終幕編

第122話 とある作者との邂逅

 私はその日、全てを思い出した。自分の事を前世の事を……私は自分の作品のキャラクターの一人である占い師に転生したいたのだ……


 だとするなら、不味い。この世界は私の少女たちのバッドエンドの世界線かもしれない……と思ったのだがよく考えたら、黒田十六夜と言う者がいた事を思い出す。彼が居ることで全てが救われていることを思い出した。じゃあ、安心だ……しかし……


 黒田十六夜……私が作り上げた救済の主人公……だが、彼は設定なんて殆ど考えられていなかった。いわば空っぽの器。だとするのに、何故あんなに動けたんだ?


 彼と海原町に行ったことを思い出す。電話したことも思い出す。空っぽの器と言う感じはしなかった。だとするなら彼は一体……確かめる必要がある。だから、私は彼を呼び出した。




◆◆



 俺は占い師に呼び出された。久しぶりに会うなと思いつつ、いきなりで驚きと言う感情もある。皆からは浮気では? と一瞬疑われたが直ぐに誤解は解けた。



 まぁ、そんなこんなで久しぶりの喫茶店である。火蓮とここで色々あったなとかちょっと思い出す。しかし、今はもう彼女である。


「いらっしゃいませー。あ、久しぶりですね」

「どうも、えっと待ち合わせなんですけど」

「もしかして、あそこにいる人ですか?」

「あ、そうです」



俺は既にコーヒーを飲んでいる彼女の元に向かった。何というか彼女の雰囲気が依然と違う気がするんだが気のせいだろうか?



「やぁ、よく来てくれたね。さぁ、座ってくれ」

「語尾のじゃはどうしたんですか?」

「ふふ、もう使わないさ」

「キャラ変ですか?」

「違うと言っておこう」



どうしたんだろうこの人、本当にちょっと変な感じがする。落ち着きすぎじゃないか。前の自信ありありの感じは何処にいったんだ?



「何か御用なんですか? その、彼女のいるのであんまり女性と二人きりとかで不安を掛けたくないんですが……」

「彼女とは……銀堂コハクとかかい?」

「そうですね……」



銀堂コハクの名前ってこの人に言ったことあったか? まぁ、占い師だからこれくらい普通か。


彼女は少し、咳払いをして場を整えると意を決したように俺に聞いてきた。


「君は……前世があるって私が言ったら信じるかい?」

「不思議ちゃん設定な感じですか?」

「違う」

「あ、なんかすいません」


結構真面目に聞いていたらしい。真面目な声のトーンで怒られた。中二病とかでも無い感じだな。


「えっと、一応信じますかね? 色々不思議な事がこの世界にはあるので」

「そうかい……実は私に前世の記憶があるんだ」

「そ、そうですか……」

「そして、この世界は私が描いた本の中の世界なんだ」

「うえぇええ!?」

「その反応……私を知っているね?」



え? この人、『魔装少女~シークレットファイブ~』の作者さんだったの!? いや、素直に驚きだ。



「えっと、俺ファンでした」

「それはどうも」

「それはそうと何でバッドエンドなんて描いたんですか? それだけは理解できません」

「……そうだね。編集社の中に凄いお世話になった人が居てね……断り切れなかった……」



バッドエンドなんて絶対に許せない。それはファンとして、だけど彼女も後悔していることは汲み取れた。さらに、彼女の攻めるのもお門違いの気も少しだがした。だから、これ以上は言わないことにした。


「君は感謝しているよ。彼女達を救ってくれて」

「好きな人の為ですから当然です」

「そうかい……君だから黒田十六夜に成れたのかもしれないね」

「黒田十六夜と言うキャラが居たんですか?」


彼女のいい方からもしかしたら、黒田十六夜と言うキャラの存在を感じ取った。



「空っぽの器だけ設定であった。ただ、彼女達を愛するものであってほしいと私が想っていたからね。もしかしたら、それに一番適応したのが君だったのかもしれない」

「そうなんですかね?」

「……あんまり驚かないんだね」

「いえ、驚いてます」

「あんまりそんな感じには見えないんだが……正直、こういう時って色々悩んだり考えたりすると思うんだが」

「アジの開きのように開き直ってますから」



俺は決められたレールの上を走っていたのか!? とか、俺と彼女の絆は偽物なのかとか普通なら悩むかもしれないが俺はそんなことはないと断言できるし、俺が生きているこの世界も想いも本物だ。


「そうかい、存分に開き直って彼女達を愛してくれ。本当にありがとう。君には感謝してもしきれない」

「俺も感謝しています。貴方の作品を読めたこと」

「ふふ、意外と誑しの部分があるのかもしれないね……本当に良かった彼女達が救われて……彼女達は私の理想だったから」

「理想?」

「彼女達の出来事は全てじゃないけど、私の実体験が入っている。離婚とか虐めとかね。だから、最後には幸せになれるって自分の願望とか色々つぎ込んだのさ。だから、今の彼女達が幸せならそれは私の幸せ。最高だよ……君は。本当にありがとう」

「……よければ会って行きませんか?」

「それは、また今度にするよ……」



この人も色々あった人生だったんだろうなと思った。彼女はそう言えばと何かを思い出して話題を切り替える。



「そうだ、これを忘れてはいけない。この世界を私なりに考えたんだけど……」

「はい?」

「この世界は私の理想の世界でもあり後悔の世界なのかもしれない」

「詳しくお願いします」

「バッドエンド、それが二つもこの世界にはあった。まぁ、あっさり君が回避したのは流石としか言いようがないが……これは私の勘なんだけど、もしかしたら、君の知らないもう一つの物語が始まるかもしれない」

「それって?」

「劇場版だよ」

「聞いたことないんですが……」


魔装少女の劇場版なんて聞いたことがない。あれば絶対に何回も見に行っているはずだし。



「この作品は本編が完結した後で考えられていた作品だからね。でも、完結直後は体調を崩してしまって何年も放って置いたら時代の波が変わっていた」

「そうなんですか……」

「まぁ、時代の波だからしょうがないんだが……一応プロットだけはあったから劇場版したかったなと後悔が残っているんだ……」

「その、内容はどんな感じなんですか?」

「四人目の魔の三銃士トライ・リベリオンが次元のはざまに封印されていてね。そいつの能力は空間を操るという能力なんだ」

「チートじゃないですか!?」

「いや、結構あっさり倒す」

「ええ!? そうなんですか!?」


どう考えてもチートにしか聞こえない能力だがそれをあっさり倒す魔装少女は流石としか言いようがないな。


「実はね、この世界には鏡写しのようにもう一つの世界があるという設定があるんだ。その世界はこちらとは少し時間軸が違う。その世界に五人が飛ばされて未来の自分と邂逅するというストーリーなんだ。あくまでメインは未来の自分との対話。そのまま一緒に変身して、もう、ギッタンバッコン敵を倒す。一緒に変身しなくても倒せるのにギッタンバッコン倒す」

「流石、究極のかませの魔の三銃士トライ・リベリオン……劇場版の四人目でもそれは変わらないんですね……本編でも結構扱い酷くなかったですか?」

「そうだね。魔王が復活したら真っ先に喰われて一度も魔装少女と戦うことなく退場したからね」

「巷では凄いあっさりやられたから、お茶漬け先輩トリオって有名でしたよ」

「ああ、そんなのもあったね……」



しかし、そんな劇場版の話があるのか。ちょっと気になるな。未来の彼女達だから俺と結婚して子供とか出来てたりして……いや、流石に速すぎか?



「この劇場版は時間軸ではちょうど、五人が出揃った所を主軸にしているからね。そろそろ……来るかもしれない。でも、あくまでも可能性だからね」

「大事な事を教えてくれてありがとうございます」

「その言葉そっくりそのまま返すよ……さて、私はそろそろ帰る。また会おう」


彼女は言いたいことは言ったとばかりに席から立つ。


「お勘定は私に任せたまえ」

「いいんですか?」

「ああ、いいとも……今度、彼女達に合わせてくれ」

「はい!」



そう言って彼女は喫茶店から出て行った。





◆◆




言いたいことは言えた。一度彼女達にあって見たかったが……それは私には資格がないだろう。


そう思いながら喫茶店を出て駅の方に向かう。すると、誰かから声をかけられた。



「あの……」

「……っ」



振り向くとそこには五人の少女が居た。銀髪の子が代表して私に話しかけたようだ



「十六夜君とはどういう関係何ですか!?」

「……ふふ、君たちの思っている関係ではないよ」



私がそういうと彼女達は安堵したように一息をつく。


「そ、そうですか……本当にそうなんですか?」

「疑り深いね君は……本当だとも……私は彼の母親の同級生でちょっと縁があっただけさ」


一息ついたと見せかけて銀の子は私に再度質問する。確か、彼女の母親はヤンデレだから……病みの部分があるからかな? 恋になると疑り深いのかもしれない……私の知らない一面だ



「な、なんだぁ、よ、よかったです」

「ほーら、私の言った通りじゃない。疑い過ぎなのよ」

「火蓮も結構疑ってたけど……」

「アオイでたらめ言わないで!? そ、そんなことないわよ!」

「確かに火蓮ちゃんも意外と疑り深いからね」

「そういう萌黄お姉さまが真っ先に一応尾行しようと言ったのです」

「そ、それは……で、も、皆も乗り気だったじゃん!!」




知っているようで知らない。きっと、彼と出会って彼女達も変わったんだろう。でも、きっと彼女達の絆とかそういった大事な部分は変わっていないと感じた。自然と自分の頬が緩むのを感じる。



「私は失礼するよ……幸せになりたまえ」


去り際に彼女達に言った。背を向けて歩き出す。後ろから感謝の言葉や疑った謝罪の言葉、五人も居るからガチャガチャして聞こえる。



結婚式くらいには呼んでもらおうと私は思い、その場を後にする。



冬の風は冷たいが自然と心は温かった。










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