間違いなく君だったよ/メール編

尾八原ジュージ

間違いなく君だったよ

1通目


 香奈枝さん、ひさしぶり。早瀬陽一です。

 突然メールしてごめん。もしかすると、君は驚いたかもね。

 でも、どうしても確認しておきたいことがあるんだ。


 僕が入社以来ずっと、〇×駅の近くのアパートに住んでいることを、香奈枝さんは覚えているだろうか?

 11月20日の夜9時頃、僕は駅から徒歩3分ほどのところにある、タカモトというスーパーで買い物をしていた。男ひとりのわびしい夕食(時間的にはもう夜食だけど)のために、出来合いの弁当を探していたんだ。

 あの頃は何かと忙しくて、心がしぼんだようになっていた。並んだ半額弁当の前で、食べたいものが見つからずボーッとしていたとき、ふと何か閃きのようなものを覚えて、僕は後ろを振り返った。

 すると、並んだレジの向こうを、君によく似た女性が通り過ぎたんだ。彼女は花柄のエコバッグを持って、自動ドアの向こうに姿を消した。

 急いで追いかけたかったけど、すでに清算前の商品をいくつかカゴに入れていたので、それはできなかった。買い物を終え、スーパーからアパートまでとぼとぼと歩きながら、僕はグズグズと考えたものだ。もしあの時、あの女性に声をかけていたら……そしてそれが、僕の思った通り香奈枝さんだったなら、と。


 そこで聞きたいんだけど、5月20日の夜9時頃、〇×駅近くのタカモトにいたのは、本当に香奈枝さんだったんだろうか?

 他人の空似という可能性も考えたけれど、やっぱりあれは……いや、僕は間違いなく君だったと思っているんだ。でも、やっぱり確証がほしくてさ。

 もしも近くに引っ越してきたのなら、今度機会があれば会いたいな。よければ連絡ください。


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2通目


 香奈枝さん、こんにちは。早瀬です。

 この間はひさしぶりだっていうのに、長々とメールを送ってごめん。でも、やっぱり僕がスーパーで見たのは君だったんだね。

 この間も〇×駅の前で、香奈枝さんが銀行の方に歩いていくのを見かけました。また、つい声をかけそびれてしまったけど……こんなことを言うと、気持ち悪い奴だと思われるかもしれないけど、やっぱり君は美人だね。それで気後れしてしまったんだ。僕はそのとき代休をとってたんだけど、休みなのをいいことに、変な柄のTシャツを着てて、それで恥ずかしくなっちゃって。

 こんなに構えなきゃならない間柄じゃなかったはずなのに、おかしな話だね。ひさしぶりに会えたと思うと緊張してしまったんだ。でも、今度見かけたときはちゃんと挨拶くらいするよ。

 香奈枝さんも、僕を見かけたら声をかけてやってください。


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3通目


 香奈枝さん、こんにちは。早瀬です。

 会おうと思うとなかなか会えないものだね。どうも近くに住んでいるみたいなのに、タイミングが悪いのかな。

 でも、君はどうやら僕のアパートを知っているみたいだね。今朝、洗濯物を干そうとベランダに出たら、家の前の通りを歩いていく君を見たよ。

 あれは間違いなく香奈枝さんだったね。角を曲がるとき、こちらを振り返って笑ってくれてありがとう。前日にちょっと嫌なことがあって凹んでいたんだけど、おかげで元気が出ました。


 今更こんな女々しいことを言ったら迷惑だろうけど、4年前に香奈枝さんと離れてしまってから、僕はずっとそのことを後悔していました。君の人生の新しい門出に、水を差してはいけないと思って、ずっと黙っていたんだけど……。

 本当は君の送別会なんかしたくなかったし、記念品の買い出しも辛かった。君と一緒にいるときはいつだって楽しかったし、君ほど尊敬できる人には、今まで会ったことがありません。

 あの時、君に会社を辞めないでほしいと言えなかったことを、本当に後悔しています。

 もしも君の都合さえよければ、もう一度僕と会ってもらえませんか。

 迷惑だったら本当にごめん。そうでなければお返事待ってます。


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4通目


 早瀬です。香奈枝さん、昨夜はどうもありがとう。

 わざわざ家まで来てくれたのに、何もおもてなしできなくてごめんなさい。

 君がベランダにいるのに気づいたときは、すごく驚いたけど、本当に嬉しかった。申し訳ないんだけど、あの時寝入りばなだったせいか、全然体が動かなくて……実は僕は、俗にいう金縛り体質ってやつで、たまにあるんです。中にすら入れてあげられなくて、本当にごめん。

 でも、ベランダにいる君はずっと笑っていてくれたので、僕が心配しているほどは怒っていないんじゃないかという期待を持っているんだけど……いや、でも本当に申し訳ないと思っています。

 もし香奈枝さんさえよければ、また来てください。待っています。


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5通目


 香奈枝さん、こんにちは。早瀬です。

 昨日、洗面所の鏡に映ったのは香奈枝さんだよね? いや、間違いなく君だった。

 家の中をくまなく探したんだけど、見つかりません。どこにいるのかな?

 出てきてくれたら嬉しいです。


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6通目


 香奈枝さん。早瀬です。

 昨夜からベッドの下で笑ってるのは間違いなく君だよね?


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 ふと思い立って、普段使わないフリーメールの受信ボックスを見てみたら、こんなメールが届いていた。


 早瀬陽一という名前に心当たりはある。確か4年前、遠方に嫁ぐために辞めた会社の同期だが、仕事での絡みもあまりなく、ほとんど話したことのない男性社員だ。


 メールの内容に、もちろん心当たりは一切ない。

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