第125話 今と未来
僕たちが彼とデートをして、数時間たった。そこでアオイちゃんからの連絡が入る。
「アオイちゃん……から返信来た」
「よし、早速行きましょう!」
「そうだね……」
デートが終わってしまった。あと、五時間くらいメールの返信遅れて欲しかった。まぁ、仕方ないよね
「じゃあ、ついて来て……仕事は休んでくれたらしいから」
「はい!」
あんまり膨れ顔をしても痛々しいし、ここは大人顔でアオイちゃんの所に向かおう。彼と一緒に選んだ服を袋に沢山入れて手に下げる。
袋の中を見て一瞬後悔した。若々しい服を見栄を張って沢山選んだから。どうしても三十路がネックなんだよなぁ……
◆◆
「クロッ、本当に居る……」
「実は……カクカクシカジカで」
「そうなんだ……抱き着いて良い?」
「はい!」
待ち合わせ場所につくと早速アオイちゃんが泣きながら彼に抱き着いた。彼女の姿はこの十年ほどでさほど変わっていないように感じた。片眼が隠れて、スタイルは前より良くなっているようで彼にそれが押し付けられる。
「嬉しいよ。また会えて……」
「あ、ありがとうございます」
「理由はどうであれ、こんなことが起こるなんて……えっと……萌黄から聞いたんだけどクロはコハクとクロコにも会いたいんだよね?」
「はい」
「連絡先……二人の知ってるよ……?」
「じゃあ、連絡お願いします!!」
「うん……実はもうしてある」
「速い!!」
「クロには及ばない……二人の場所に案内するから……手、繋いでいこう?」
「是非繋ぎましょう」
恋人つなぎをするアオイちゃん。涙がわずかに目尻に浮かんでいる。彼女はそのまま昔を懐かしむように彼を感じて歩き出す。
僕と火蓮ちゃんはここは譲ろうとアイコンタクトをして後ろをただ歩くだけに徹した。
二人は歩きながら会話をする。その姿が何度も見た気がして微笑ましく思う。
「今、高校一年?」
「そうです……アオイ先輩は……」
「三十路」
「いやお若いですね」
「お世辞言ってもあーしがニヤニヤするだけだよ」
「じゃあ、もっと褒めます!」
「……変わらないね」
「アオイ先輩はちょっと変わりましたけど、それも好きです!」
彼が変わっていなのは当然。でも、自分たちは変わったと彼女は遠回しに言っている。けど、彼はそんな変わった自分達でも好きだと言ってくれる人。三十路のアオイちゃんの頬に赤みがかかる。
誑しも良いところだと思ったが彼は正直者なだけだ。だから、彼女も純粋に嬉しくて頬を緩んでしまう。結局、コハクちゃんとクロコちゃんの居る場所に着くまでにアオイちゃんが赤面した回数が二ケタほどであった。
◆◆
「十六夜君はいつになったら帰ってくるんですか? 本当に帰ってくるんですか?」
「そうと言っているだろう……ちょっと待ってば……」
「そう貴方が言ってから既に丸一日たってます!!」
「落ち着きたまえ……私の占いでは彼は死んではいない」
「でも……」
銀堂コハクとはこんな情緒不安定なキャラではないんだが……。それに他のキャラもこんなに異性に入れ込むことは設定ではない。
彼が歩んだ道、それがここまで深い物だったとはね……
「……あの、私達に出来る事は本当にないんですか?」
「かなり、無理やりになるが……無くはない」
銀堂コハクがしつこいと思う位私に聞いてくる。勘が働いたのかどうなのかは分からないがもう一つだけ彼女達に離していない方法がある。パンダに戻させるか自然に戻るか。どちらかでしか出来ないと思っていたし、それ以外はする必要も無いと思っていたが……
占いで彼を占うと中々めんどくさい状況になっているようだ……
「五人の気持ちを一つにする……さすれば、星王の剣が君たちの元に現れる……」
「はい?」
「っ……こういう事を言うのは苦手なんだ……そんな反応はしないでくれ」
そう言えば、一時期自分が特別な存在だとか勘違いしてた時があったな。変な言い回しをして嘗てを思い出してしまった。
「取りあえず私達の気持ちを一つにすればいいんですか?」
「そうだとも……五人で輪のように手を繋いで彼に会いたいと想ってみればもしかしたら……私に言えるのはここまでだね」
「やってみます、ありがとうございます」
「そうかい」
彼女達は五人で手を輪のように手を繋いで彼への想いを一つにする。これは私が描いたラスボスとの戦闘シーンに似ている。
ラストでの魔王との戦闘シーン。中間パワーアップアイテムを彼女たち全員の心を合わせることで合体させる。
それによって、
ただ、心が一つになっているときだけだ。簡単なようで難しい条件。だからこそラストで一度だけ、超絶感動的なシーンとして描いたんだが……
「あ、なんか変な剣が出てきました」
光が五重に螺旋状に大きく膨らんでいく。夜空に星が輝くように神秘的な大きな光。輝きが増していく……私の描いた感動のシーンがこんな一般民家のリビングで再現されるなんてね
「それで彼に会いたいと思って適当に時空を切ってみるといい」
「十六夜君、貴方の所まで行きます。えい」
銀堂コハクが代表して剣を握って空間を切る。パックリと時空が割れて彼へと奇跡の道が形成される。
さて、彼はどうするのか。私は五人が奇跡の道を走って行くのを見ながら彼女達が救われる未来を願った。
◆◆
あーし達はコハクとクロコの実家に足を運んだ。クロと十四年ぶりに再会して心が躍った。本当ならバッティングセンターとか、ボーリング場とか久しぶりに二人で行きたかったけど……仕方ない。
インターホンを鳴らすとドアが開いてコハクとクロコが彼の胸板に飛び込んだ。
「い、十六夜君ッ」
「ダーリンッ」
彼の名前を呼び、胸板にぐりぐりと頭を押し付ける。三十路なのに昔の雰囲気は素直に凄いなと感じる。
「「会えてうれしいッ」」
胸が凄い大きくなっている。大体、Ⅰカップ、三十路なのに凄い若いし高校時代から変わっていないくらいの肌のハリと艶、目の下のクマが若干あるくらいで他に変な所はない。……そして、二人の勢いが凄い。このままクロは二人に喰われてしまうような勢いだ。
「さぁ、十六夜君、中に入ってください!」
「そうなのです!」
二人はいっきに彼を家へと引き入れる。本当にあの時と変わっていない気がする……いや、もしかしたら……その通りなのかもしれない。彼が死んでしまってから彼女達の時間は止まってしまっていたのかもしれない。
噂だと、二人はずっと実家に引きこもっていると聞いた。
二人は子供のように彼が現れたとことを喜ぶ。あーしも喜んだ。だけど、それと同時に別れの悲しさを考えた。二人も分かっているはずだけど気付いていないふりをしているはずだ。
……彼が帰ってしまうと言う事に
◆◆
「ふふ、このクッキーとても美味しいんです。はい、あーんっ」
「あ、あーん」
「こっちのスイートポテトも美味しいのですよ? ダーリン? はい、あーんなのですっ」
「あ、あーん」
未来のコハクとクロコに俺は挟まれていた。二人はさらにグランドなボディになっており、色気が前より数段凄い。それなのに見た目は若いまま。
そんな二人がビシバシと体を当ててきている。顔も凄く近い。それを膨れ顔で火蓮とアオイと萌黄が見ている。
「あ、あの一旦その落ち着いて……」
「嫌なのですッ! また、また暗い場所に置いてけぼりはいやなのです……」
「……」
軽く落ち着かせるつもりだった。それがクロコとコハクの感情を大きく揺さぶってしまった事に気づいた。コハクは何も言わずにギュッと腕の力を強くした。クロコがいきなり声を荒げて、すぐに悲しみに支配される。
彼女達全員の悲しみが感じられた。痛いくらいに腕を彼女達は握る、瞳はハイライトが消えて光を求めているようだった。
俺はでも、帰らないといけない……そう、僅かに思ってしまった。それが直ぐに二人にもいや、彼女たち全員に伝わってしまった。
クロコがさらに腕の力を強くする。
「返さないのです……これから、これから、また、楽しい日常が……」
「そ、それは……」
俺は言葉に詰まってしまった。言葉出てこない。この場の雰囲気が重々しくなり、全員の顔色が暗くなる。
「皆だって、ダーリンを返したくないはずなのです……このままずっと一緒、一緒……」
「……っ」
「一緒に、これからも、ずっと、永遠に、いてほしいのです」
「……それは……」
「なんで、なんで、一緒に居てくれるって、幸せにしてくれるって約束したのです! ダーリンが、約束したのです!!」
彼女の激昂が俺の感情を揺さぶる。クロコが一人で全ての感情と飛ばすがそれは全員の気持ちを代弁していると分かった。
俺がここに居れば彼女達は幸せ……
「貴方が消えてから、生きた心地がしなかったのです。ずっと、引きこもって、ずっと、貴方のことを思っていたのです……もういないと会えないと分かっていたのに、それでも……それはきっとクロコだけじゃない。皆も……そのはずなのです……ダーリンは、貴方は……こんな私達を置いて帰ってしまうのですか?」
「――ッ」
動けない。鎖で繋がれたように雁字搦めに俺はなってしまった。言葉一つさえ発することが出来ない。
目のまえに五人が居る。全員が視線で俺に訴える。ここに居て欲しいと。
どう、すれば……
◆◆
彼がいなくなったこの未来は私にとって何の意味もなかった。時間が止まったような日々。引きこもって無気力になって、もう、このまま居ないはずの彼を想って死んでしまうのだと思っていた。
でも、彼が現れた。奇跡だった。
この奇跡を再び日常にしたいと思った。私は今彼の腕を逃がさない様に掴んでいる。横では妹のクロコが彼に感情を飛ばしている。
それは、きっと皆が想っている事。言い出さなかったこと。それを彼女は言ってくれている。
彼の性格を考えて、無理やり答えを一つに縛る問。それはきっと甘美なのだろう。これから彼がここに居てくれることは本当に幸せだ。そうなるなら私は何をしてもいい。
本当に幸せなんだろう……でも……彼には帰る場所がある……
帰りたい場所がある。
だから……
「十六夜君、私達を置いて元の世界に帰ってください……」
「「「「「ッ!!」」」」」」
「貴方を待って居る人が居るはずです……本来なら会えない貴方に会えただけでも私はッ、嬉しかったッ。貴方との思い出が再び蘇って、思い出しました、貴方の暖かさも優しさも何もかも……だから、私は、私達はそれだけで生きていけますッ、それだけで幸せです」
私は彼の腕から手を離した。涙をこらえて、でもこらえられなくて、滴り落ちる涙。嘘だ。全部嘘だ。幸せなんて嘘だ。でも、彼をこのまま引き留めるわけには行かない。彼から私は貰ってばかりだ。
もう、十分貰った。全然足りないけど。彼もこっちに居たら絶対に心残りが残ってしまう。幸せになれない……
「――だから……さようなら。十六夜君」
「なんで? 意味が分からないのですッ! これから、これからなのにッ」
「クロコ、十六夜君には帰らないといけない場所があるんです。それは分かっているはずです」
「でもッ!!」
「最後くらい……良い女で終わりましょう、ね? クロコ……」
「ッ……」
その時、時空から裂け目が出来る。そこには……私達が居た。彼女達は未来の私達を見て驚く。
そして、彼に帰って来て欲しいと言う。
「行って! 十六夜君!」
「ダーリン……皆を幸せにしてあげて欲しいのですっ……」
「クロ……ありがとう」
「十六夜、開き直って頑張りなさい」
「君に会えた日々、僕は幸せだったよ」
私達は彼に帰ってと背中を押す。
彼は瞳から滝のように涙を流して、鼻水を垂らしてゆっくり背を向ける。そのまま裂け目の方に歩いて行く。あの道にあの空間に入れば本当にさようならだ……
彼がそこに足を踏み入れる。その瞬間に私達は涙が比ではない位、あふれ出す。
さようなら……十六夜君……
ありがとう……
◆◆
これでいいのか……これで……俺の後ろには彼女達が居る。前にも彼女達が居る。俺は元の世界に帰らないといけない。だけど、こっちの皆も放っておけるわけがないじゃないか!!!!!
俺は帰り道に足を踏み入れて……戻った
後先なんて、考えない。これから、俺が幸せの未来を何として作る。約束したんだ、誓ったんだ、幸せにすると。
未来でも今でもそんなことは関係ない
「――未来だろうと関係ない!! 幸せにするって誓ったんだ!!」
彼女達五人を無理やり今の五人の手を引く。今の彼女達は驚き過ぎて何が何だか分かっていない。それは未来の彼女達も同じだ。そして、取りあえず今の彼女達と未来の彼女達を並べる。
そして、土下座をした。頭を痛いくらい打ち付けて
「――全員、嫁になってください!!!!!!!!」
次の瞬間、物凄い大きな驚嘆の声が上がった。
でも、俺はこの道を選ぶと決めた。未来も今も両方幸せにすると言う道を。
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応援、ありがとうございました。これにて完結といたします。皆様の応援でここまで来ることが出来ました。本当にありがとうございました。
最後に私からお願いがあります。
非常に申し上げにくいのですが最後に、面白かったと思った方はレビューと星をお願いします。何分、コンテストに出している身ですので……
その内、外伝の方も出そうと思っています。後日談てきな感じで……まぁ、その時のやる気ですが……
何はともあれありがとうございました。失礼します。
今の所、世界の命運は俺にかかっている 流石ユユシタ @yuyusikizitai3
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