クジラの秘密【上】
夏祭りの夜、すずとクジラの事を考えながら眠りについた。
明け方に目を覚ますと、そこは確かに自室だったけれど、何かが違っていた。
水中のような感覚なのだ。でも、息はできる。不思議と怖くはなかった。
むしろ、どこか安心するような感覚を覚えた。手を動かしてみると、プールの中の感触に似ていた。
その時、空間が大きく歪んだ。正しく言えば、水が揺れたために歪んで見えた。
目をこらすと、目の前からクジラが突進してきた。
ぶつかる!と思った瞬間にクジラは体をひねって、みるみるうちに消えていった。僕が戸惑っていると、クジラが消えた場所に現れたのは亡くなった兄だった……。僕の心は戸惑いと喜びが入り交じっていた。
「お兄ちゃん……。なんで……。」
「久しぶりだな、かける。大きくなったなあ。」
感心したように、僕を見ている。兄が、僕の目の前にいる。3年前の姿のままで。もう会えないと思っていたのに。
涙で兄の輪郭がぼやけた。泣かないようにしていたのになあ。
「うおっ。なあに泣いてんだよー。しょうがないなあ、かけるは。」
優しい兄の笑顔だ。懐かしい。涙がとめどなく溢れる。
「お兄ちゃん。お兄ちゃん。会いたかったよ。ずっと会いたかったよ。」
「うん。俺もかけるに、ずっと会いたかったよ。待たせてごめんな。かけるが、俺が……死んだこと、乗り越えてくれてたらさ。俺が会いに行ったら逆に迷惑なんじゃないかとか思って、かけるのこと、ずっと見てたんだよ。」
「そう……だったんだ。でも、どこから?どこから見てたの?」
「この3年間ずっとかけるのそばに居たんだ。俺がかけるの前に現れる必要があるかどうかずっと見てた。でもお前さ、ずっと自分のこと責めてんじゃん?だから俺が現れてやろうじゃないかってさ。」
最後の方は冗談めかして言った。
「だって、お兄ちゃんが死んだのは僕が落とした懐中時計を拾いに行ってくれたからじゃないか。僕のせいだよ。僕が時計なんて持って行かなければ……お兄ちゃんは死ななかったのに。」
あらためて言うと、1度引っ込んだ涙がまた出そうになった。
「かけるのせいじゃないって。俺が取りに行きたいと思ったから、飛び込んだんだし。ライフジャケット着てなかった俺も悪いし。それに、すずにも出会えてよかった。」
どうして、兄がすずのことを知っているのだろう?僕が不思議そうにすると、兄は驚いた顔をした。
「かけるも会っただろう?すずっていう白いワンピースの女の子。あの子は懐中時計の最初の持ち主らしい。70年前の夏に俺と同じ小学5年生で亡くなったそうだ。」
「え、そうなの?全然知らなかった。」
やっぱり、すずは亡くなっていたのか。
「それでな、お前のそばで魂として見守ってた俺に、声をかけてくれたんだ。かけるに姿を見せてもいいんじゃないかって。」
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