第123話 君が居ない未来

 クリスマスが過ぎて、お正月。新たなる年を皆で迎える。そして、そのイベントを通してハーレムとはすばらしいと実感する。いや、魔装少女達のハーレムだから素晴らしいに訂正である。


ケーキなんて、甘いのにあーんとかされたら最早砂糖食ってるみたいなものだ。そんな、微笑ましい毎日を送っているのだが、一つ気になることは劇場版……作者曰く、楽に倒せると言っている。作者が大丈夫だと言っているなら大丈夫なんだろうけど……



 そんな感じで日々を過ごしていると、とある日、世界に大穴が開く。彼女達は世界を守る為に戦いに行く、中間パワーアップをして、絆も深まっている彼女達の敵なんてほとんどいない。


 大きな穴から出てきたのは見た事のない化け物。俺の知識でも見た事なんてなくて、明らかに強そうな感じがする。パンダのような白黒の怪人。そんな怪人を彼女達は一切容赦なくそいつをボコボコにしていく。


 パンダから歪んだ変な発行のしている光があふれる。それをあっさり彼女達は避けていく。そして、最後の最後に五人の魔装技でパンダは貫かれて絶命する。だが、最後の最後の抵抗で劇場版パンダは歪んだ魔力放出、その数およそ、千。それを全て彼女達はさばくのだが一つだけさばけずにそれが逃げ遅れた一般人に向かう。ヤバいと思って俺が咄嗟に庇うった。トラックにひかれそうになった子供を庇うように一般人を押して代わりに攻撃をくらう。



 すると、とんでもない船酔いでもになった気分で視界が歪んで、頭が痛い。そして、何もかもが歪んでいく。そのまま、意識が……


 微かに彼女達の声が聞こえた気がする……




◆◆



 気が付くと、俺は……皆ノ色高校の校門の前に倒れていた。これは、あれか。本来なら彼女達が飛ばされるはずだったのに俺が飛ばされたみたいな感じか……。作者から聞いていた話をだいぶ違うぞ。本来ならもう少し、バトルが拮抗してそれでパンダの攻撃を彼女達がくらい、鏡写しの世界に飛ばされる。


 しかし、彼女達の強さは本来以上で絆も本来以上だった理由だと思うが、色々ズレてしまったから俺だけ飛ばされたと推測する……速く、戻りたいけど……。作者が言うには本来の世界の住人では無いものは自然と修正力で戻るらしい。



 どうしよう……彼女達も心配しているだろうし。でも、直ぐには戻れない。歯がゆい思いを感じていると男らしい声が後ろか聞こえる。



「お前……十六夜っ……か?」

「お前は……」



後ろに居たのは佐々本だった。教師のような恰好で年齢は三十ほど。作者が言っていたな。色々なキャラのその後が見えると……へぇー、教師になったんだ……意外だな。



これ、逃げた方が良いのか? どうなんだろう……そんな事を考えていると佐々本は信じられないような顔をしてこちらを見る。何だ? その幽霊でも見るような顔は……



「なんで……居るんだよ……お前は……



……どういうこと?



「え? どういうことなんだそれは……?」

「幻覚、いや、そっくりさんとかドッペルゲンガー!? いや、いや、そんなはず……」



どうやら、俺の話は聞こえていないようだ。この世界の事がいまいちわからないが……コイツ以外から話を聞くほかないだろう。無理やり肩を掴んで目をしっかり合わせてそこそこの声で話した。



「いきなりで悪いが俺はもう一つの世界から来たんだ。魔族のせいでな……だから、この世界については知らない。だから、早く教えてくれ」

「……そんなことありえるのか」

「ありえる。お前の目の前にある現実が全てだ。それより、詳しく……」

「ああ……まぁ、この町魔装少女とか居たからな……でも、かなり聞くのに厳しい話になるぞ……?」

「頼む」



渋々と言った感じで彼は語りだした。重々しく口を開いて。彼自身もあまり思い出したくないことだと感じ取る。


「十年以上前、俺達が……高校二年生に上がるころだ……この世界、とんでもない魔族の侵攻があった。今までの比じゃないとんでもない魔族だ。機械的で大きな魔王のような……」



それって、魔装少女のラストシーンじゃないかの。魔王の船が意識を持ち、それが変形して現実世界に攻めてくる。それを倒してハッピーエンド……死者、負傷者共にゼロ。最善最高の終焉なんだが……



「まぁ、倒されたんだよ。その化け物は……でもな、その戦いで……一人の死者が出た」

「……それが」

「そう…………」



 一気に、温度が低くなって気がした。彼の雰囲気と表情、声のトーンなどで全くの嘘でないことは分かった。



「それで……コハクさんとかは……」

「酷いもんだったよ……その日からもぬけの殻みたいになってさ……五人共、仲良かったのに……一言すら会話もしなくなって、バラバラに行動するようになった」

「……今、五人は何処にいる?」

「分からない……けど……火蓮先輩はこの辺で一人で住んでるって聞いたぜ」

「そうかッ、それじゃあ、またなッ。ありがとう!」


俺はその場から走った。ただ、彼女達に会いたくて。


「またな……か……だといいな」



後ろから声が聞こえる。佐々本は何だかんだでキャラだと思っていた時はあるけど友達だと親友だとも思っていた、一人の人として。


俺は軽く手を後ろにやってその場を後にした。




◆◆



 私はただ、いつも通りの帰り道を歩いていた。夕暮れの中、私は沢山の人々達とすれ違う。泥だらけになって遊んで家に帰る小学生や部活帰りの中学生、恋人とイチャイチャしている高校生。



 帰りにスーパーによって肉とかビールとか、野菜とか適当に購入。周りでは子供持ちの主婦や肩車して買い物する親子が見える。三十代のOLか……



 レジにお金を払って、エコバッグ忘れたから3円で買って、カゴの中の商品を袋に移す。移していると前の店のガラスに自分の顔が写った……大分、老いてきたなと感じる。最近、両親と会ってその事を話したら、そんなことは無いと両親には言われた。肌は若いし、張りもあって三十代に見えないと……



 でも……どこか、あの時ほどの輝きが自分から失われた気がしてならない。



 そう考えた瞬間に私は自分で自分の頭を軽く振って思考を中断した。レジ袋を手に下げてアパートに向って行く。


 また、色々な人が通り過ぎる。男の子と女の子。カップルで高校生。皆ノ色高校の制服を着ている。


 姿。驚嘆して私は振り返る。勿論、私でも彼でもない。


 何度も忘れようとした。忘れたくてたまらなかった。一瞬だけ、忘れたことなら何度もあった。でも、直ぐに思い出した。彼が居ないという事実だけで私の人生はこんなにも色を失って、辛くて、辛くてたまらない。


 はやく、わすれたい……


 その為に、私はツインテールを止めた。彼が好きだと言ったから。髪をバッサリ切ってショートにした。いつまでもツインテールだと彼を忘れられないと思ったから。


 アニメ関連は全て物置にしまった。彼と見て、話したことを思い出すから。



 それでも、忘れられない。いつまでも魂に焼き付いた呪いのように彼は離れない。両親はそんな私を見かねて、お見合いを進めることもあった。忘れられるなら何でもいいと思い、何度か受けた事もあったけどすべて断った。


 そうする度に彼を忘れようとしているための行動だと分かって、余計に思い出すから……


 だから、ただ、なんてことのない日常を過ごしている。これが……一番、マシ。



 そう思いながらただ、歩く。その、時……前に男の子が見えた。黒いパーカーを着て、行く人行く人に何かを聞いている。首を振られて、残念がりまた他の人に聞いている。遠くからだから良く見えないけど……今度はお年寄りのおじさんに聞いている。


「あの、この辺に赤髪で女の綺麗な人っていないですか!?」

「うーむ」

「ちょっと、小振りな胸で、お尻も小振りなんですけど!!」

「うーむ」


男の人は背中しか見えない。でも、何処かで……近づくたびに……私は……幻想を見ているのかと驚嘆が大きくなる。



そう、この背中、この声……この暑い感じ……



「い、ざ、よい……?」

「っ……! 火蓮先輩!?」




私は恐る恐る彼に近づく。レジ袋を道に落として、ゆっくり両手で頬に触れる……幻覚じゃない、幻想じゃない、本物……



「なんで、どうして? 死んだんじゃなかったの?」

「その、俺はもう一つの世界から魔族に飛ばされて……」

「……そうなんだ……ねぇ、ちょっと体貸して」



 私は彼の背中に手を回して頭を胸板に預ける。何度も味わって来た。あの感触で暖かいもの。人目なんて気にならなかった。私の中で彼との思い出がフラッシュバックする。


 ポタポタと涙があふれた。忘れられる訳なんてなかった。ずっと、バカみたいに誤魔化して生きてた。十年以上も頑張ってたのに……今になって現れた……私は彼から離れられないと再認識した。



 十分ほど、その場で泣いて。流石に視線が多くなって来たので一旦離れて二人で歩き出す。何年もあってないのに歩幅が自然とあう。



「えっと、取りあえず家に来ない? 色々話したいし、十六夜も聞きたい事あるんでしょ?」

「はい……」

「じゃあ、その、手、繋がない?」

「手ですか?」

「もう、おばちゃんになっちゃったけどさ……でも、それほどしわくちゃってわけでもないのよ? もしかして、おばちゃんの私はいや?」

「そんなことないです! それに全然、おばあちゃんには見えないですよ! 寧ろ、JK!」

「それは……褒め過ぎと思うけど」

「そんなことないです!」



そんなことを言いながら手を繋ぐ。ずっと、こうしてたかったよ……うっすらと再び涙が瞼に溜まる。でも、これ以上見せるのはみっともないから軽く繋いでいない方の手で拭いた。



いつもと同じはずの道が楽しいと感じた。





◆◆



「十六夜君、十六夜君、十六夜君、十六夜君、十六夜君、十六夜君……」

「ダーリン、ダーリン、ダーリン、ダーリン、ダーリン、ダーリン……」



壊れたレコードのように二人は彼を呼ぶ。火蓮ちゃんとアオイちゃんがそれぞれ慰めているが彼女達は直らない。


彼がパンダの時空攻撃によってどこかに消えてしまった。勿論、僕たち全員が心配している。火蓮ちゃんとアオイちゃんも慰めながら目尻に涙を浮かべている。大丈夫と言いつつも二人も不安がぬぐえない。



メルちゃんも色々調べてくれているけど、よく分からないようだ。全員が不安でいっぱいになっていると彼の家のインターホンが鳴る。


皆、出る気力なんて無い。僕だってソファに座ってずっと頭を抱えているから。彼が居ないだけで自分たちはこんなにも可笑しくなってしまう。このまま、もなくなってしまうと感じた。いつの間にか、彼が自分たちの中心だったから。



彼の大事さを再認識しているとインターホンが何度も鳴る、何度も何度も。あり得ない位、馬鹿みたいに……なんだかだんだんとイライラしてきた。



五月蠅いと叫びだしたい。でも、それは出来ない。自分だけが辛い訳じゃないから。僕は取りあえず玄関に行きドアを開ける。そこには……



「やぁ、すまないね。少し上がってもいいかな?」

「貴方は……」




この間、彼と一緒に喫茶店に居た女の人。彼女はドシドシと部屋の中に上がってきた。拒むべきだったのだろうが拒めなかった。そんなことを直ぐに出来ない程、混乱と疲弊していた。


彼女はリビングに入る。火蓮ちゃんとアオイちゃんが彼女を見て何で彼女を家に上げたのかと僕に視線を向ける。


その視線は僅かに怒りと悲しみと八つ当たりだった。それが分かったのに僕は自然と怒りが湧く。僕だって辛いのに……



思わず、また叫びそうになる……だけど、そこで家にいきなり上がった彼女は手を大きくパンッっと叩いた。全員の視線が彼女に釘付けになる。



「一回、落ち着こう」

「……落ち着けるわけない」

「……そうよ……何も知らない癖に……」



アオイちゃんと火蓮ちゃんが怒りの声を上げる。するとそんな反応を分かり切っていたのか彼女はスルーして話を続ける。



「色々、想定外の事に驚いているだろうけど……まぁ、私も驚いているのだが……単刀直入に言おう……黒田十六夜、彼は生きているよ」

「「「「「――ッ!」」」」」



全員が彼女に視線を向ける。誰かがそう言ってくれるのを僕たちは待っていたから。僕たち同士だとただの傷の舐めあいになってしまうから。僕たち以外からそう言って欲しかったのだ。


でも、なぜ彼女がそれを知っているのか。嘘ではないのかと疑問が強くなる



「安心していい、嘘ではないさ。彼は鏡のような世界に飛ばされているだけだ」

「本当なのですか? ダーリンは生きているのですか?」

「本当だとも。ただ……彼が居なくなってから既に五時間……少々、多いな……」

「何か貴方は知っているんですかッ? はやく、はやく、十六夜君に合わせてくださいッ!!」


クロコちゃんとコハクちゃんからようやくしっかりとした言葉でる。しかし、それは不安や焦りが強く出ている。今にもまた壊れそうだ。


二人を落ち着けるように彼女は話す


「ちょっと、待ってくれ。その前に君たちに分かりやすく現状を説明しよう。そもそも、彼が飛ばされた世界はこことほとんど同じ世界で少し違う時間軸の世界なんだ。それでね、彼をこちらに戻す方法は二つある」


方法があると聞こえた瞬間に全員がどうしたらと聞きたくてたまらなかった。だけど、彼女はそれが分かっていたように話を聞けと手で制す。



「一つ、パンダに無理やり戻させる。これは君たちが既に倒しちゃったから無理だね。もう一つは自然と戻るのを待つだ」

「……自然とは具体的にどのくらいですか?」


コハクちゃんが冷静に聞いた。震えを抑えて。


「そうだね……本当ならもう戻ってきてもいいんだけど……何か、あちらの世界でもイレギュラーが起こっているんだろうね」

「イレギュラー……」

「元々、黒田十六夜と言う存在はこちらの世界のものだから、放っておいても自然と彼は戻ってくる。世界の修正力的な奴でね。ただ……そう言った概念を超えるものはいつの時代も愛や渇望だから……あちらの世界の何か大きなものが彼を縛ってると私は結論付けた」


彼女は自信満々にそう言った。何か根拠であるのかと思い、コハクちゃんが再び聞く


「何故、言い切れるのですか?」

「私は……占い師だからね。色々、分かるのさ」

「そうですか……信じてもいいんですね?」

「おうともさ。占いの結果彼は死んでいないと出ている」

「分かりました……」



疑いが僅かに残るけど一応僕たちは納得した。彼女が嘘を言っているようには見えなかったからだ。


そう、思っていたけどいつまでたっても彼は帰ってこなかった。











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