別れの時
「すず。やっと思い出したか。お前さんは自分が死んだ事がショックで海に落ちてしまったところまでしか記憶がなかったんだよ。お前さんが、この世に留まり続けていたのは海が好きということもあるが、本当の理由は、そうじゃない。大好きだった親友のことを思い出そうと探し続けていたからなのだよ。
わしが、お前さんにこの任務を与えた理由はな。他の人々の別れに携わることでお前さんの親友のことを思い出させたかったなのだよ。お前さんの親友を同じ名前に生まれ変わらせて良かったよ。これでやっと、すずも、しゅんも成仏できるぞ。」
スっと部屋の隅に現れた老人は、そう語った。
「「神様!」」
兄とすずが同時に声をあげた。この人が神様なのか。想像していた仙人の様な姿ではなく、Tシャツにハーフパンツという軽装だった。そして、よく見ると見覚えのある顔だ。
「坂口のおじいちゃん!?」
「おお。覚えていてくれたか、少年。ちなみに言っておくが、わしは坂口京介の祖父ではないぞ。少し坂口少年の記憶をいじらせてもらって祖父になりきっていただけだ。安心しなさい。もう元に戻してあるから。さあ、2人ともそろそろ天界に行くぞ。」
僕が呆気にとられていると、兄が僕の手に何かを握らせた。
僕が海に落としたはずの懐中時計だった。錆びか濃くなっていて、針は動いていない。
「これ……。拾えたの?もう波で流されちゃったかと思ってた。」
兄は優しげな顔で僕を見た。
「かけるの大事なものだからな。すずに返そうとしたら、かけるに渡してあげるように言ってくれたんだ。これからも大事にしてくれよ?元気でな。泣きたい時は泣いたっていいからな。無理すんなよ。かけるはかけるの人生を生きてくれたら、兄ちゃんは嬉しい。」
「うん。ありがとう、お兄ちゃんも元気でね。時計、大切にするよ。」
僕がそう言うと兄は安心した顔で頷き、すずと神様の元へ行った。
「またな、かける。」
「元気でね、かける君。」
「強く生きるんだぞ、少年。」
口々にそう言うと3人とも光に包まれて消えていった。後には僕ひとりが残った。
部屋に朝日が差し込むと、水中の様だった室内は、みるみるうちに元の僕の部屋に戻っていった__。
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