きっかけと親友
自慢するわけではないが、美優は昔から結構整った容姿をしていた。その分の努力は多少なりともしていたし誰にも責められる余地なんてないが。
性格に関しては……自分では何とも言えない。少しサバサバとした部分があるとは思うけど、そのことで誰かを不快にさせてはいないはず……いや、だったらこんなことになってないだろう。
とにかく街の人からは明るく出迎えられるくらいの人間ではあったと自負している。
だからか昔から結構モテた。
小学校は男子に限らず女子からも少なからず告白されたこともある。特に好きな人も居なかったので全員断った。
中学校になると人も増えるのでそれに比例するように告白も増えた。ほぼ週一ペースで下駄箱に手紙が入ってたりするので、何度かその場で破り捨ててやろうかと考えたことすらある。
周りの目があるので流石にしなかったが。
この頃からだろうか。女子からの嫉妬によるやっかみが増えたのは。
最初はちょっと無視されたり言葉の端々にトゲがあったりする程度の可愛いものだった。こんなものは女子に限らず男子でもある小さな事だったので、美優は気にせず放置をしていた。
ただ、それを見ていた美優の親友……
小学校入学時からの付き合いでずっと同じクラスだった灯理。もはや腐れ縁と呼べるほどの長い付き合いになっている灯理だが、彼女は結構正義に厚いところがあった。
困っている人を見てたら放っておけない……って程でもないが、こういう見るからにネチネチとした陰湿な事が大嫌いな子ではあった。
嫉妬に駆られた女子が美優に当たってきて、それを見た灯理がガミガミと怒り出し、それを苦笑しながらも諌める。
この構図は中学校を卒業するまで続くことになった。
灯理との腐れ縁は途切れることはなく、地元の進学校へと共に入学を果たした美優達。
中学校と比べてもかなり人数が増えたのでクラスも勿論多く、灯理とは初めて別のクラスになってしまった。
灯理は『イヤだああああ』と言って崩れ落ちていたが、隣のクラスなんだし『休み時間一緒に居よ?』と言えばキラキラした瞳で頷いて機嫌を取り戻した。
思えば、この辺りから歯車が狂い始めたのだと思う。
人数が増えるということは勿論、美優に告白する人も増えるということ。
中学校に比べれば綺麗で可愛い人は多少なりとも増えていたのだが、如何せん美はその中でもちょっと抜きん出ていた。
数週間も経てば美優は学年一の美少女……マドンナとしての地位を確立していた。美優自身はそんな地位を望んでいたわけではないが、容姿を褒められることは嬉しかったのでその扱いを嬉々として受け入れることにした。
日に日に増えていく告白。だがもちろん他に増えていくものがあった。
中学校の頃にもあった女子からのやっかみだ。だがその頻度と陰湿さは中学校の比ではなかった。
下駄箱や机の中には毎日のように、罵詈雑言を紙の空白が見当たらない程に書き連ねた手紙が何通か入っていた。もちろん差出人はわからない。
実害が無いとはいえ、毎日毎日こんな手紙を送られると流石に捨てるのが面倒になって少し気が落ちてしまう。
うっかり机の中に入れたまま忘れた教科書がビリビリに破られていることもあった。ここまで恨まれることしたのだろうかと首を傾げつつ、流石にこれは実害と言えるので先生に報告させてもらった。
犯人は見つからなかったが、何故か下駄箱への罵詈雑言お便りが倍になっていた。
極めつけは露骨な無視。男子の目があるところでは普通に接してくれるのだけど、更衣室など女子だけになると美優を居ないものとして扱うかのごとく無視される。
流石の美優も犯人と手紙を送ってる人物が同一で、なおかつかなり怒っていることには気が付いた。
が、対して怒ることもなかったのはひとえに灯理の存在があったのが大きい。
お昼は灯理の教室へと行き毎日昼食を共にしていた。灯理は美優への仕打ちに関しては何も知らなそうで無邪気な顔をしており、それが殊更美優の心を癒すことになっていた。
その時美優はぼんやりと『このままクラスに馴染めなくてもいいや』と考えていた。昼のこの時間さえあれば……と。
しかしある日美優は灯理にお昼の同席を断られることになる。
どうやら同じクラスの仲の良い子がどうしてもお昼を一緒に食べたいとのことらしく、美優は他の人が同席するのを嫌がるだろうから今回だけと。
美優は少しムッとしたが、確かに灯理以外の人が居ると飯が不味くなるとは思っていたので不承不承首を縦に振った。
その日から灯理とお昼を共にすることが少なくなってきた美優。
そして親友の目が少しずつ変わっていくのが美優にはわかった。今までみたく好意的なものがどんどんと消えていき、猜疑的に……そして嫌悪感に満ち溢れたものへと。
何か変なこと吹き込まれたのだとすぐに気付いたが、もう遅かった。灯理のクラスに入ろうとすると見知らぬ女子達が邪魔するようになっていたのだ。
無理矢理突破しようと思ったこともあったが流石に数に勝てるほど人をやめてるわけではない美優は、諦めて灯理のクラスに行かないようになっていた。
それから下校中や地元で灯理と接触しようと試みたこともあるが、何故かいつも女子を引き連れていてガードが固い。
スマホの連絡先は全てブロックされて通じない。
ここまでやって美優はやっと気付かされた。『あぁ、嫌われたんだな』『灯理のこと大好きだったんだ』『思ったより悲しいな』と。
その日の夜はずっと泣いていた。
☆☆☆
(───灯理、どうしてるんだろ)
ギクシャクした教室内に見飽きてきた頃にふと頭に浮かんだのは親友だった人の顔。
付き合いの長さだけで言えば家族以外ではダントツ。正直家族よりか心を許している程親しくしていた少女──灯理。
流石に親友だった人の死に対して何も感情を動かされていない、なんてことはないと思いたい……と少し希望的観測を抱く美優。
美優へのイジメの首謀者的存在であった二人がこのような扱いを受けているということは、少なくともこのクラスないし学年──もしかしたら学校全体にイジメの内容が露呈している筈。
そうなればもちろん灯理を使った精神的攻撃のことも……みんなに知れ渡っているだろう。それを灯理が耳にしないことなどあり得ない。
その際に灯理がどんな反応をするか……美優には全く想像ができなかった。
(……行くか)
一息吐いて覚悟を決め、教室から出る。
幽霊のような存在のため扉をすり抜けて廊下へと出ると、真っ直ぐに灯理がいるはずの教室へと向かう。
もしかしたら道中に居ないか気を配りながら見ていたが、見掛けることなく目的の教室へと辿り着く。
そしてもう一度一息吐いてから、中へと入った。
(……あれ、いない)
折角の心持ちが無駄になった。
私と食べる時も、嫌われてクラスの人と食べていた時も灯理は決まって自分の机で弁当を広げていた筈だったが、その姿は見当たらなかった。
もしかしたら他の場所で食べているのかもと思って教室から踵を返そうとしたその時、
「はぁー、灯理まだ学校来ないんだー。めっちゃタイクツなんだけど」
「わかるぅ。あのバカが来ないとつまんないよねぇ」
「自分から突き放しといていざ死んだら大泣きとかほんと笑ったわー。あれ動画にしときゃ良かったー」
───聞き捨てならない言葉が耳に入った。
死後とは切ない がじるん @gajiguni
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