第124話 三十路な彼女

 取りあえず、火蓮……さん? のアパートの一室に上げてもらった。無駄な物は置いていないシンプルな部屋。


 適当に座っててと言われたので席につく。俺が居ない世界……想像できないけど……それが現実なんだと思うと驚きやら色々感じる。彼女達はどうしているのか、悲しんでいるんじゃないか……取りあえず彼女に聞くしかない。と言う思いでここに来ている。



「夕食作るからそれまで待ってて」

「あ、はい」



 彼女はショートヘアーで大人な感じが凄く強くなっている。彼女は手際よくスラスラと料理を進めていく。俺が見てきた彼女とは違くて、本当に料理が出来ると言った感じだ。


 数十分ほどでいい匂いが漂って、その後すぐにテーブルの上には料理が並んだ。豚肉の生姜焼きやみそ汁、白米。一番うまい奴だ……



「食べたら色々話しましょう」

「分かりました。じゃあ、いただきます……」



彼女の料理は凄く美味しかった。味の安定感、ずっと作り込んできたと言う事が分かった。火蓮は俺の食べる姿をずっと見ていて微笑んで、目尻に涙を少し浮かべていた。俺は沢山おかわりをしてしばらく食事を楽しんだ。その後、食器などを全て片付け、互いにソファに座り合った。彼女は中々話さなかった。それが数分続いて、彼女は一息ついて重々しく告げた……


「それじゃ、話すわね……十六夜は十四年前、一般人を庇って心臓を魔王に貫かれて死亡したわ……魔王の最後のあがきが……十六夜を……殺したのッ、誰も貴方を守れなかった……一瞬で私達は全部を失ったの」

「その、他の皆は……」

「……皆、バラバラになっちゃった……互いに互いを責めたりもしてさ、コハクとクロコは高校時代から不登校になって、アオイと萌黄は学校には来てたけど話さなくなったわ……」

「そうですか……」



全員がバラバラになったと言う事なんだと認識して、大きな喪失感を覚えた。そして、自分のせいだと感じると自分自身にも怒りが湧いてくる……



「十六夜のせいではないわよ? 変に考えないでね?」

「あ、はい……」

「って言っても考えちゃうと思うけど……」

「そうかもしれないです……」



 自信の感情や表情の変化をすぐに彼女は見抜いた。こんなことを話してしまったからと彼女が心配そうな表情を向ける。彼女に変な気遣いをさせるのは止めよう。気持ちを切り替えたつもりでいつも感じに戻ろう。



「それで、その、年齢って……その、三十路を超えていらっしゃるんですよね?」

「なによ? おばさんに見える?」

「いえ、年齢より二回り位若々しくて綺麗だなって!」

「あ、そう……ふふん、そうでしょ? 両親にもそう言われてるからね!」



 毎度の事だがしっかりと本心を伝える。彼女は少しビックリしたようだったが、直ぐに自信あふれる反応をする。


 久しぶりに褒められるのが慣れていなかったように感じた……


「本当にきれいです!」

「ふふ、変わらないのね……そりゃ、そうよね……」

「火蓮先輩も変わらず綺麗です!」

「うん、凄く褒めてくれてありがとう。怒涛の褒めラッシュ十六夜らしいわ……でも、私は変わったわよ。髪型とか趣味とかもね」

「そんなあなたも素敵です!!」

「あらま……おばちゃんにそんなこと言ってくれるなんて……ッ、あれ?」


彼女の瞳から涙が取り止めもなくあふれ出す。


「おかしいなっ、こんな、年になってっ、涙が止まらないなんて……」


思わず俺は彼女を抱きしめてしまった。彼女も強く強く俺を抱きしめる。


「――ごめんねッ、ごめんッ、守ってあげられなくてッ。十六夜ッ、なんで、なんで死んじゃったのッ、幸せにするって言ったじゃないッ、」



彼女の十年の全てが、苦しみ、自身への怒り、俺への不満と愛情。それらがごちゃ混ぜになって心からあふれ出た。


言っている事のバランスが不安定で、それは彼女の葛藤そのものだと思った。


何を言っていいのか分からなくて、俺は……俺は彼女を黙って抱き続けて頭を撫でるしかできなかった。


◆◆



「こほん、えっと、見苦しい所を見せたわね」

「いえ、そんなことないです」

「そう……えっと、もういい時間だしお風呂、湧いてるから入って?」

「あ、はい」



流石に泣き過ぎた。十年以上離れていた大切な人に会って、褒められたりしたらそりゃ嬉しくもなるけど。まさかあんなに馬鹿みたいに泣いてしまうとは……恥ずかしいから十六夜をとっととお風呂に入れてしまいましょう。



十六夜がお風呂に行ったので一息つく。ああ、本当に恥ずかしい。頬が紅潮している。こんなに感情が高ぶったりするのは本当に久しぶりだ。


年齢だって今現在凄い自分は気にしている。もう、おばちゃんだけど十六夜は高校生くらいだし……だけど、ちょっと女出したいし……



なんか……楽しいな……でも、十六夜は帰っちゃうのよね……



ここに居てと言ってしまえばどれだけ良い事だろう。でも、それは……彼に枷となってしまう。だから、言わない。



嗚呼、なんだか……途端に寂しくなって来たな……別れの時は直ぐに来てしまうと分かっている。だから、今を楽しまないと……



久しぶりに一緒にお風呂でも入ろうかしら? そして、ちょっとからかってやろうと私は決めた。





◆◆



 お風呂に入ってぼーっとこれからを考える。一体、俺に出来る事は何だろうか、何が出来るのだろうか。真剣に考えないといけない。


 ……いや、どうするべきなんだ? 全然思いつかない……あっちの世界の彼女達だって放っておくわけには行かないから帰らないと言う選択肢はない。



 どうするべきか……うーん、思いつかない……悪魔的な発想が……



 すると、いきなりお風呂のドアが開く。



「背中、流してあげる……」

「ええ!?」

「なによ? いやなの?」

「いや、そんなわけないですけど……」

「じゃあ、いいじゃない」



火蓮がいきなりお風呂に突撃してきた。バスタオルを体に巻いているけどそれが逆に良い感じに見えてしまう。いつもの見ている彼女とは少し違くて、慣れていないと言う理由もあるんだろうけど、反応に困る



彼女は俺の後ろに来て、ボディタオルを泡立てる


「体洗った?」

「いえ……」

「じゃあ、洗ってあげるわ」

「ど、どうも……」




なんか、声も違う感じがする。大人な彼女。やべぇ、緊張が止まらない……。


彼女は背中から腕、前、いろいろ洗ってくれる。緊張で俺は体が硬直状態。



「そんなに緊張しなくても……」

「いや、しますよ! 緊張!」

「へぇー、私は十六夜ともう行くとこまで行ったからそんなにだけど……向こうの私とは何処までしたの?」

「キスまで……」

「ふーん、そうなんだ」



彼女は何事も無いように下半身を洗おうと手を前に持ってくる。



「いやいやいやいや! それはアウト!!」

「はぁ、相変わらず変な所でチキンなのね……」

「すいません! 変な所でチキンで!」

「変な所で潔いのも相変わらずね……まぁ、いやらしいことをするわけじゃないんだし、いいじゃん」

「いや、こればっかりは……」

「いいから、いいから……」



その後、滅茶苦茶争って結局、自分で洗った。彼女にはチキン、チキンと小馬鹿にされて、軽くデコピンも喰らった。うん、全部可愛い……



◆◆




 チキンの十六夜が隣で寝ている。ベッドで二人きりなのに手を出さない。そう言えば、十六夜も何だかんだ私達に中々手を出さなかったなと思い出した。ハーレムになって、暫くしても手は出さず、結局手を出したのは……いつだったかしら? 


 ああー、二人で旅館行ったときだったわね……結構、恥ずかしかった。声とか結構出しちゃったし……そっから十六夜もダムが崩壊したみたいに我慢できなくなって……これは考えるのはやめましょう。


 寝ている彼の頬を手で触る。懐かしい、いつまでも触っていたいと思った。そして言うつもりなんてなかったのに思わず出してしまった。



「――ここに居てよ……」



 おばあさんになってしまったのか、涙腺が脆くなっている。何度泣けばいいのよ、何度私を泣かせれば気が済むのよ……馬鹿……


 




◆◆



「皆と連絡取れませんか?」

「そういうと思ってしてあるわ。ただ、会えるのは萌黄だけね、他は知らないのよ」

「そうですか……でも速いですね!」

「十六夜には劣るわよ」


 

連絡先なんて残っていても殆ど変わってしまっていた。変わっていないのは萌黄だけだったから彼女とだけ連絡が取れた。



「さぁ、行きましょう?」

「はい!」



萌黄会うの本当に久しぶり……どんな顔して会えばいいんだろう。



◆◆



と言うわけで待ち合わせ場所に到着した。まぁ、三十分ほど早い到着なんだけど……変に緊張してる自分が居る。隣ではキョロキョロと東西南北、見回す十六夜。なんか懐かしい。


「あ、居た!」

「え?」



十六夜が声を上げるからそちらの方向を向く。確かに彼女がそこに居た。黄色の髪。黄金の眼。髪が学生の時はショートだったけど少しだけ前より長くなっている。



彼女はこちらに気づくと信じられない物でも見るように目を見開く。十六夜は大きく手を振って、ダッシュで萌黄に近づく。私は遅れてあるいて萌黄に近づく。



「萌黄先輩!! あぐっ!!」



十六夜が萌黄に抱きしめられて変な声を上げる。



「十六夜っ、僕の十六夜だ……会いたかったッ」

「私のだけどね」

「感動の再会に水を差さないで欲しいな……」

「本当の事だもの……」



うう、何か気まずい……萌黄も少し気まずそうにするがそんなことはどうでもいいようで十六夜を抱きしめる。公衆の視線が私達に注がれる。


「取りあえず、その辺にしておきなさい」

「嫌だよ。周りの視線なんて知るもんか」

「十六夜の顔が青くなってる」

「え? あ! ご、ごめん……強く抱き過ぎた」

「これくらい、寧ろいいです!」



十六夜が満面の笑みで自身の平気さをアピール。



「そう……えっと、なんで君が……」

「萌黄先輩、それは……実は……カクカクシカジーカ」

「ええ!? そんなことが!? あり得るんだ……まぁ、僕達魔装少女だったからそれくらいあり得るよね……」



十六夜が非常に分かりやすい説明を萌黄にする。萌黄は軽めにだがいつまでも抱きしめる。いや、公衆の視線……まぁ、良いわ……



「それで、そのアオイ先輩とコハクさんとクロコさんの連絡先って知ってますかね?」

「……アオイちゃんなら知ってるけど……すぐに他の女の子の名前だすのは感心しないな……むぅ」

「むぅ、はやめときなさい萌黄。もう……三十路なんだから」

「そういうの言わないでもらっていい!? 僕これでも結構若く見られるから!! 大学生くらいに見えるってよく言われるから!」

「ああ、はいはい……」



萌黄が怒りをあらわにするのでそれ以上の追求はやめておいた。気にしてるのね、年齢。


「はぁ、アオイちゃんの連絡先だけど……ちょっと待って……」



彼女は携帯にカタカタと文字を打って連絡したようだ。


「はい、できた」

「ありがとうございます!」

「これくらいいいよ。それよりさ、連絡が帰ってくるまでちょっとそこのデパート行かない?」

「はい! 行きます!」

「ああー、良い返事、懐かしい……」

「ちょっと待ってよ。私もデートしたいんだけど?」

「火蓮ちゃんはもうたくさん良い想いしたんでしょ? 僕に譲ってよ」

「無理」



互いにメンチを切ってしまう。何か、凄い久しぶりな感じがする。


「ああーその、二人共一緒に行きたいです!」

「この素直な感じ……ううぅ、懐かしいよぉ」

「そうね……懐かしいわ」



本当に懐かしいと私は思った。と言うわけで連絡が帰ってくるまで三人でデートをすることになる。



◆◆




 奇跡は起こるなんて思っていなかった。この十年間、毎日がつまらなかった。



 皆とは喧嘩別れするように別れてしまった。互いに彼が死んだのはお前のせいだと醜い争いをした。誰もが自分のせいだと認めたくないて、でも悔しくて、悲しくて、心がぐちゃぐちゃになってバラバラになった。


 彼が居ないだけで世界から色が消えた。ただ、食べて寝て働く生活。思い出して泣く日もあった。



 身長の事を好きだと真っすぐ言ってくれる人は死んだ。僕のことが好きだと真っすぐ言ってくれる人はもういない。


 何度も後悔を繰り返した。そんなとき、火蓮ちゃんから連絡があった。


 会いたいと言われた。今更何だと思ったが僕も会いたいと思っていた、一人が辛くて仕方なかったから。


 久しぶりに他愛もない話でもしようかと思っていたら……そこには彼女と彼が居た。


 理由なんてどうでもいい。彼が来てくれただけで、居るだけでそれでいい。火蓮ちゃんとちょっとだけ彼の取り合いをした。三十路だけれども……



 何年もあっていないのに彼が居るだけで自然とあの頃に戻ったような気がしたんだ。



 それが嬉しかった。起こるはずのない奇跡が起こったんだ。



 でも、それと同時に分かってしまった。彼が帰ってしまう可能性に。



 それは火蓮ちゃんだって分かっている。だから、少しでも想い出が欲しいんだ。でも、それは僕も同じ……


 三十路にもなって恥ずかしいけど……高校生を彼を取り合う……ことにした。彼女には負けたくないと言う嘗ての気持ちが湧いてきた。


 三十路かぁ……今だけ高校生になりたいと思って仕方なかった……



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