第10話
柚葉にとって、恋とは惹かれ合うものだった。お互いが好きになり、どんどん距離が縮まっていって、最終的に恋人になる。もちろん、現実にいるカップルが皆そうやって付き合い始めるわけではないのは知っている。むしろ少数派であることも。だからこそ、憧れたし無理に誰かと付き合おうともしてこなかった。
柚葉にとって、恋とはドキドキするものだった。その人の前では、いつもはしないような事をしてしまい「こんなのわたしじゃない!」なんて思ったりするのだ。少なくとも柚葉が読んできた漫画のヒロインはそうだった。柚葉が恋をしたかしていないかを判断するときには、自分がドキドキしたかそうでないかを考えてきた。人を見て(恐怖や緊張以外で)ドキドキしたことはない。だから柚葉は、自分は恋をしたことがないと認識している。漫画やドラマと同じように現実はできていないことはわかっているが、恋の判定基準は誰も教えてはくれなかった。好きな人を前にしたときの心情を事細かに語る友人もいなかった。つまり、恋を教えてくれるのは漫画やドラマだけだった。
愚直すぎる、と桜子は思う。柚葉は昔からそうだった。教習所に通っていたとき、交差点
で「慎重すぎ」と言われた柚葉は次の教習で教官をビビらせた。次は突っ込みすぎたのだ。話を聞いたときは大いに笑わせてもらったが、この話は彼女の性質をよく表していると思う。大人になるにつれて融通を利かせることを覚えてきたと思っていたが。
そうよねぇ。恋の経験値は上がってないものねぇ。
柚葉本人はその馬鹿正直な性格を改善したいと思っているらしい。実際、それのせいで損もしている。だが、親友から言わせてもらうと、そこが面白くて愛おしい。
スマホが鳴った。噂をすれば、恋に悩む可愛い親友からの連絡だ。
――ねえ、好きでもないのに付き合うのってアリ?あ、もちろん人としては好きだけど
傍目から見れば柚葉も相手のことが好きだと思う。恋愛的な意味で。
でも言ってあげない。自分で気づきなさいな。
――付き合ってみてもいいんじゃない?
今回の相手は柚葉に合っていると思う。あんまりうじうじしているようなら少し突っついてもいいかもしれない。ま、今のところは見守ろうかな。
柚葉とここまで恋バナらしいことをしたのは初めてかもしれない。親友の幸せを願いながら夜は更けていった。
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