくれよ


 この僕に。

 何考えて生きてんの、どう思ってんの、苦しくないの、楽しくやってんの、手前のことわかってんの。

 

 まったくもって理解できないこの僕に、答えを教えてくれる人はいませんか?

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息苦しい世の中 碧川亜理沙 @blackboy2607

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