第8話

「俺、お姉さんのことそれほど可愛いと思ってないよ」

 は?それはいくらなんでも失礼すぎでは??

「あー、違う。なんていうかそういう意味じゃなくて……」

 上手く言葉にできないらしい。じゃあどういう意味よ。

「今日の髪型とか笑顔とか、もちろん可愛いんだけど。性格はそんなに可愛いだけじゃないというか」

 それはどういうこと?本当のわたしを好きってこと?あれ??そもそも……。

「あなたってわたしのこと好きなの?」

「好きなの!!」

 大きな声で間髪入れずに答えた尚央の表情はどこか必死だ。いきなり聞こえてきた声に、他のお客さんたちが、なんだ?告白か??と様子をうかがってくる。二人は恥ずかしさで顔を赤くしながら俯いた。

 しばらくして視線を感じなくなった頃、二人はそろりと顔をあげた。先に声を出したのは柚葉だ。

「なんでわたしの性格が可愛くないって知ってるのよ」

 恥ずかしさからふてぶてしくなってしまった。

「一緒にいればわかるよ」

 なんでだ。わたしからは黒いオーラが駄々洩れだとでもいうのだろうか。ちょっと思考がひねくれているのはやはり恥ずかしさからか。

「それに、声をかけた俺に『お茶は飲めません』って言ったの憶えてる?ただのか弱い女の子はそんなこと言わないよ」

 そういえばそうだった。今でこそかわい子ぶっているが、一番最初に思いきりてきとーに相手をしたんだった。

「でも好きなの?ほんとに??」

 確認せずにはいられなかった。可愛くないわたしでも好きなのかと。

「好きなの!ほんとに!!もう恥ずかしいんですけど!?何回言わせるの!?」

 ちょっと怒り気味の尚央が可愛い。そんなこと言ったらもっと怒られそうだったので口には出さなかった。

「だからそのうち告白するから!今はしないけど!」

 そうか、そのうち告白されるのか。でも今じゃないんだ。

 柚葉はホクホクしながら言葉を反芻した。そしてたいして飲み込んでいないまま言った。

「楽しみにしてる」

 柚葉が尚央が言ったことの意味を理解したのは家に帰ってからだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る