第4話 《銀のもふもふ》

ボクから怪我をした銀狼の子の話を聞いた母さんたちは、大急ぎで現場に向かって行った。

大体の場所は伝えたし、道標として月光花(空色の小さな花をつける霊草で、月光が当たると花びらが半透明になる)の種を蒔きながら来たので大丈夫だろう。


……またボクが行けば、警戒されるだろうし。


住処の洞窟にあるボクの寝床を片付け、新しい寝床を作る。

多少匂いなどが残るのは……仕方ないとして貰おう。

「とりあえず、これで大丈夫かな」

くっ付いた葉っぱを払って立ち上がり、洞窟から少し離れた所にある大木に向かう。

たまに昼寝しに来てたし、嵐が来ない限りは雨も凌げる。

──あの子の怪我が治るくらいまでなら、寝床にできるだろう。

そう考えながら、ボクは大木によじ登った。


***


それから数ヶ月が経ったある日。

『ペリカー、居るー?』

下から聞こえて来たのは、聞き馴れた黒猫の声。

「い、いるよ……」

『ごはん持って来たから降りて来てー』

そうしたいのは山々なんだけど。

「………………ごめん、助けて……」

『あー……ちょっと待ってねー』


『……何したら逆さ吊りそんな格好になるんだよ』


足の鎖が絡んだ枝から外して貰っていた中、珍しい声が聞こえた気がした。

ボクはやっと戻った天地にホッとしながら、魔法で補助しつつ地面に降りる。

「いつもより上の枝に登ったら引っ掛かったんだ。……怪我はもう良いの?」

『お、おう。……その、なんだ…………すまなかった』

何で謝るんだろう?

ボクは小さく首を傾げた。

『おまえの話をソイツから聞いた』

『ソイツじゃなくてライラだよ!』

「……ちょっと静かにしてて」

プンスカと怒るライラの口に、彼女が持って来た大きめな果実を突っ込んで黙らせる。


その様子に苦笑しつつ、銀狼の子は続けた。

『あの時オレがおまえに言った事は、人間から酷い扱いを受けていたおまえに言う言葉じゃなかった。……すまない』

「……別に、謝る事じゃないよ」

『………………強いな。おまえ』


言いながら彼は──ゆっくりとボクに近付いて来た。


『人を……人間を信用する事は出来ない』

「うん」

『だが、おまえは……信用してやっても良い』

最後の方は早口だった。

……何で照れたんだろう?

「……そっか。じゃあさ」

『…………何だよ』


たてがみ、モフモフさせて」


ボクは両手を軽く広げて言った。

『……は?』

『むぐっ……はぁ、やっと飲み込めた…………じゃなくて、ペリカのモフモフは気持ちいいよー?』

ライラ、まだもぐもぐしてたんだ。

『……頭は下げないぞ』

「?」

『あっ、知らなかったのかぁ……ライラたち魔獣が人間に頭を下げるのは、契約を結びたい時だからねー。知ってたらもっと早く契約出来てたのかなぁ…………』

……そう言えばライラに名前を付ける前、何度か頭を下げられたっけ。

あれ、そんな意味だったんだ……。

でも、それはそれ。

ボクはじ〜っと銀狼の子を見つめる。

彼はため息を1つ吐いてから、『最初から鬣はやめろ』と言いながら前足を上げた。


ちょっと固めのもふもふ。

冬毛なのか、肉球の辺りまで長めの毛で覆われていた。

しばらくそうしてモフっていると、肉球を顔に押し付けられた。

『いい加減にしろ、くすぐったい!』

……と、言いつつ嫌がってはいないようだ。

うっすら笑ってるし。

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