七塚の祟り

金糸雀

第1話

 私は、都内の私大を卒業すると同時にある国立大学に就職した。教員免許も医療系の資格も持っていないのに何故だか「働くなら学校か病院が良い」という漠然とした憧れがあって、医学部と附属病院もあるそこはうってつけだったのだ。

 大学の名前を、仮にC大学としておこう。C大学は、東京に隣接する県にあって、大学時代は都内で生活が完結していた私にはそれまで接点がなかった。卒業生だったならもしかしたらあったかもしれないコネ的なものの恩恵を受けることもなく、面接の席で我ながら白々しさを感じながら「貴校に貢献したい思い」とかそういうものを適当に語ったら、通ってしまった。


 女の子の最初の配属先は附属病院の医事課になることが多いと聞いていたから私も、と期待していたが、その期待は見事に裏切られ、私は工学部行きの辞令を受けた。まぁ、私みたいなのがC大学で働けることになっただけで幸運というものだ。



 工学部で過ごす四度目の三月に、異動の話が出た。C大学に限らず、大学というのは概ね三年に一度は異動があるものだ。どういうわけか十数年間同じところに留まっているような人もたまにいるようだが、私の場合はほぼ標準通りのタイミングで異動することになったわけだ。


 正式に辞令が下る前に係長に呼び出され、内々に異動先を告げられた。


 「野口さんは四月から、えーと、附属病院の」

 「病院? ホントですか? 医事課? 医事課ですか?」

 

 附属病院で働きたいです、医事課に行きたいです――と異動の希望を出し続けていた私は、係長の言葉を途中で遮って、食い気味に問い質した。きっとこの時の私は、たとえではなく本当に、前のめりになっていたことだろう。

 係長は若干引きながら「いや……」と苦笑いして、続けた。


 「管理課の、経理係っていうところ」

 「カンリ? ケイリ? なんですかそれ」


 その後の係長の説明は正直、あまり頭に残らなかった。わかったのは、働く場所は病院の中ではあるけど、あんまり医療寄りではないところらしいということ。医事課で医療費の計算をしたり患者さんの案内をしたりしてみたかった私はちょっとがっかりしたが、ぼそぼそとその気持ちを伝えたところ、係長はにべもなく


 「医事課でも、正規の職員がするのはそういう仕事じゃないよ。そういうのやってるのは派遣とか嘱託とか。今だとそうだな、N学館からの人が多いかな」


 と言った。


 キミ、なんにも知らないんだね、と言われたような気持ちになった。

 そして思う。

 ――そうか、医事課で働くなら附属病院勤務狙いで大学に就職するんじゃなくて、医療事務系の派遣会社に登録しとくべきだったのか、と。医療事務系の派遣会社、あるのかどうか知らないけど。N学館って、何なのかな。


 ともあれ、医療寄りではないにせよ附属病院で働くという希望は叶い、私は四月を迎えた。

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