僕の夏
ピピピッピピピッ……。目覚まし時計の音で、うっすら瞼を開ける。午前9時をまわっていた。いつの間にか、もう一度寝ていたようだ。左手の中には錆びた懐中時計があった。
「お兄ちゃん、僕がんばるね。僕らしく、生きてみせるよ。もう自分を責めたりしない。」
僕がそう呟いた時、カチッカチッ……と音を立てて懐中時計の針が動き出した。
僕の決心を後押ししてくれているみたいだ。
ピーンポーン。ピーンポーン。
玄関のチャイムが鳴る。階下から聞き慣れた声が聞こえた。
「おーい。青木いるだろー?なんか俺、ものすごい事思い出してさー。聞いてくんねえー?」
坂口だ。僕は懐中時計に視線をやってから答えた。
「うん!僕も話したいことがあるんだ。今行くよ。」
懐中時計を机の上に置いて、部屋を後にした。
窓の外には兄を亡くしたあの夏の日と似た入道雲が広がっている。僕は、ようやくあの夏の日から抜け出せた気がした。懐中時計と共に僕の時間が再び動き出した。
ふと、雲のすき間にクジラが見えた気がしたが、飛行機だった。
セミの騒がしい声がする。
今日から夏休みが始まる。
僕の夏 海月 @nijiirohotaru
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