クジラの秘密【下】
「俺もそのつもりだったんだけどな。姿の現し方が分からなくて。死んでから1年の間はかけるの前に現れてもいいって神様が言ってくれたんだけどな。」
「神様って本当にいるんだ……。」
「おう、いるぞ。元気なじいちゃんだ。それでな、1年を過ぎても俺がモタモタしてたら神様に見放されちゃってな。結局、姿の現し方を教えてくれないまま神様だけ天に帰ってしまったんだ。そんな時に、すずが急に俺の前に現れて言ったんだ。弟に会わせてあげようかって。俺はその提案にのったんだけど、条件があってな。お互いに会いたいと思っていて、会う必要があると、すずが判断した人達だけらしい。俺たちのじいちゃんはその条件をクリアしていなかったから、亡くなった友達に会えなかったんだと。んで、俺とかけるは条件を満たしているか慎重にすずに調査された。その結果俺たちはクリアしていたから会えたんだよ。それと、お前が海に落とした懐中時計があっただろ?あれ、元々すずが落としたものなんだって。それを俺たちのじいちゃんが拾って、お前の手に渡ったんだ。」
「そうだったのか……。」
ものすごい勢いで説明する兄の話に、なんとか相槌をうつ。兄は続けて
「その時計を追って、亡くなった俺を気にかけてくれていたらしい。俺は全然気づかなかったけれど、ずっと俺のことを見ていたんだって。だから、あの時お前が懐中時計を落としてくれたおかげで俺たちはまた会えたんだよ。もう自分を責めるんじゃないよ。」
優しい顔で、そう言ってくれた。兄らしい言葉だと思った。でも、あの懐中時計は兄が死んでしまう理由にもなったはずだ。
「納得いかないよ。そもそも、僕が!僕が懐中時計を落とさなければ、お兄ちゃんは死ななかったでしょ!?だから、やっぱり僕のせいだよ。ごめんなさい。本当にごめんなさい。お兄ちゃんのこと大好きなのに……。」
申し訳なさと虚しさが込み上げてくる。目をぎゅっとつむって必死に謝った。
「かける……。あのな。」
僕が目を開けると兄は悲しそうな顔をしていた。
「俺……。かけるが、あの日、時計を落とさなかったとしてもあの海で死ぬ運命だったんだ。」
「そんな……。どういうこと?」
兄の言葉を僕はすぐには理解ができなかった。
「神様から聞かされたんだ。本当は船で足を滑らせて、海に落ちるはずだった。だけど、かけるが時計を海に落としたことで俺の運命は変わった。すごいぞ、お前。俺の運命を変えちまったんだぜ。そのおかげで、すずに、もう一度かけると会わせてもらえたし。ありがとうな。かけるは俺の自慢の弟だよ。」
兄は歯を見せてニカッと笑った。
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