妖黄泉道ーアヤカシヨミチー

アリエッティ

堕ちたらおいで..。

 生きている頃の話はしたくない。自分で選んだ道なんだから、後悔は無い


「空ってあるんだ。」「目覚めたか」

死んでも余り世界のいろは変わらなかった。三途の川とか、そういうのあると思ってたけど。


「あなた誰?」「それを聞くか。」

そばにいたのは狐面の和服の人、性別はわからないけど男だと思っておく。正直人かどうかもわからないけど。


「見ての通りの存在だ。」

「見たことないから聞いてるの」

「そうか、ならばかすみと呼べ。それでいい」

得体のしれない『ソレ』は正体よりも名を名乗った。距離を取ったのか不器用な自己紹介か。それよりも彼の振る舞い、口に咥えて演奏している笛の音が鼓膜に響くのが気になった。


「友達はいないの?」

「まさか、知り合いばかりだ。共にいないだけで孤独扱いか、悲しいな」

 面で表情は見えないが悲しんでいるようには感じられない。独りを楽しんでいる気さえする。視野が狭くなる、古い街並みのこの場所が何処かもわからないし、何で辿り着いたのかもわからない。わかっているのは直前の記憶


「……。」「どうした?」

「嫌な事、思い出した。

..ところで此処ってどこなの?」

「黄泉だ。」「天国か」

「少し違う」

一か八かで言ってみた。わかっていた筈だけど、天国だとしたら死を確実に実感できたのに。

「なんで笛を吹いてるの?」

「..質問が多いな。これはお前の為だ何せ自殺をしたのだからな」

「うん、したよ私。」

理由はなんだっけ、いじめ?

余り覚えてないけど命を断つ理由なんて悪い事に決まっている。


「ネガティブっていけない事なのかな私生きてる間ずっとそれだった。」

「わからないが、それで命を断ってるんだ。だとすれば悪いのだろう」

「...だーよね。」

「それを死に追いやった連中がな。」

「..だね。」


霞は多分わかってる。

言葉の意味も、在り方も。そういう人が、ここにやって来るという事も。


「私、これからどうなるのかな。」

「妖の本質を知っているか?」

「妖?」「周りを歩く連中の事だ。」

 だらだらと気怠そうに歩く異形な者たちは、虚ろな目をして無心に映える普通ならば思う事もあるのだろうが、今の私には自由で平和に見えた。


「愉しそうだね。」「正気か?」

「私もああなったりして。」

「...いずれはな、自殺という事は魂と身体を引き剥がしたという事だ。今は人の形を保っているが、放っておけば異形のケダモノに姿を変える。」


「意外によく喋るんだね。」

「説明をしているだけだ」「そっか」

調子が狂う。

笛の音は嘘だ、人との会話はよくわからん。だから気を紛らせていた。


「人間は皆そうなのか?」

「今度は私に質問するの、いいよ答えてあげる。こわいよー人間は。本当に平気で裏切るし、嘘付くし」

「そうなのか..済まない。」

「なんであなたが謝るの?」「……」


それがしはこれでも、物を多く知っているつもりでいた。恐ろしかったのだ、周囲の者どもと何かを話したり、共に刻を共に過ごすのが。


「情報はある。

しかし友や恋人、家族など、動く知り合いはいない。..嘘を付いていた」

「...なんだ、やっぱり友達いないんだ

私と一緒だね。」

「お前もだったのか」「そうだよ?」

 孤独が嫌いな訳では無い。しかし、誰かに名を呼ばれる事に、少しだけ興味がある。呼ばれた事がなかったから


「勝手な願いだが、お前には人のままでいてほしい。..嫌ならいいが。」

「..方法があるの?」

「一つだけ、だがそれは凄く時間が掛かる。無理には言わん。好きにしろ」

「素直に言いなよ。

その手を試して欲しいんだよね?」

「...試してくれたら有り難い。」

某には人の事はわからない

どれだけ残忍か、人を殺める強さなど想像もし難い。無知が露呈するな。だが何故か、妖にするべきではないと強く思ってしまっていた。


「長い間、誰かと共にいる事だ。

常に共に道を歩み続ける事で、削れた魂が形を保つ。」

「誰かと一緒に過ごせば、私は人のままでいられるの?」

「..ああ、嫌なら断っていい。共に歩むなど想像を絶するような...」


「なんだそんな簡単な事か!

早く言ってよ、知らないうちに妖になるとこだったじゃん。」

「……ああ。」

笑っている、某には考えられん。

『一緒にいる』なんて嫌な事だろう?


「行こ、一緒に。」

「...いいのか?」「なんで駄目なの」

「得体の知れない獣だぞ、某は。」

「関わった人達より優しかったよ、笛の音も意味は無いんでしょ?」

「..気付いていたのか。」「へへ」

殺された意味が少しわかった。

ネガティブとやらを追いやる人にとっては、勘の良さが煩わしかったのか。

..孤独には、少し心地良い。


「向こうに綺麗な滝が流れている。

共に見に行かないか?」

「いいところ知ってるじゃん。」

「よく独りで見ているからな」

しまった、肝心な事を聞いていなかった。..しかしどう問いただせば。

「私、ほたるっていうの」

「ほたる..。」

なんだ、その必要は無いじゃないか。


「行きましょう〝霞さん〟。」

「..ああ、ほたる。」

これは友達なのか?恋人か?

まぁいい、そんな事はどうでもいい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

妖黄泉道ーアヤカシヨミチー アリエッティ @56513

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る