第11話
ある日の夕方、柚葉は「そこのカフェ」に来ていた。実は、初めて来た日以降、何度もこうして仕事帰りに寄っている。今やちょっとした常連だ。スイーツやドリンクが気に入っているのもあるが、尚央に会えないかと期待しているのもある。が、あの日以来会えていない。
わたしだけが気にしてるみたいじゃないのよ。なんで来ないの!
そんなことを思いながらアイスティーをちびちび飲んでいると、「お待たせしました~」
という声が聞こえた。
「甘いものじゃないの珍しいですね」
軽く首をかしげながら静かにお皿を置く彼女は、最近雑談をするようになった店員さんだ。
「今日、お腹すいちゃってて」
「そうなんですね」
ふんわりと笑う彼女は今日も可愛らしい。
こういう雰囲気になりたいなぁ。
カフェの制服に、きちんとまとめられた髪、メイクだって決して濃くないのに、彼女の纏う空気はいつだって暖かいピンク色だ。
うーん、やっぱり仕草かしら?
もともと柚葉は人からの見られ方を気にするタイプだが、尚央と出会ってからより一層気にするようになった。具体的には「可愛いくなりたい」と強く思うようになった。それは、「可愛い面だけを見て好きになったのではない(意訳)」と言われた後も変わらない。
この店員さんは、そんな柚葉のお手本のようだった。自分と同じそこそこ高めの身長であるというのもポイントだ。
「実は、明日から新商品が出るんです。クリームブリュレなんですけど、お客さん好きそうだと思って。早くお伝えしたくてうずうずしてたんです」
少し照れたように笑う彼女はやっぱり愛らしくて、柚葉も自然と笑顔になった。
頼んだガレットを突っついていた柚葉にまたも声がかけられた。
「へい!お姉さん、相席してもいいですか?」
パッと顔を上げた柚葉の目に映ったのは、はにかんでいる尚央だ。
初めて出会ったときを彷彿とさせる言葉に笑いながら柚葉は「どうぞ」と手のひらで席に座ることを促した。
いらっしゃいませ~、とお冷を持ってきたのは先程の彼女だ。
「約束通り、今日はクイニーアマンにします!」
おちゃらけて言う尚央に、ふふ、と笑った店員さんが「あの味を知ったら人生がもっと輝いちゃうんですから!」と得意げに返す。
柚葉は二人のやりとりを見て自分のテンションが下がっていくのを感じた。
ううん……?やっぱりわたしも甘いもの食べたかった、とか??
お気に入りのカフェで、憧れの店員さんと運命の人候補と一緒にいるにも関わらず、急降下していく気分。柚葉はわけもわからず「わたしも同じの頼もうかな」と口にした。
ジャージでバラを差し出すな 夕鳴なち @nachirurero
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