第9話

 柚葉は途方に暮れていた。

 どの本にも載ってない!“告白される予定の女”がとるべき態度について!!

 日曜日、尚央に「そのうち告白するから」と言われた柚葉は、その日の夜、お風呂に入るまでその言葉を飲み込めていなかった。含んでから飲み込むまでの時間があまりにも長すぎる。桜子には「鵜飼いかよ」と言われた。「鵜飼いの場合、飲み込めないんですけど」というツッコミはスルーされた。

 ある意味ナイスかもしれない、そう思ったのは飲み込んだ後の自分の状態が酷すぎたからだ。シャンプーとリンスは何回したかわからないし、卵は殻をお皿に置き中身を捨てた。“告白することを告白”してきた本人を前に普通できるはずもなかった。

 思い出せる限りでは尚央の前で変な行動はとっていない(と思う)。というか、最高にふわふわだった気がする。主に思考が。「ふわふわ系女子(笑)」とは桜子の言葉だ。

 一度理解したことはもとに戻せない。一定の期間パニくった柚葉は、今後について考えた。

 どういう風に接するべき??もしかして、これが「友だち以上恋人未満」ってやつ……!

 その日は、とにかく恋愛のハウツー本を買う、ということで思考を停止させた。

 そして、翌日の月曜日、仕事帰りに本屋であらかた本を物色し終えたというのが現在だ。

こんなにたくさんの本があるのに……!なんで無いの!?

かろうじて見つかった「友だち以上恋人未満」のページでは「相手に女として意識させましょう」とあった。

 うーん、意識はしているはず。だって告白するって言われたもの。そう考えると今の状態ってそこそこ悪くないのかしら。

 わかったことといえば、この関係はレアらしい、ということぐらいだ。本を買う気満々で来たため、なんとなく買わずにはいられなくて、結局『誰かの笑顔を作るお菓子作り』というしゃがまなくては取れないような場所に並べられていたレシピ本を買った。

 料理はするが、お菓子は普段あまり作らない。手間がかかる割にはぺろっとなくなってしまうし、市販の物も文句無しにおいしい。柚葉にとって、お菓子作りの本を買うというのは初めての経験だった。


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