第1章 宵の鉄鎖、暁のぬくもり

第1話《はじまり》

突然だが、覚えている中で1番古い記憶は何だろうか?

ボクが覚えているのは──自分の体温でぬるくなった手足の枷と炎の赤だ。


そう、ボクは奴隷だった。


聞いた話によると、生まれてすぐにこの“忌み子の黒髪”と“珍しい無属性”の魔力が発覚し両親に売られたそうだ。

物心付いた頃には薄暗い牢屋の中で、黒いモフモフを撫でるくらいしか楽しい事は無かった。


毎日外の森からやって来る黒いモフモフ猫さん……本人曰く、彼女は大猫の子供(そう言われても、ボクが両手で抱えられるくらいの大きさなので本当かは分からないが)らしい。

ボクは彼女と話す事で言葉を覚えた。

外の事を聞くのがとても楽しかったから。

……これは後に判明した事だが、この時ボクは“相手に伝えたい事を音を通して伝える”魔法である《言霊ことだま》を無意識に使っていたらしい。

どうりで周りの奴隷の子たちから避けられていた訳だ。


話が逸れた。


この場所には無属性の魔力を持つ奴隷たちが集められていた。

無属性──何でも無い故に、何にでもなれる稀有な魔力。

裏社会では魔力タンクとするための奴隷の売買がある。

また、その奴隷の魔力を込めた“無属性の魔石”はブースターなどに使われているそうだ。

──この場所は無属性の魔石を作る工場だ。

順番が来れば無理矢理に儀式場へ連れて行かれ、ギリギリまで魔力を絞り取られる。

しばらくして魔力が回復すればまたその繰り返しだ。

ボクはまだ幼く魔力も安定していないので、気を失うまで抜かれはしないが……とても痛いし、辛い。

でも、これがボクの日常だった。


あの日までは。


***


その衝撃波は子供の絶叫と共にやって来た。

「火を消せ!」

「無駄だ!商品だけ持って逃げるぞ!!」

どうやら魔力の暴走が起こったらしい。

おそらく、ボクの次に連れて行かれた同じ年頃の男の子だろう。


暴走した魔力はランプの炎を受けて火属性の魔法となり、そこにあるもの全てを焼き尽くさんと燃え上がる。

それはあっという間に地下牢までやってきた。

──熱い、苦しい、助けて。

そんな声が辺りに満ちるが、そんな声もしばらくすると聞こえなくなった。

魔力を抜かれ、動けないボクもここで死ぬんだろうなぁ……。

そう、朦朧とした頭で思った時だった。


『よかった、間に合った!』


突然、あの黒猫がボクの影から生えて来たのだ。


何故今、ここに……?

「にげ、て……ここに居ちゃ、ダメ、だよ…………」

『逃げない!だって助けに来たんだもん!!……ねぇ、この“黒猫さん”に名前を付けて』

「なま、え……?」

『早く!付けてくれたら絶対に助けられるから!!!』

名前かぁ……。

宵闇みたいな漆黒の毛並みに、お月様水色お星様みたいな瞳…………。


──この時ボクは知らなかった。

──コレが従魔となる魔獣との契約……“名付けの儀”である事を。



「………………夜の──《ライラ》」



リン、と頭の中に音が響き、自分の中の魔力がどこかに繋がって流れる感じがした。

でもそれは、儀式場で無理矢理抜かれる時と違って……とても優しく、あったかくて。

ボクは目を閉じた。

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