第5話 《狩りと影》
「ウォォォォォン」
雪溶けの季節。
狼の遠吠えが夕暮れ時の森に響いた。
まずい。狼は群れるのだ。
ここに居ては確実に見付かってしまう。
意を決して草むらから飛び出した。
そこで見付けたのは。
こんな所には居ないハズの生き物──人間。
地面に座ってこちらに背を向けている。
仲間を呼ばれる前に……排除しなければ。
翼を広げて助走を付けつつ、角を真っ直ぐ人間に向け突撃する。
複雑に分かれた角が人間の背を貫く……はずだった。
突然人間の影が揺らめき、そこから巨大な黒い獣が飛び出したのだ。
──これには勝てない……!
本能がそう告げたおかげで、何とかその爪を避ける事ができた。
踵を返してとにかく逃げる。
どうやら巻けたようだ。
そう判断し、足を止めたのがいけなかった。
突然、何かに足を引っ張られて転んだ。
後ろ足を見ると、不自然に草むらから伸びた蔦が絡みついていた。
もがいてみるが、蔦はびくともしない。
そうこうしている間に、前から先ほどとは別な……巨大な獣の気配が近づいて来ている事に気づく。
まだ距離はある。なんとかして逃げなければ!
そう考えた瞬間だった。
前に居る銀の獣がドン!と前足を振り下ろすと、鋭く尖った氷柱が地面から生えた。
それは真っ直ぐにこちらに向かって来て──
***
『あらあら、今日は随分と大きな獲物を捕まえたのねぇ』
銀狼の子……今は仮名の“銀”と呼んでいる彼が、咥えていた本日の夕飯を母さんの前に下ろした。
『わぁ、コイツ翼鹿じゃない!群れるし、すばしっこいのによく狩れたわね……』
褒めて褒めて〜と突撃体勢になったライラから、ボクはヒラリと飛び降りる。
そんな彼女の黒い獣毛を、軽く毛繕いしながら白姉さんは言った。
翼鹿。
その名の通り翼を持った鹿のような姿をしている魔獣の一種だ。
仲間意識が強く、一度頭に血が上ると周囲の警戒が疎かになるという種族特性がある故か、本来は数匹で群れを作るのだが……。
「
『あら、ペリカも参加出来るようになったのねぇ……。でも、おかしいわねぇ。翼鹿の巣立ちの時期はとっくに終わって、若いオスたちの群れが出来ているはずだわ』
「そうだよね……」
木々の間から見えた上弦の月を雲が覆い始めていた。
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