すずの秘密

 僕のせいじゃ……ない?元々死ぬ運命だった?そんなの悲しすぎる。でも、兄が笑ってくれた。僕を自慢の弟とも言ってくれた。それだけで、もう充分じゃないか。僕はもう自分のことを責めるのをやめようと思う。

涙を流しながらも、僕は精一杯の笑顔を兄に向けた。

「僕に会いに来てくれてありがとう。やっぱり、お兄ちゃんは僕の憧れだ。」

「いいねえ、兄弟って。私もお兄ちゃんが欲しくなっちゃったなあ。」

声がした方へ振り向くと、すずが両手を広げてくるくると回っていた。

「すずちゃん!君は何者なの?僕が見たクジラのことも知っているの?」

聞きたかったことを全て聞いてみた。するとすずは、くるくる回るのをやめて、僕に向き直って言った。

「私はね、昔、海で死んだ普通の人間だよ。海が大好きで、離れたくなくってね。気がついたら、70年も経ってた。でも、ずっとこの世に留まる代わりに神様から任務をもらっていてね。それが、あなた達やあなた達のおじいちゃんみたいに、大切な人と海で死別した人の心を少しでも軽くすること。あと、亡くなった側の人の未練を無くしてあげること。かける君が見たクジラは、君のお兄ちゃんである、しゅん君との最後の思い出のかけら。私が作り出したものだよ。かける君の様子を私の代わりに見てもらっていたの。私は、しゅん君のことを見ていたから。私やクジラのことは、かける君以外には見えていないはずだよ。」

なるほど。やっと、すずやクジラの正体が分かった。でも、1つ引っかかることがあった。

「坂口がプールですずちゃんみたいな特徴の女の子を見たって言ってたんだ。僕以外には見えないはずなら、どうして坂口には見えたのかな。」

僕が何の気なしに言うと、すずが驚いた顔をした。言葉を失っている。

どうしたのだろう。僕の坂口という言葉に兄が反応した。

「坂口って、京介のことか。懐かしいなあ。俺が生きていた頃は3人で、よく遊んだよな。」

その時すずが、あっと悲鳴にも似た声を出して、しゃがみこんだ。

僕と兄が心配すると、すずは涙をポロポロ流しながら話し始めた。

「……坂口京介君は私が生きていた頃の親友と同じ名前なの。私が誤って、海に落ちた時に必死に浜辺へ運んでくれたのは、きょうすけ君だった……。私は、その時すでに息がなくて、魂となって近くで見ていたの。どうして忘れていたんだろう……。もしかしたら、かける君の友達の坂口君は生まれ変わりなのかもしれない。いつも、教室でひとりぼっちだった私を見つけてくれた、きょうすけ君の生まれ変わり……。きっと、そうだと思うの。」

衝撃的なことが続きすぎて頭がパンクしそうだ。すずは、ついに声をあげて泣き始めた。

僕と兄がどうすればいいのか困っていると、老人の声がした。

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